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12.ゆるりとギルド長に怒られる

 シーアさんが帰って来た後でボクはすぐにその場から追い出されることになる。

 帰り際にシーアさんからギルドマスター宛の手紙を渡される。

 それを持ってボクは暗い夜道を歩き、冒険者ギルドに戻って来たばかり。


「おじさん。仕事が終わりました」

「おう! 俺への遠慮がなくなったな!」

「はい!」

「だがよお、終わったっていうはどういう意味だ?」

「取りあえずの報告として、この手紙を渡されました」

「おう。見せてみな」


 ボクはいつもの席に座っているおじさんに向けて、シーアさんから託された手紙を手渡す。

 手紙には封蝋印が押されている。おじさんは貴族の紋章らしき印を外すことなく、ナイフで封筒を切り取った。

 その中の手紙を取り出し、目を細めている。


「お前さん、この手紙の内容は知っているのか?」

「ううん。知らないですね。おじさんに怒られるから聞いていないです。それがどうしたんですか?」


 おじさんが顔色を変えている。

 白い髪から覗く青い瞳の視線が手紙に向けられている。


「丁度いい。俺も交代の時間だ」


 交代の時間ということは、おじさんの今日の仕事が終りになったということだろうか?


「お前さん、少し付き合ってくれないか? 俺の部屋で話をするぞ」

「はい」


 そう言われると、付いて行くしかない。

 おじさんがカウンターから広場へと出てくる。

 そのまま階段の方へと歩いて行った。

 ボクはその後姿を追う。

 階段を二回上がり、三階の部屋の一室に入る。

 応接室に通される。壁際に書類用の大きい机が一基置かれている。


「適当にくつろいでくれ」


 そう云われても、どこに座ればいいのか分からない。

 おじさんが黒塗りの机の席に腰掛けている。

 まるで社長のように、ボクを品定めしている。


「早く座ったらどうだ?」


 四角いテーブルを中心とする二基の黒いソファーがある。

 おじさんと対面にならないので座っても意味がない。


「このままでもいいです」


 ボクのようなGランク派遣リーマン社員は、偉そうな社長ギルドマスターの前では緊張するものだ。

 そう考えると、おじさんの前で立っているのが相応しい。


「そうか。それじゃあリエル。話を聞こうか」


 話し方まで変えてきやがった。

 くつろげと云ったのは罠だったに違いない。


「はい。それでは経緯から話していきますね」

「ああ、頼む」

「ボクはギルドマスターからの指示通りに現地へと向かいました」


 こういう時は、おじさんをおじさんと云ってはいけない。

 前世で新製品開発企画のプレゼンテーションをしたことがある。

 あのときのように、丁寧な言葉遣いで分かりやすく声に出すように心掛けよう。


「着いた先でシーアと名乗る依頼人と遭遇します。ボクはごみ捨て場に身なりが整った女性が一人でいるという点に不信感をいだきました。家名を名乗らなかったという点と、封蝋印に対する取り扱い方に慣れている点からも、高確率で貴族であることを予測できました」


 貴族という言葉におじさんの目が鋭くなる。


「その後は一時的にシーアさんと別れます。ボクは一人残り作業に取り掛かります。半刻ほどで仕事を終え、その結果を知らせるために、シーアさんを――」

「おい待て」

「はい」

「仕事が早いな。何があった?」


 そりゃがんばったからに決まっているでしょう?


「意味が分からんか? 半刻でなにがどうなったのか詳しく知りたい」

「ごみをアイテムボックスに入れて分別しました」

「ああ、そうだ。アイテムボックスにごみを入れたんだよな? それを何回繰り返してごみを片付けたんだ?」


 ああ、そういうことか。


「一回です」

「あん? もう一度言ってみてくれないか?」

「一回だけです」

「一回か? たった一回で数年間放置されてきた処理待ちのごみを全部アイテムボックスに入れることできたというのか?」

「はい」

「そうか」


 なんでそんなことを何度も確認するんだろうね。


「続けろ」

「はい」


 どこまで話したか忘れちゃったじゃないか。

 えっと、確か貴族の遺体を見つけた辺りだね。


「全てのごみの分別を半刻で終えた後、ごみの中から――」

「おい、待て!」

「はい」


 まただ。

 今度はなんですか。


「ごみの分別を半刻で終わらせたのか?」

「違います。全ての作業に半刻ほど掛かりました」

「ん? どういうことだ? もう少し具体的に報告をしてくれないか?」


 なんか面倒だね。

 プログラマーの社員を管理していた上司みたい。


「はい。まずはごみをアイテムボックスに収納します」

「ああ、そうだな」


 この納得しない感じが特にね。


「全てのごみを収納するのに半刻ほど掛かります」

「収納には半刻だな」


 そうそう、このネチネチ感がね。


「分別されたごみを確認します」

「ん?」

「問題なかったので、種類ごとに取り出していきます」

「待て」


 ほらね。同じ事を何度も聞いて来たよ。

 こういうのは際限がないからね。無視だよ、無視。


「まずは生のごみから取り出します。ごみの一割がこれに当たります。匂いと作業効率を考え、岩山いわやまがある風通しの悪い場所に取り出します。次に燃えないごみを取り出します。ガラスや焼き物などが――」

