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14.ゆるりと人助けをする

「腹減ったー」


 空腹が食事時を知らせてくれる。

 ボクは採取の手を休め、鞘にナイフを仕舞い込む。

 日が高い。きっと今が正午なんだろうね。

 さっそく食事にしようと、二日前に買った串焼きをアイテムボックスから取り出すことにした。

 異空間に右手を入れる。串をつかみ、抜き取っていく。

 手のひら大のボア肉が、四枚刺さっている姿が現れる。

 ボクは食べる前に挨拶を済ませる。「いただきます」と声に出し、すぐに肉を一口にする。


「あっつぅ」


 まだ焼き立てのように熱があるね。

 塩気も効いて芳ばしい。


「美味しい」


 拳ほどある肉を一心不乱にかぶり付く。

 鉄貨二枚。2000ルードもした。

 値段が高い分だけ味がいいよね。


「それにしてもまだ暖かい。焼きたてと変わらないね」


 アイテムボックスに入れてから二日ほど経つが、冷えることなく暖かいままだ。

 むしろ作ったばかりと変わらない状態を維持している。昨日も食べたけど、前日と差分が分からないほどだ。

 もっと買えばよかったと今にして思う。


「ごちそうさま」


 美味しかった。お腹がいっぱいだよ。

 串は一本で十分だ。小食だからおかわりの必要がない。決して体が小さいからじゃないよ。燃費がいいだけなんだからね。


 お腹も満たされたので薬草の採取を再会する。

 以前の場所と違って、ここには、薬草が豊富にあるみたい。ダンジョンから流れてくる魔素のおかげだろう。

 目に魔力を集めてみると、その色彩豊かな世界が見えてくる。


「やっぱり綺麗だね」


 美しい情景に浸るボクは、薬草の採取に集中していく。

 さっそく青い草を発見すると、腰から採取用のナイフを抜き取り、根のある地面に刃を向ける。

 おっと忘れていた。

 作業の前に準備が必要だ。

 ボクは両腕に魔力を集めていく。

 手のひらを魔力でコーティングしないといけないからね。触れたときに変質する薬草の劣化を防いでくれるからだ。

 ついでに魔力をナイフにもまとわせる。

 土の付着を防ぎ、切れ味が良くしてくれるからね。


「これでいいかな」


 慣れた手付きで根を掘り起こしていく。ある程度進めたら、優しく地面から青い草を引き抜いていく。

 上手くいったね。

 ボクは次の薬草に狙いを定め、作業に没頭していく。


「これで最後にしよう」


 普段の三倍は早く終わった気がする。思ったよりも短い時間で作業を終えることができたみたいだね。

 これなら今後も期待できそうだよ。

 明日も同じ量を採っても採り過ぎる心配がないからね。

 それにしても、まだ帰るにはまだ早い気がするなあ。

 もう少し余分に採っておくのもいいかもしれないね。


「まあ、それは後でもいいかな」


 ボクはアイテムボックスから汚れた布と魔導油を無為に取り出していく。

 魔導油は錬金術で作った一品になる。これをナイフに塗ると、その部分に魔力をまとわせることができる。

 汚れた布に魔導油を少し垂らし、ナイフの持ち手も含め、油分を伸ばしていく。

 これでいいかな?

 一旦休憩にしよう。


「ん」


 疲れた。

 のどが渇いてきたね。

 そろそろ水分補給をしたいところ。

 おや。

 あそこにあるのは野生の桃だよね。


「桃か~」


 桃と云っても、前世の桃ではない。

 小さく形がいびつ。それでいて丸く、紫色をしている。

 この世界ではこれが桃になる。

 当然、前世の言葉と発音が違っていし、種類も見た目も違っている。それでも言葉の意味が桃になる。

 認識の違いだろう。味は似ているが、桃は桃でしかない。

 そうした食べ物は他にもある。

 異世界だから日本語と聞こえ方が違うけど、意味が同じになる食べ物が多くある。

 サーモンを鮭と呼ぶように、チェリーをさくらんぼと言うようなものだろう。

 ちなみに桃は街でも売られている。

 野生の物とは違い、栽培した物は形が良く、大きさが倍以上になる。

 ボクは桃の木に近づいていく。


「うーん」


 手が届かないなあ。

 ボクの身長よりも三倍ほど高い位置に実が付いている。

 この木の上に登って桃を採ることはできないだろうか。

 実を1つでも採ることができれば、甘いジュースを作ることができるのに。


「どうしようかな」


 ちょっと本気を出してみよう。


「よし」


 錬金術の下位互換である魔術を使う。

 付与の陣がいいかな?

