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13.ゆるりと北の森の薬草事情を聞く

 ごみ掃除から五日が経過した。

 今日は特別依頼の報酬が貰えるとのことで、いつもと違い、朝早くにギルドへ向かっている。

 午前中は薬草採り。

 午後は資料室へと行く予定。

 最近は好きな読書ができて嬉しいこと続き。

 スキルや魔物の種類に、周辺の地理から簡単な歴史について、道具の種類や薬とその効能に対する素材の採り方から、魔物の解体までを学んでいる。

 他にも知りたいことが沢山あって、毎日が充実している。

 ボクとって今がとても幸せなんだよ。


「おはようございます!」


 冒険者ギルドの入り口から斡旋所の広間に向けて、挨拶をしていく。

 すれ違う人たちに元気よく声を掛けていく。

 ボクは新人冒険者だ。新人は先輩を敬うもの。それは、前世のサラリーマン時代でも同じこと。新人とは、先輩方に挨拶をする義務がある。逆に挨拶をされる立場になると、声を聴くだけでも気分が良くなるものだ。

 今も挨拶をすると、笑顔になってくれる。

 この場にいる全員から注目されるけど、それほど嫌な気分はしないよね。


「ルリールさん、おはようございます」

「おはよう。今日も元気がいいですね」


 ルリール・エイペックさん。35歳。

 ルリールさんとは最近話すようになった。年配の受付職員で、大人の魅力がある。

 子供が三人いるらしく、長女に息子二人を任せ、ギルドの仕事に勤しんでいるとのこと。

 そんな彼女は、ギルドマスター席の隣で、深夜から早朝に掛けて受付担当をしている。


「イルベルさんも朝が早いですね」

「おはよう。リエルくん」


 イルベル・ホーリーさん。19歳。不定期にギルドマスターの席に居るベテランギルド員。男性から絶大な人気があり、女性冒険者専用窓口として知られている。

 若い、可愛い、フリーの三拍子がそろっているため、常に噂が絶えない人気者。

 新人の面倒見が良く、性格もおっとりしていることから、度々求婚を迫られている。

 最近はボクが男だとようやく認識してくれたようで、ボクを君付けで呼んでくれる。

 おかげで、ギルド内でもボクを女の子だと噂する人が居なくなったみたいだ。


「ディアーナさん。おはようございます」

「やあやあ。待っていたよ。リエルくん」

「はい。今日もお願いします」


 ディアーナ・ロックストーンさん。29歳。二児の母。夫の実家に子供を預け、ギルド員として働いている。

 朝から夕方に掛けて受付担当をしている。おじさんが居ないときはディアーナさんがボクの話し相手なる。

 最近はおじさんが表に出てこない。

 余ほどごみ掃除の件が大騒ぎだったのか、事後処理に追われているらしい。

 その関係から、ディアーナさんとは親しくなった気がする。


「この前話した通り、特別依頼報酬が、リエルくん宛に届いているよ」

「やった! 幾らなんですか?」

「そうだね。今渡すから、少し待っていてくれよ」

「うん!」


 そう言うと、ディアーナさんが席を立ち、奥の棚に向かっていく。