「おい、そこまでだ! 取り出した場所の説明はしなくていい! それよりも分別についての意味が分からん。その辺のことについて簡潔に説明をしてくれないか?」

「え? あ、はい」


 なんだ。そういうことなら早く云えよ。


「分別はアイテムボックスが勝手にしてくれます」

「あん? お前さん、本気で言っているのか?」

「はい」


 そんなにボクをにらまないで欲しいかな。

 本当に嫌だった上司に似ているよね。


「いいか? 分かっていないようだから言うが、アイテムボックスの自動分別効果はレベルの高いスキル持ちにしかできない芸当だ」

「え? でもボクのアイテムボックスはできますよ?」

「収納ができる量もそうだな。Sクラスのサポーターでもお前さんのように持ち運べる奴なんて居なかったぞ?」

「そうなんですか?」

「ああ、そういうことか! 分かったぞ! 続けてくれ!」

「はい」


 おじさんがため息を漏らす。

 なにがそんなに不満なのかな?

 ボクは気を取り直し、報告を再開する。


「ごみの分別を終えた後で人の白骨死体を発見します。戻ってきたシーアさんに報告したところ、そのまま待つよう言われます。その後でシーアさんが衛兵を北門から連れて来たので、再びボクが兵士の皆さんに報告します。その後は帰るように言われます。手紙を受け取り、今に至ります」

「なるほど。ご苦労だったな」

「はい」


 またため息。そんなにため息を吐くと幸せが逃げてしまいますよ?