 それとも土の陣にしようかな?

 土の陣だと後片付けが面倒になるからね。やっぱり付与の陣にしよう。

 そうと決まれば話は早いよね。


「さっそくやってみよう」


 今から強化の魔法陣を発動させることにする。

 まずは陣模様の選択だ。

 錬金術スキルを使い、予め保存した魔法陣を呼び出そうと思う。

 ボクは時間があるときに頭の中で模様を制作している。今も先日作った魔法陣を思い浮かべている。


「どれにしようかな……」


 錬金術スキルのレベルが2と低いため、陣模様の保存数が120と限られている。

 限られた枠組みの中で3パターンの候補を選ぶ。

 俊敏依存に平均値上昇と筋力重視の3つ。さて、どれにしようかな。


「うーん、決めた。今回はSTRで行こう」


 ボクは陣を機動させるキーワードを言葉にする。


「アシストサークルセカンド」


 すると地面に線が浮かび上がる。

 輝く線。それが円を描き、途切れることなく模様を描いていく。

 それらは一般的に魔法陣模様と呼ばれている。円形の中で幾何学的に繋ぎ合う線になる。

 ボクはボクにしか見えないその輝きに足を踏み入れる。

 すると、暖かい光が全身に満たされていく。


「ブーストセット。フライ」


 ロールプレイ気味のボクは、意味のない言葉をつぶやいていた。

 身体がいつもより軽くなり、そのまま中空へと跳び上がる。


「よっと」


 枝に着地。

 まるで忍者でもなったかのように身軽で素早く、それでいて太い枝を揺らすことなく足場を落ち着かせる。


「にんにん」


 そのままナイフを抜き取り、桃をヘタから切り離す。

 すぐに錬金術。トリガーワードは、ディスアセンブリフュージョントゥエルフ。

 陣の呼び出しに成功する。

 同時に右手のナイフをベルトの鞘に納め、アイテムボックスから水筒を取り出していく。

 目前にある魔法陣に桃と水筒を近づける。

 一瞬にして左手に持った桃が消えて無くなる。

 右手にある水筒だけが残される。

 水筒の形に変化はない。


「成功したかな?」


 中を確認したいボクは、左手で水筒の蓋を開けてみる。

 そうすると、どうだろう。甘い香りが漂って来る。

 それをボクは一気に口の中へと流し込む。


「美味しい」


 桃の風味がするね。

 前世で飲んだ桃の水と同じ味がしたよ。

 匂いが薄く、甘さが控え目。

 これはこれでいいと思う。

 何せ、この世界には甘味が少ないからね。

 ものすごく高価で一般人には手が出せない貴重品になる。

 甘いは正義だよ。疲れた体に染み渡るからね。


「ふい~」


 ボクは数口ほど桃のジュースを堪能し、アイテムボックスに仕舞い込む。

 再びナイフ構え、採取を始めていく。

 今度は時間を忘れて、ね。


「これだけあればもういいよね?」


 気付けば数個の予定が数十個にもなる。


「ちょっと採り過ぎたかも。帰ったらベティにでも飲ませてあげようかな? ……ん?」


 今なにか動いた気がしたよね。


「ん?」


 気のせいかな?


