第15話:『空洞の英雄』
サオトメ技研が「本物の熱狂」に沸く一方で、
ゲンが去った「ギャラクシー・エンターテインメント」の
巨大ドックには、かつてない暗雲が立ち込めていた。
現場を支えていたゲンの精密な「調整」という魔法が解け、
機体には目に見えない歪みが蓄積し続けていたのだ。
演出はいつも通り、豪華な火花とド派手な搭乗シーン。
世界中の視聴者は、英雄レオのキメ顔に熱狂していた。
だがその裏側で、三機の駆動系は限界の悲鳴を上げる。
整備士たちは青白い顔で、制御不能な数値を睨んでいた。
そして先日の出撃で、ついに「その時」が訪れた。
「合体! ギガ・フォォォォォ――ッ!?」
レオの絶叫が、恐怖の悲鳴に変わる。
ゲンの不在でわずかに狂った、三機の同期設定。
空中合体の瞬間、二号機が三号機の翼を叩いたのだ。
激しい金属音と共に、合体プロセスは無残に失敗。
バランスを失った二号機は、制御不能のまま地上へ墜落。
パイロットは一命を取り留めたが、全身骨折の重傷だ。
世界に配信されたのは、無残に爆ぜる玩具の残骸だった。
だが、本当の地獄はそこから始まった。
三機で合体するロボは、三機揃って初めて価値がある。
一機でも欠ければ、残された二機はもはや合体できず、
巨大な粗大ゴミ、もとい、ただの観賞用機械に過ぎない。
防衛兵器としての機能を、完全に喪失してしまったのだ。
「急げ! 予備の新型機を今すぐ実戦に投入しろ!」
社長が怒鳴るが、開発ラインは完全に停滞していた。
ゲンの引いた「極限まで無駄を削り、演出をねじ込む」
という狂気の設計図を理解できる人間が、もういない。
人気という虚構で築かれた黄金のドックは、
たった一人の職人を失っただけで、
内側から音を立てて、崩壊し始めていたのである。




