第25話:『十一億円の幕開け』
会場を埋め尽くした一万人の熱気が、舞台裏まで伝わってくる。
俺は点火装置のスイッチを握り、舞台袖から二人を睨んだ。
ユイは無表情だが、アリスの指先は小刻みに震えている。
暗転。重厚な金属音が響き、ゼンジが加工した「リボルバー」の
映像が巨大スクリーンに踊る。観客の歓声が地響きに変わった瞬間、
ステージ中央のカプセルに、強烈なスポットライトが収束した。
【偽りの変身】
「――着装!」
ユイの声が響くと同時に、俺は手元のスイッチを叩いた。
カプセル内に高圧のフォグと、ガラス製の疑似氷チップが舞う。
ストロボが視界を焼き、スピーカーが氷の砕ける音を奏でる。
光が消えた時、そこには氷の欠片を散らしながら、
最新のスーツに身を包んだユイとアリスが並び立っていた。
「……完璧だ」
一万人が息を呑み、次の瞬間、会場が爆発的な喝采に包まれた。
【狂乱のダンス】
ゼンジが用意した重低音の効いたダンスナンバーが流れ出す。
アリスとユイが、特訓の成果をステージに叩きつける。
ユイのキレのあるダンスに、必死で食らいつくアリス。
懸念していたアリスのステップも、本番の集中力で繋がっている。
俺は舞台袖のモニターを見ながら、タイミングを計る。
アリスがターンの位置を間違えそうになるたび、
俺はあえて派手な照明をぶつけて、観客の目を眩ませた。
「口パク」の歌声は加工の魔法で、会場を完全に支配している。
熱狂はさらに加速する。一万人もの観客が、
目の前の少女たちが「本物の戦士」であると信じ込み、
ペンライトを振って彼女たちの名を絶叫していた。
この馬鹿げた空間を、ゼンジの演出が「聖域」に変えていく。
【虚構の完成】
「世界を守るのは、人気じゃない。……私たちの意志よ!」
ゼンジが書いた台詞を、ユイがクールに言い放つ。
ステージ裏では俺が、見栄えのために配置した
ダミーの換装パーツを、クレーンで重々しく動かして見せた。
十一億円分の「嘘」が、今、本物を超える神話として完成した。
俺は熱狂する観客を横目に、最後の一発の火花を打ち上げた。
アリスとユイが、降り注ぐ光の中で完璧なポーズを決める。
これが、俺たちの「本物の戦い」を支えるための、最高の偽物だ。