「…………」


 気のせいだよね。


「……ふ~」


 風が気持ちいいね。

 この国の風土は日本と同じ四季がある。

 1月に春が来て、4月に初夏を迎える。

 7月に秋が来て、10月に厳しい冬が到来する。

 今は3月の晩春。穏やかな日差しが暖かく、森の恵みが爽やかな匂いを運んでくれる。


「鳥の鳴き声が聴こえてくるね」


 何の鳥だろう。ぼあぼあってさっきからずっと鳴いているよね。

 ぼあぼあ。

 ぼあぼあ。


「ん?」


 どこかで動く気配がした気がする。

 鳥じゃないよね。これ。

 もう少し時間を置いてみよう。


「…………」


 静かなる呼吸と無心の沈黙。

 瞳も閉じてみると、流れる風の音が耳で感じられる。

 遠くで鳥がさえずりを鳴らしている。

 遠くで虫が羽音を奏でている。


「……ん?」


 聴こえた。

 ボクの耳は誤魔化せないよ。

 遠くの方で草木が不自然に動いているね。


「…………」


 また聞こえたね。

 今度は草がしなる音を響かせる。

 気のせいじゃないみたい。

 もうすぐレベル1になる気配察知スキルが反応を示している。

 危険な生き物が動いているのかもしれないね。

 緊張が耳から全身に流れていく。


「どこからだろう」


 近くには居ないみたい。

 だけど遠くでもないようだね。

 危険が迫っているのなら、すぐにでも逃げるべきなんだろうけど。


「…………」


 草が揺れ、互いに擦れる音が鳴り響く。

 風に揺られる響きと違い、サクサクと奏でる生き物の足音が聞こえてくる。

 まただ。

 少し遠くからだ。


「きゃぁあああ!」


 女性の悲鳴だ。


「いやぁあああっ!」


 木々を倒す鈍い音がする。

 誰かが生き物に襲われたみたいだね。

 早く助けに行かないと、声を上げた人が危ない。

 ボクは条件反射に体を動かしていく。


 なぜだかは分からない。

 無意識に魔法陣を展開させている。

 ゲーム時代と同じ動きだ。

 無心になると、こんなにもスムーズに体を動かせることができるんだね。


 瞬く間に木から降り、すでに森の中を走っている。

 すごい速さだ。

 付与の陣を呼び出して自分から踏み入ったときの覚えがない。

 直感でいつもの陣と保存領域に無い模様を発動させている。

 おそらくゲーム時代で使っていた最高傑作の魔法陣だろう。

 無意識に設計を完了させていたに違いない。

 全身にかつてないほどの力を感じさせてくれる。


「ふっ、はっ」


 木々のすき間を走って気付くことがある。

 なんでボクが助けに行かないといけないのだろう、とね。

 無理はしない。危険からは逃げること。他人よりも自分を優先する。

 そうディアーナさんに教わったばかりじゃないか。

 それでも身体が勝手に動いてしまう。

 仕方がないよね。ボクは男だからね。困っている女性を見付けたら、助けに行くのは当然のこと。ボクは声のする方向に進んで行く。


「フュー! リリーの容体を確認して!」

「分かった! 任せろ!」

「あたくしは敵を抑えます!」

「お願い! 私も援護するわ!」


 魔物の叫びだろうか、甲高い音が聴こえてくる。


「こいつはやべぇぞ。ミュー! このままだとリリーが死んじまう!」

「ミューリー! あたくしのシールドガードでは耐えきれません!」

「フュー! リリーの治療に専念して! レッチェはそのままでお願い。もう少し耐えて!」

「今やってんよぉ! 血が止まらねぇんだよ!」

「ミューリー! 早く助けて下さいな! あたくしの手に負える相手ではないみたいです! 攻撃の準備はまだですか?」

「レッチェ! ありがとう。もういいわ!」


 声がはっきりと聞こえてきた。

 もうすぐ見えてくるはずだ。


「リリー、リリー! おい! しっかりしろ! ミュー! リリーが死んじまう!」

「ポーションはどうしたのよ! あるだけ使いなさいよ!」


 視えた。

 女の子が二人で魔物と交戦中。


「ブギャー!」


 ワイルドボアだ。

 脅威度ランクF。

 巨体で食用としても有名な魔物だ。

 資料室でも見たことがあるね。


「レッチェ! もう一度防いで!」