 いつもはレジのような魔導具からお金を取り出すだけなのに、今回は棚隣の金庫から持ち出してくるようだ。

 しばらく待っていると、ディアーナさんが戻って来た。


「ほら。中々の量だよ。とてもGランクの報酬とは思えないね」


 丸みを帯びた袋が見える。

 幾らになるんだろうね。楽しみだ。


「この袋の中に入った物がキミの報酬になる。安全を考え、何が入っているのかは、私でも分からない。適切な場所で管理することをお勧めするよ」


 軽く金属音を鳴らすディアーナさんが、受付皿に袋を乗せる。

 重く重なる音が響いてきた。これは期待できそう。


「こういうやり方は、Cランクの冒険者になると当たり前のことになるね。今から覚えておくといい。君はもっと稼げる優秀な冒険者になれるはずだからね」

「ありがとうございます」


 ボクはアイテムボックスにお金を仕舞い込む。


「確かに渡したよ」


 ボックス内を確認すると、金貨三〇枚に銀貨九枚が加算されていた。

 これだけあれば生活に余裕ができるね。

 後で下着の買い足しに、トイレ用の紙と、バームの実も欲しいかな。


「リエルくん。君に指名依頼の変更手続きが届いているよ。今から説明してもいいかな?」

「ええ、いいですよ」


 なんだろう。薬草採取以外の依頼かな? 気になるね。


「採取する量を三倍にして欲しいとのお達しだ」

「え、え?」


 今よりも三倍? 無理かもしれない。


「多ければ多いほどいいと、先方は言ってきている。どう? できそうかい?」

「えっと……」


 いつもの場所で薬草を沢山取り過ぎてしまったためなのか、最近は量が少なくなってきている。


「すいませんができません。南西の林は量が少なくなってきたので難しいですね」


 断るのも仕事の内だよね。ボクの力量ではこれが限界だよ。


「そう。それは残念だね。先方はリエルくんが採ってくる物にしか興味がないみたいだからね」


 ディアーナさんが小さく口を開き、「困った」と、小言を漏らす。考えるように、「でもそうすると……。いやだかがしかし……」と、つぶやいている。

 こういう時の彼女は、考えを整理しているのか、後で突拍子もない応えを口にすることがある。

 なんとなく頭がいい人なんだろうけど、もう少し加減をしてもらいたいよね。


「リエルくん。君は魔物と戦えるのかい?」

「えっと、急にどうしたんですか?」


 さっそく来たみたい。

 今回は比較的分かりやすい質問だね。


「北の森に行ってみる気はないだろうか」

「北の森、ですか? ダンジョンの近くなので、薬草が沢山採れるという噂は聞いたことがありますね」


 同じ宿に泊まるアレンに教わったことがある。


「ああ、そうだよ。おそらくリエルくんが知っていることとは少し違うだろうけどね。森には沢山の薬草が生えているよ」

「違うってどういうことですかね?」

「北西のダンジョンの近くではなく、北東だよ。君が知っているダンジョンの近くよりも少し量は減るけれども、魔物の強さが極端に弱くなるから、お勧めだよ」


 北の森には魔物が多く生息している。ダンジョンがあるので魔素が濃いためだ。様々な生き物で満ちあふれている。中には狂暴な魔物も生息している。ギルドの資料で勉強済みだ。


