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じい様の後を追って家に帰り着くと、またもや予期せぬ来客が玄関先に座り込んでいた。
「ドニ爺さん、おはようございます。」
存在感を放って玄関先に座り込んでいた男、がっしりとした体つきに日焼けた肌、長い髭、全く狩人の概念のお手本のような男、狩人衆親方のオッドであった。
「おお!オッド!どうしたんだ?」
じい様が声をかけ、彼を家の中へ通した。
「リーシュ、彼に何か飲み物を出してやってくれ。」
私は頷いて、挨拶を交わし合う2人の為に弱目のエールを樽から取りに行く。
いつもはオッド達が狩ってきた獲物を買うのによく顔を合わせるが、こんなに朝早く家に訪ねて来たことは無い。
じい様も気になるようで、挨拶をそこそこに切り上げてテーブルに着くよう勧めている。
心なしかいつも堂々としているオッド親方も髭を撫でる回数が多い。
何か後ろ暗いことがあるのか?
「どうぞ。」
私は2人へエールを出して、ちゃっかりじい様の隣、かなり端へ寄って座らせもらう。
「それで?お前がこんな時間に来るなんてとても珍しいじゃないか。」
じい様とオッド親方は簡単にジョッキを交わすと、じい様がすぐに切り込む。
オッド親方は私を方をチラリと見たが、すぐにじい様へ視線を戻して、重い口調で話し始める。
「町長から今朝通達があった。
今回の急な軍の駐留はな、聞いて驚くなよ、なんと今後の北方地域探索のための砦建築が目的だとよ!」
親方は一息で言い切ると、エールを豪快に煽った。
「砦だと......?」
「町長のやつ、俺たち狩人にはなんの話も通さなかった!
どうせ材木商の連中は、砦建設の為に材木が輸送費も無く高く売れんだよ!」
親方は続けてエールを飲み干すと力いっぱいテーブルへ叩きつけた。
彼の剣幕に、私はエールのおかわりなんて聞けるはずも無かった。
「なるほどな。
してどうするつもりじゃ?」
「それを相談しに来ました。
こんな段階になって反対なんてできんが、どう手を打つべきか。
夏は冬の為に獲物を取れるだけ取るべきだ。」
じい様は息を吐きながら椅子に深く腰掛けた。
「リーシュ、この件についてお前が知っていることも全て話してくれ。」
ここで話すの!?
親方がギョッとした目でこちらを見たのが分かった。
「え、うん、はい。
私が昨日学者のお弟子さんに聞いた話も、この駐留は砦を作る為だって言ってました。
あとは、砦は今朝会った魔術の先生の研究の為とも。」
私は頭を捻って昨日の会話を思い返したが、案外情報量が無い。
「砦は確定事項のようじゃな。
研究については何か聞いとらんのか?」
じい様が続けて聞く。
「えっと、研究は先生しか詳細は知らないみたいなの。
門がどうとか言ってた気もするけど、よく分からなくて、弟子さんも知りたがってたわ。」
ダンッ。
親方が突然いすを蹴倒して立ち上がるものだから、じい様と2人茫然と親方を見つめてしまう。
「殴り倒してやろうか、その先生とやら!
こっちの生活を引っかき回しやがって。何が目的か洗いざらい吐かせよう。」
目が不自然にギラギラしていて怖さすら感じる。
「落ち着きなさいよ。
あっちも我々の協力が必要なんだ。飢え死にさせたりはしないよ。
だが我々狩人衆も彼らにとって有用な町人の数に入れてもらわなければ。
その方法を皆と相談しよう。」
流石だ。じい様はかなりさっぱりして着席を促した。
「はい.......。」
親方は力が抜けたように椅子へ座る。
「これはオッド、お前に任せるべきだと思うが、まず砦建設の動向を探ろうじゃないか。
どうせあと1、2個隠し立てがありそうな気がするが、建設の流れが分かれば少なくとも向こうの需要も分かる。」
需要?そんなの.......