「分かりましたわ! シールドガード!」


 背の高い女性が盾を構え、ワイルドボアの攻撃を引き付ける。


「くうぅぅぅ! ミューリー! 今ですわ!」

「ありがとう! これでっ!」


 背の低い女性が大剣を持って切り掛かる。

 どうやら戦いの型にはまったらしい。

 しばらくは二人で大丈夫なはずだ。

 それよりも、少し離れた場所で女の子を解放する女性の方が危険だ。

 ボクは二人に近づいていく。


「だめだ。だめぇだめぇだめぇだめっ! リリー! おいっ! 目を覚ませ!」


 少女が意識を失っている。

 錯乱している女性が屈んでいる。

 少女の身を案じ、パニックになっているのだろう。

 ポーションを振り掛けて使ったようで、少女のローブに血がにじみ濡れている。


「ちょっとどいてくれないかな?」

「なんだよ! お前は!」


 近づいて話し掛けてみたけど、冷静さを失っている。

 会話ができる状態じゃない。


「仕方がないな」


 ボクは地面に巨大な魔方陣を展開する。


「ヒーリングサークル」


 トリガーワードを言葉に陣を発動させる。

 女性と少女を含む円陣が姿を現した。

 陣を踏むボクは、強制的に効果を発現させる。

 瞬く間に魔素の輝きが円陣の中に集まってくる。

 これは応急処置だ。

 魔法陣を使った治癒行為。

 効果は光魔法100レベルに相当する。


「これは? 回復魔法か! あんたは一体なにもんなんだ!」

「フゴォフゴォフゴッ!」

「きゃぁあああっ!」

「フュー!」


 ワイルドボアの体当たりで盾の女性が吹き飛ばされる。


「話は後にしてもらえますか!」


 ボクは返事と同時に新しく魔法陣を離れた位置に展開する。

 腰にあるショートソードを抜いて、ワイルドボアの後ろに回り込む。

 できるかな?

 いや。

 意識するな。ゲームでの感覚を思い出せ。

 ボクは頭で考えるのを止める。経験と勘だけを頼りに、柔らかい地面に踏み込みを入れていく。

 そして、振り上げの動作から振り下ろしの型になるソードアタックの姿勢を取る。

 剣術スキルの基本技。

 ゲーム時代でも必ずお世話になる、ノンディレイアーツになる。


「ブォオオオォオオオーッ!」


 通った。

 ボクのソードアタックがワイルドボアの毛皮に小さな傷を生む。


「二人とも! 今のうちに下がって!」

「助成感謝する!」

「どなたか分かりませんが、死なないでくださいね?」


 ワイルドボアのヘイトがボクに向けられる。


「ブフォ、ブフ、フゴフゴ」


 デカい。

 対面するとその大きさが分かる。

 資料によると、一メートル級だと書かれていたが、実際に見ると、その三倍はありそうだ。


「来い!」


 さっき作った魔法陣におびき寄せて一撃を狙おう。


「フゴッ!」


 ワイルドボアが前脚を軽く上げている。

 もうじき突撃が来るはずだ。

 そう思って横に飛んで回避行動を試みる、が。


「うぁあっ!」


 突然と突風が舞い、身体が浮き上がる。


「あっ」


 思わずショートソードの握りを放してしまう。

 ワイルドボアから離れるように着地し、倒れそうになるのをどうにかこらえる。


「くそっ」


 卑怯だぞ。

 ボアのくせに風魔法を使うなんて反則だよ。

 ゲーム時代でもこんなことはなかったはずだ。


「気を付けて! ストラックボアは風魔法を使うわ!」


 なにそれ。

 聞いたことがないんだけど。

 ボクの知識にはない。


「ブギャアァアアアァーッ!」


 しまった。

 このままだとやられてしまう。

 ワイルドボアを改め、ストラックボアが体当たりを仕掛けてくる体勢になる。

 何か身を守る手法はないだろうか?

 どうしよう。

 何か打開する案がないだろうか。

 時間が無いぞ。

 早く考えろ。

 せめて守りに適したアイテムがあればいいのに。

 ポーションはどうだろうか?

 一撃喰らって回復するなんていうのはどうだろう。

 ダメだ。リスクが掛かり過ぎる。

 当たり所が悪かったら死ぬかもしれないし、痛みが強すぎて動けなかったら意味がない。

 だったら魔法陣はどうだろう。

 攻撃の陣を展開させるのはどうだろうか?