「行ってもいいですよ」

「本当かい?」

「ええ」


 ボクは戦闘に不向きな性格だ。見た目の通り、体の筋肉も少なく線も細い。

 女の子のように力も弱いからね。

 それでも経験豊富なディアーナさんが進めてくれた場所。

 一人でも問題がないと判断されているのだから、受けるべきだよね。


「よかった。これで指名依頼が続行できる。助かるよ。早速だが、ギルドカードの提出をお願いするよ」

「その前にどの程度の魔物が出現するのかを聞いておきたいですね」

「ああ、そうだね。当然の意見だよ」


 ディアーナさんが云うには、ホーンラビットが出るとのこと。

 それを専門に狩りをする狩人たちが多くやって来る場所になる。

 人の気配が多いので、暗くなる前に街に入れば、野盗の類は現れないとのこと。

 ボク以外の新人冒険者も多く居るため、兵士さんたちも巡回する場所になる。


「とまあそんなところだね。他に何か質問はあるかい?」

「いえ。大丈夫です」

「そう。それはよかった。了解してくれたようだし、ギルドカードを渡してくれないだろうか?」

「はい」

「うん、うん。子供は素直だと可愛いね。うちの子たちは自由奔放だから、リエルくんのように純粋で、礼儀正しい子に育って欲しいものだよ」


 ボクも純粋で礼儀正しくなんてないよ。

 だって中身がおっさんだし、毎日いかがわしいことをしているからね。


「受付完了だよ。引き続き指名依頼をよろしく頼む」

「ありがとうございます」


 ボクはカードを受け取り、ローブの内に仕舞い込む。


「それでは行ってきます」

「ああ、気を付けてくれよ。無理はしない。いいね?」

「はい。無理はしない。危険に遭遇したら逃げること。周りの心配よりも自分を優先する。ですよね?」

「覚えていてくれたのか。うれしいね」


 ボクはディアーナさんに挨拶を済ませ、ギルドの外へと出ていく。

 早朝人通りが少ない中央通りを北門へと走っていく。


「バンさん。お久しぶりですね。今日はこっちなんですね?」

「おう、坊主か。早いな。元気にしていたか?」

「はい。先日はありがとうございました。おかげ様でなんとかやっていけています」

「相変わらず丁寧な言葉遣いだな。もっと子供らしくしたらどうなんだ?」


 いつもの守衛兵長のおじさんが居たので、どうせだから見知った人にカードを渡そうと、声を掛けてみた。

 この前のごみ掃除の時にも色々とお世話になったので、ついでにボクが男だという事実を理解してもらっている。


「どこに向かうんだ?」

「北東の森で薬草採取ですね」

「ついに坊主も一人前だな」

「いえ、そんな。まだまだですよ」

「はっはっ、そうだよな! 魔物が出るからな! もしも虚勢を張るようだったら止めていたところだぞ?」

「酷いです。試したんですか?」

「当たり前だ。俺は守衛兵長だからな。坊主が魔物に襲われ、助けを呼ぶだけでも、俺は仲間を引き連れて行かなければならないからな。だったらここで坊主が外に出ていくのを食い止めるのも仕事の内だ。仲間の安全管理をしなければならないからな」


 そうだね。その通りだと思うよ。


「ごめんなさい。ボク、そこまで考えていなかったです」

「はっはっ、いや坊主はいい方だ。素直だし、聞き分けがいいからな。それよりも他のガキどもの方が心配だ。たぶん、今日も東と云いつつ、西の方に行くつもりだろう。全く信用ができん」


 ボクと近い年齢の冒険者が居るのだろう。ギルド内では会ったことがないけれど、もしかしたら時間帯が合わないのかもしれないね。


「まあ、坊主だったら問題はないな」


 冒険者カードを返してもらう。


「東はどこへ行ってもいいが、あまり奥へは行くなよ?」

「分かりました。できるだけ林になる入り口付近に居るつもりです」

「おう。がんばれよ」


 ボクは北門を通り抜けて道沿いを歩く。

 同時にチェックを終わらせた人たちが、歩きの遅いボクを追い抜いていく。

 全員が武装をしているね。ボクと同じ冒険者だろう。すれ違いに見られるので、ボクは何度も頭を下げていく。

 すぐに別の一団がやって来る。

 今度は重々しい装備をしている。人数も多く、荷車を引いている。

 ここ数日の間に見たことがある人たちだ。きっとダンジョンに行くのだろうね。

 何事もなく通り過ぎていく。挨拶の掛け声を上げると、数人か笑顔を向けてくれた。

 しばらくすると、また違う冒険者たちとすれ違う。

 ボクが挨拶の掛け声を上げて軽く頭を下げると、去り際に片手を上げて、返事をしてくれた。

 今の人たちも見たことがある。何度か朝に挨拶をした覚えがあるね。最初は怖かったけど、今では挨拶が普通に思えてくるよ。ボクも冒険者としての生活に慣れてきた証拠だろうね。

 そうして、四半刻ほど歩いた先に、森が見えてくる。

 広い道を隔てて西と東に木々が分断されるように広がっている。

 ボクは道から外れて木々がまばらにある草原を東に進む。できるだけ森に入らないように注意してのことになる。明るい場所に採取ポイントを絞ろうという作戦だからね。その場で足を止めて、視界に映る草場くさばに向けて、瞳に魔力を宿す。


「よし」


 採取を始めて行こう。

 さっそくボクは、見つけた回復草にナイフを突き立てる。

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