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冬の国の魔女  作者: 洋梨
故郷編
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最近この南北の道をすごく往復している気がする。

私は相変わらず繁盛している、南門前の町外の商人による市場を横目に通りすぎて門外を目指す。

考えてみれば、山を除けば町外に出るのだってものすごく久しぶりだ。

軽く考えていたが、駐留部隊の中を横切ってネストを探すのって、もしかして結構大胆なことをやってるんじゃないかしら?

そう思うと急に恥ずかしくなってきた。

しかし予想に反してネストたちのテントを見つけるのは簡単だった。

大ぶりなテントが並ぶ区画から少し離れて、2つ小さめのテントが並んでいた。

しかも駐留部隊のほとんどの人が出払っているようで、人の気配はあまり感じられない。


小さめのテントの内どちらかが先生とネストのものだろう。

テントまで近づいて、外から声をかけてみる。

「ネストー?テントの中にいる?

私リーシュよ!謝礼を受け取りにきたわ。」

すると右側のテントからネストが出てきた。

心なしか顔が青い。

「うん、話は聞いているよ。今は僕しかいないからね、入ってよ。」

ネストがそう言って、テントの中を示してくれる。

「ありがとう。」

テントの中は外から見ていたよりも広々としている。

床の一角が寝床なのか藁が敷かれている他には、テーブルの代わりなのか何かの木箱とどちらのものとも分からない大きな革袋が無造作に置かれているだけだった。

少しなじる気持ちも込めて、ネストに早速聞いてみる。

「昨日のこと、やっぱりすぐバレちゃったわね。

ネスト、顔が青いけど、かなり怒られた? 大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。リーシュ嬢にも結局迷惑をかけてしまって申し訳ない。」

やっぱり心ここにあらずな気がする。

そんなにこってりしぼらてしまったのかしら?

「あの、先生は?

もし体調が悪いようなら謝礼だけ貰ってすぐに帰るから。気にしないで。」

「先生はハル達と町長と一緒に山を案内してもらってる。

部隊の連中は材木商と営舎に木材を運ぶ算段をつけてる。

僕だけ留守番ってことだ。」

ネストが薄く笑う。

あれ、測量部隊の件もしかして手遅れになったかな.....って何よりネストの様子が変すぎるわよ.......。

「あ!あのね、今朝じい様と狩人衆の親方とも話したんだけどね、先生の研究内容は町民にも少しは開示されるべきじゃないかって言ってたのよ。

だから、ネストの研究を探る活動にできる範囲なら、協力できるわよ!」

励ましのつもりで言ってみたが、喜ぶ素ぶりも見せない。

「うん、ありがとう。でも、もう大丈夫なんだ。

それよりリーシュ、やってみて欲しいことがあるんだ。遠慮せず中へ入ってきてよ。」

嫌な予感がする。

このテントに足を踏み入れることに、一歩を出すことにとてつもなくためらってしまう。

「えっと、あなた今体調悪いみたいだし、謝礼を貰ってそのまま帰ることにするわ。」

笑ってネストの顔を見るが、彼が下を向くせいで目が合わない。

「ごめん、実験をやってくれないと謝礼は渡せないんだ。

実験はごく簡単だから安心して欲しい。すぐ終わる。」

あっ!ネストは一転して乱暴な手つきで私の手首を掴んで、テントに引き入れてしまう。

後ろでテントの布が下がった重たい音がした。

2人きりだ。


「実験て、何をするのよ?」

掴まれた手首を振り払う。

「ちょっとした、魔術のテストだよ。

その人にどれくらい魔力があるのか確認するんだ。なんの害もない。」

そう言ってネストは革袋からテーブルの上に水晶のような丸い玉を取り出した。

「体調が悪い時とかに握らせて、魔力量を確認するためのものだけど、健康な時でも大体握った人が持っている魔力量が分る。

これを握ってみて欲しい。それだけだ。」

「これを握ったら、すぐに帰るから。」

ネストが静かに頷いたのを見て、私は木箱の上にある透明な玉を握る。

ちょうど卵くらいの大きさで、手ですっぽりと包み込める。

「これを握ってどうすればいいの?」

「何もしなくていい、だんだん玉の色が変わってくる。」

そう言われて手の玉を見つめる。

確かに少しづつ青みがかった色へ変化してきた。

そうして昨日買った腰紐のような真っ青に変化して、色の変化は無くなったように思われた。

「何色になった......?」

ネストが(うめ)くように聞くので、正直に答える。

「青色よ。真っ青だわ。

これがなんだってのよ?」

しかしネストは首を振るばかり。

「何も無いんだ。ただその玉が壊れていないか確かめたかっただけだよ。

謝礼はこれ、あいにく軍票だけど、銀行に行けば換金してもらえる。ちゃんと王室印も入ってるから。」

そう言って分厚い封書を手渡した。

本当にかなりの額が入ってるみたいだ。

「本当にこんなに貰っていいの?

私たち、あなたの先生に少し山を案内しただけよ。」

「いいんだ。先生はかなりの金持ちだからね、それくらいは当然なのさ。」

ネストはやっと本当にちょっとだけ笑った。

「分かったわ。

あなたも体調が良くないみたいだから、留守番なんて()ねてないで、本当に休みなさいよ。」

私も実験が本当に簡単なものだったから拍子抜けしてしまった。

それじゃ、とテントを出たところで話しかけられる。

「ごめん、昨日はあんな風に言ったけど、僕たちが来た事、君たちにとってはいいことばかりじゃない。」

そうだけど、でも、

「ネストが言ったって、しょうがないわ。

それにね、悪いことばかりってわけじゃ無いかもしれないじゃない?」

私はネストに貰ったばかりの封書を掲げて笑ってみせる。

「強いね。」

ネストはそう言って一瞬(まぶ)しそうに笑ったけど、すぐに真顔に戻って、「また」と言ったきりテントに戻ってしまった。

あら、まぁゆっくり休めばいいわ。

私は手の中の封書を見て少しニヤけた。

今は銀行までの道のりは考えないでおく。

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