第17話:『本物と煩悩』
ゼンジが仕掛けた「氷の変身シーン」が配信に乗った瞬間、
ネットのコメント欄は、サーバーが落ちるほどの勢いで埋まった。
だが、その熱狂を置き去りにするように、
ユイの駆る飛行ユニットは異星人の群れへと突っ込んでいく。
「ターゲット捕捉。……掃除、開始」
画面越しの発進シーンは嘘まみれのCG(演出)だが、
ユイが見せる機動だけは、一点の曇りもない「本物」だ。
無駄な旋回も、叫ぶ必殺技も、不必要な火花もない。
ただ機械的なまでに正確な一撃が、次々と敵を肉片に変える。
あまりに圧倒的。そして、あまりに合理的。
絶望的な数差をわずか数分で無へと帰したその姿に、
世界中の視聴者は、言葉を失うほどの衝撃を受けていた。
「……終わったよ。ゲンおじさん、帰るね」
無機質な報告と共に、敵艦隊の残骸を背に帰還するユイ。
ネット民の興奮は最高潮に達し、トレンドは彼女の名で埋まる。
だが、SNSの書き込みを覗き込んだ俺は、思わず顔をしかめた。
『あの着装シーン、一コマずつ保存した』
『氷が砕ける瞬間の肌の質感が神』
『クールな美少女パイロット……これこそ人類の宝』
「……おい、ゼンジ。世間の注目はそこかよ」
俺があきれて問い詰めると、ゼンジはニヤリと笑った。
「機能美だけじゃ大衆は食いつかねえって言っただろ?
戦略的勝利だ。これで次の予算は倍増確定だな」
俺は画面の中で「氷の撃墜王」と崇められている、
まだ中学生のようなユイの後ろ姿を見つめた。
「……国民よ、お前ら。……そんなにロリコンが多いのか?」
技術の粋を集めた換装システムが、まさか連中の
「煩悩」によって支えられることになるとは。
俺は深い溜息をつきながら、帰還したコアのハッチを開けた。