 いや、それもダメだ。

 巻き込まれでもしたら死ぬ未来しかない。


「ブフォ! フゴッ! フゴッ!」


 来たか。もう時間がないぞ。

 せめて錬金術で防具を作れたらいいのに。

 実際にはできる。けれど、今のボクには無理な行為だ。

 武具を生み出す無の陣だったらできたかもしれないけど、すでに時間がない。


「あっ!」


 いや、行けるぞ。

 唯一得意な魔法の才能を使えばいい。

 天人族の特性にある無魔法を扱えば行けるかもしれない。


「何をやっているのよ! 早く逃げなさいよ!」


 もう間に合わない。

 だったらイチかバチかだ。

 盾を創ってストラックボアの突撃から防いでみよう。

 おそらくボクにならできるはずだ。


「マジックシールド!」


 うお。

 小さいけど出たね。


「ブゴッ!」


 ストラックボアの固い鼻先が黒い盾に激突する。

 その衝撃で盾が破壊となり、ストラックボアが動きを止める。

 しかしその余波で、ボクの体が浮き上がる。


「わっ」


 思考が加速する。

 不思議と条件反射的に視界がゆっくりと流れていく。

 まるでスロー動画再生のように、刻々と過ぎる時間の速さが、ゆっくりと感じられるようになる。

 ボクはそのチャンスを逃すことなく考えを巡らせていく。


「んっ」


 痛みはない。

 幸い身体に怪我は無いようだ。

 やれる。

 ボクは中空で一回転。そのまま近くの木に着地。

 足に掛かる力を利用して、ストッラクボアの背中に顔を向ける。

 しなる幹の反動を利用し、一気に跳び上がる。


「マジックソード!」


 言葉と共に現れる黒い剣を逆手で持ち、暴れるストラックボアの背中に剣先を突き付ける。

 握りに両手を重ね、落ちる速度に合わせてタイミングを計っていく。体重が乗った刃先を一気に黒い毛皮に押し付ける。

 よし。

 通った。


「ブギャアアアーッ!」


 ストッラクボアの背中に黒い剣が突き刺さり、刃が深く押し込まれていく手応えを感じる。

 その瞬間にボクは心の中で鑑定とつぶやく。

 スキルレベルが上がった音を感じ取り、直感で理解する。熟練度が大幅に上がった実感を得る。



 名前:ストッラクボア

 性別:雄

 レベル:1

 状態:健康

 ステータス:体力[4110/5120]

       魔力[2320/2520]

 スキル:?? ???? 風魔法 ???? ??



 強いね。

 すぐに握りを放し、黒剣を手放す。

 暴れるストラックボアの反動を利用して、その場から浮き上がるように地面に着地。


「こっちだ! アシストサークルファースト!」


 すかさず地面に魔法陣を作り、自らの足で踏み込んでいく。

 俊敏重視の身体強化付与が一定時間の効果を発揮する。

 軽くなった体が自然と動き出す。

 最初に設置した魔法陣のある方向に向いて、素早く脚を動かしていく。


「ギャアァアアアーッ! ブギャアアアーッ!」


 怒り狂うストラックボアが、思惑通りの動きを見せる。

 最初に設置した土の陣に誘導し、ボクは飛び越えるように通り過ぎる。

 この魔法陣にはレベル100の土魔法が仕掛けられている。

 いくら強いといっても、不意の一撃を受ければ一溜まりもないだろう。

 そう考えたボクは、本気で加速するように、そのまま走りを続けていく。


「やったか!」


 ストラックボアが陣を踏み付けた手応えを感じ、咄嗟に足を止める。すると大量の魔素が空気中に集まっていく様子を肌で感じ取る。


「ブギャアー!」


 叫び声を聞いたボクは、滑るように立ち止まり、振り返る。

 ストラックボアの腹部に鋭い岩の杭が突き刺さっている様子が見える。


「ブフォッ!」


 岩の柱が空に向かって伸びていく。

 地面から隆起する激しい音を響かせ、周囲の木々を超える長さに成長していく。

 ストラックボアの巨体が串刺しのまま空へと上げられていく。

 赤い血が岩の表面に流れている。

 続く鳴き声がない。

 岩の隆起が止まり、辺りは静かになる。

 鳥の声が聴こえてこない。

 風の音が響いている。

 気配察知スキルのレベルが上がり、同時に危険が無いことを知らせてくれる。

 脳天の一撃が効いたのだろう。ストラックボアの討伐に成功したようだ。


「凄い……」


 誰かの驚きの声が聞こえてくる。しかし、気の焦りがあるボクは、無意識に脚を動かし、横たわる少女に近づいていく。

 赤のネクタールをアイテムボックスから取り出し、そのまま差し出す姿勢を取る。

 少女を支える女性に向けて、赤い中瓶を近づける。


「これを使ってください!」

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