第26話:『弾丸のステージ』
ショーが中盤、最高潮に達したその瞬間だった。
会場にけたたましい緊急警報のサイレンが鳴り響く。
アリスの端末に政府から戦慄の連絡が入った。
「侵略者出現! 市街地接近まで残りわずか数分!」
アリスは顔を強張らせ、舞台袖の俺に駆け寄った。
「ゲンさん、どうしよう! 会場から会社は遠すぎる。
今から戻って出撃しても、絶対に間に合わないわ!」
一万人の観客が、演出か現実か測りかねてざわつく。
絶望しかけたアリスの背後で、ゼンジが不敵に笑う。
「案ずるな。この展開は想定内だ」
会場後方から轟音が響き、大型トラックが突っ込む。
客席の間を抜けステージ横へ乗り上げ、コンテナが割れた。
「飛行コアユニット、始動! ユイ、飛び乗れッ!」
純白の蒸気と共に現れたコアに、観客は地響きを上げた。
ユイはきらびやかな衣装をなびかせ、コアへ飛び込む。
「行ってくるね、ゲンおじさん。……すぐ終わらせる」
ハッチが閉まると同時に、コアは夜空へ射出された。
その進路の先、サオトメ技研の屋上からは、
既に最適な換装パーツを選択し、回転を終えた
巨大なリボルバー・シリンダーが重々しくせり上がる。
コアは一切減速せず、待ち構えるシリンダーへ突入。
薬室内のパーツへ、弾丸の如く真っ直ぐドッキングし、
その勢いのまま、戦闘機となって空へ弾け飛んだ。
「全カメラ接続! リアルタイムの戦場中継だッ!」
ゼンジが端末を叩くと、大型モニターに映像が躍る。
「実戦」の圧倒的な加速と、無駄を削ぎ落とした合体。
その衝撃的な映像に、会場の一万人は狂喜乱舞した。
「ターゲット捕捉。……掃除を開始する」
ユイの呟きと共に、戦闘機から鋭い火線が伸びた。
最短の軌道で敵を葬り、小隊を瞬く間に殲滅していく。
モニターの中で敵機が一つ爆ぜるたび、会場は大揺れだ。
「うぉぉぉ!」「落とした!」一機ごとに喝采が上がる。
一機撃墜するごとに、悲鳴のような歓声が突き上がる。
戦場の殺意が、そのままステージの熱狂に変換されていた。
回避に無駄はなく、最小のロールで敵の背後を突く。
跳ね上がる「いいね」と、地鳴りのような会場の拍手。
最後の敵を撃墜し、ユイから静かな報告が入る。
「……おじさん、全部終わったよ。今から降りるね」
撃墜からわずか数分。換装パーツを装着した戦闘機が、
垂直離着陸(VTOL)の噴射を上げ、会場へ舞い戻る。
ドームの屋根が開放され、サーチライトが夜を貫く。
ステージ中央へ垂直着陸し、熱気と共にユイが現れた。
乱れた衣装と、戦いを終えた者特有の鋭い瞳。
熱狂の渦に包まれ、一万人の拍手の中で立ち尽くす少女。
それは、嘘の演出を本物が超えた、英雄の帰還だった。