「需要と言ったって、そりゃ材木でしょうよ。」
そう!私は親方の言葉に頷いてみせた。
「いや、この山のことを誰より知っているのは狩人衆だ。事実、今朝方その先生とやらがわしに山案内を頼んできた。
砦の規模によればこれまでの狩場が使えなくなる。材木商より早く測量隊に志願しよう。
それと同時に駐留部隊側の責任者へ、我々狩人衆の商品を最優先で買ってもらうような契約が必要になるかもしれん。」
しかし親方は怪訝な顔している。
「ドニ爺さん、測量部隊の件はなんとかしよう。
ただなぜ我々の商品をまず駐留部隊に買ってもらうんだ?
これまでのように町民に売るのではいかんのか?」
確かに、もっともな疑問だわ。
私はじい様を覗き込んだ。
いつも明瞭な返答をするじい様だが、その時はテーブルの上に組んだ手に頭を載せて考え込んでおり、しばし返答を待たなくてはならなかった。
「これは、わしの年寄りによる心配しすぎの可能性もあるがな、もし駐留部隊が何らかの理由で狩人衆を丸め込みたいがために我ら以外の町民へ食糧を提供した場合、我々に対抗手段がなくなる。」
えっと、つまり....?
しかし親方の方が反応が早かった。
「それは!
町民を捨てて需要の大きい駐留部隊に食糧を流すということか!?了承できんぞ!」
親方はまた立ち上がりそうだ。
怒られているわけじゃないのに、彼の怒声に身が竦み上がる。
「分かった。この話は無しにしよう。
ひとまず砦建設の動向を確認して、狩人衆とまた仕事の割り振りを確認しよう。」
じい様は手で親方の剣幕を制止する。
これを受けて、親方も前のめりの姿勢を正した。
「ゴホッ、すまん、熱くなりすぎた。動向の確認の件、分かった。」
良かった、すぐに話がまとまるみたいだ。
「リーシュ、すまんがもう一杯だけエールをもらえんか?
この後すぐに町長のところへ行ってみよう。」
私は頷いて彼からジョッキを受け取る。
2人の話は今年の獲物の話に移ったのか、親方のジョッキを持って戻ってきた時には、どこの沢で何の跡があったのかの話を熱心にしていた。
親方はジョッキを受け取るなりすぐに飲み干すと、立ち上がる。
立ち上がると相変わらずの大男だ。
「オッド、これから大変だろうが、頑張ってやっていくしかない。
何かあればまたいつでも来てくれ。」
じい様と2人、オッド親方を玄関先で送る。
「ああ、また近いうちに来る。」
親方はのしのしと去っていった。
今日は朝から2件も来客があり、既に市場が開いている明るさになってしまっている。
「じい様、私今日はもう市場に行くのよそうかと思ってるのよ。
ほんとは早くに市場に行って、早めに帰って干し網を洗ったり塩の残量を確認しようと思ってたんだけど、もうこんな時間だし、先生の謝礼も受け取りに行かないとだからね。」
昨日の豪華な食事と打って変わって粗末な薄いお粥をじい様と食べつつ、今日の予定を話す。
「それなんだがね、リーシュ、お前はその先生の弟子とやらから研究の内容を探りなさい。」
これさっきの話の続きだよね......。私にも役割あったんだ。
「あのね、それは無理よ。だってその弟子も研究内容を知らないんだもの!」
「ではその弟子と協力して研究内容を探ればいいじゃないか。弟子は知りたがってるんだろう。」
うぅ......その通りです。そのせいで巻き込まれました。
「研究はこの町をもう巻き込んでいるんだ。我々にも知る権利ぐらいはあると思うがな。」
じい様は粥を食べながら、くそ、あいつがそうと知っていれば山で危険な所においてくれば良かった、などと物騒なことを呟いている。
「一応、分かったわ。
今日会ったら、私たちも研究内容を知ることが必要だって話してみる。そして協力できることだけは、協力するってね。」
じい様は満足そうに頷いた。
「それじゃ、私これを食べたら駐留部隊のテントへ行くわ。」
またハルにも会えるかしら?
私はこの面倒であるはずの頼み事に、少しワクワクしてしまっていることに気付かない振りをした。