「頭が痛いな。お前さんのせいで仕事が多くなった気がする」

「はい」

「本当に分かっているのか?」

「いえ」

「まあいい。それでもう一つ聞きたいんだが、衛兵に報告するときにどう説明をしたんだ? 自分の仕事についてどこまで言った?」


 どこまでって、全部言ったんだけど。


「分別をした後で死体がごみの中から出てきたとしか言っていません」

「お前さんの非常識な能力については聞かれなかったのか?」


 ああ、そういうことですか。嘘は言っていないと思います。


「はい。シーアさんがフォローしてくれました」

「だろうな。そのときの依頼人はどんな感じだった? お前さんの感想でいい。具体的に思ったことを話して欲しい」

「なんだか疲れた顔で偉そうでした。衛兵の人たちも強制的に頭を下げていた感じでしたね」

「だろうな」


 今の質問の意図が分からない。でもおじさんは、シーアさんが貴族だということを初めから知っていたはずだ。


「最後になるが、お前さんに聞きたいことがある。今回のことをどこまで勘付いている?」

「はい? あっ!」

「ん?」


 忘れていた。

 思い出しちゃったじゃないか。

 ボクが鑑定スキルで犯人のことを知ってしまったことについてだ。


「どうした?」


 知りたがり屋は死にたがり屋。

 知っていて得をすることはない。

 せっかく忘れていたのに、思い出させないで欲しい。


「なんだ? なにか思うことがあるのか?」

「いえ」


 話の流れを変えないとね。


「あの、シーアさんは剣を使わない騎士様になるのでしょうか? 手が綺麗でした。書類仕事をされているのでしょうか?」

「お前さん……」


 話を変えるにはこの辺が妥当だろう。

 思った通り、嫌そうに眉を細めている。


「ああ、合っているな。だが彼女のことは黙っていろ。これはギルドマスター命令だ」

「はい」

「他にはないか?」

「いえ、ありません」

「そうか? 本当にそうなのか? 嘘は言っていないよな?」

「いえ、特に何もないですね」

「正直に言ってみろ? まだ隠していないか?」

「確かに言えることはあります。ですが、確証がないので報告ができません」

「そうか。それならばいい」


 またため息。その気持ち、ボクにも分かるよ。


「なあ、リエル」

「はい」

「察しのいいお前さんだから言うが、俺の言いたいことが分かるよな?」

「詮索をするな。全てこの場で知ったことは秘密にしろよ。そう言いたいのですよね? 特別依頼なので分かっていましたよ」

「そうだ。そういうことだから誰にも言うなよ?」

「はい」


 暗黙の了解で、冒険者は政治に関わることができる。

 しかし冒険者ギルドの職員は関わることができない。

 つまり、おじさんも知りたくないことが多くあるということだ。


「お前さんは優秀な冒険者だ。頭も切れる。本当に12歳か?」


 返答に困るね。中身がおっさんなのは今さらな気がする。


「えっと、冗談ですよね?」


 顔が真面目だ。これは何か言われるな。


「冗談はない。俺はお前さんに興味がある」

「えっと……」


 蛇ににらまれた蛙。ハブにマングース。今のボクの心境だ。


「まあいい」


 おじさんの表情が柔らかくなる。


「話は変わるが、空間魔法のレベルはいくつなんだ?」

「え? 空間魔法? ですか?」

「そうだ」


 何のこと? 空間魔法なんて初めて聞いたよ。


「えっと、分かりません」


 無難な回答をしてみた。


「お前さんのアイテムボックスは異常だ。一度教会でスキルレベルを調べてもらった方がいいと思う」


 そういうことですか。

 やっと意味が分かったぞ。

 ボクが今まで時空魔法をアイテムボックスだと思っていたけど、でも違っていたんだね。

 これってつまり。


「あ!」

「またか! どうした!」

「いえ……」


 ボクは勘違いをしていたんだね。

 空間魔法の上位スキルが時空魔法であるという可能性に気付いていなかった。

 時空魔法のレベルは2だ。だとすると、空間魔法のスキルレベルが100を超えているのとの同じ意味になるね。

 そう考えると、アイテムボックスの収納枠数にも説明が付く。


「あの、空間魔法になにができるかを知っていたら教えてもらえませんか?」


 突然だけど聞いておいて損はない。


「今それを聞くのか?」

「すいません。不勉強な者で」


 ちょっと笑って誤魔化す。

 レベルが高いことは知られている。今さら嘘は通じない。


「だったら資料室があるぞ。明日以降にでも誰かに聞いて許可を取れ。俺から他の奴らに伝えておく」

「あっ、ありがとうございます」


 資料室なんてあったんだ。

 知ることができて良かった。


「お前さん。急に元気になったな?」

「え? そうですか?」


 そうかもしれない。

 ボクは勉強が好きだ。

 本を読んだりするのが三度の飯よりも好物だと思う。


「なあ、リエルよ。王都の孤児院から来たと云っていたな? どこの孤児院だ?」


 いきなりどうしたんですか? さっき質問は最後だって云ったじゃないですか。


「なんでそんなことを聞くのですか?」

「いいから言え。ギルドマスター権限だ」

「うっ」


 ずるいよ。そんなことを云われると断れないね。


「エプタルエス教会聖ロベリア孤児院ですよ」

「そうか。やっと疑問が解けたな」


 聖ロベリア孤児院。

 親元を離れた聖女や問題がある貴族孤児を集める場所。

 当然ボクのような普通の孤児も居る。


「お前さん、聖女じゃないよな?」

「あの、ボクは男ですよ?」


 まさかおじさん、ボクのことを女の子だと思っているのかな?


「まあ、そうだな。男だよな? なんとなく言ってみただけだ」


 だよね。そんなはずがないよね。


「どうしてそんなことを聞くのですか?」

「回復院のババァがうるせぇんだよ。お前さんが気になるらしい。まあ、それについては別件なんだがなあ」

「はい」


 ボクには、聖女様の知り合いなんて、同級生と先生だけだ。

 ここでの知り合いは居ない。


「貴族ではない。となるとお前さんは一体どういう理由で保護されることになったんだろうな?」

「ボクは普通枠ですよ? 孤児院でも自由が利きました。普通の孤児は、養育支援年齢を超えると、外に出る決まりがあるんですよ?」


 成人してからだけどね。


「お前さん、知らないのか?」


 どういうこと?


「聖ロベリア孤児院は国営直轄だ。他の孤児院とは違う。支援者のない国の財源で管理されている施設になる。つまり王国から特別に保護された人材が集まる場所だ。この意味が分かるよな?」


 分かんないけど、多分言いたいことは分かる。

 問題児が多いってことだよね。


「でもボクは普通枠ですよ? 元貴族でもなければ、光魔法の才能がある訳でもありません」


 元貴族っていうのは怪しいけど、多分ないと思う。

 だって犯罪者の子供だったら、神父やシスターになれるように管理されることになるからね。


「いや、あそこの人間に普通の奴なんていないぞ? お前さんもその一人だ。現にアイテムボックスの件もある。俺が悩んでいる案件にもかなりのことが影響をしている。お前さんは自分が思っている以上に、周りに迷惑を掛けているんだぞ?」


 そんなことはないですよ。

 でも取りあえず謝っておきますね。


「そうだったのですか。ごめんなさい」


 つまりおじさんは、聖ロベリア孤児院の関係者に何か言われそうだと思っているのかな?


「分かればいいんだ。俺はお前さんの保護者ではないからな。監視をしている人間も居ないようだ。もしも居るようなら、お前さんをすぐにでも王都に送り返していたところだぞ?」


 そっか。ボクはおじさんに迷惑を掛けているんだね。


「俺からの話は以上だ。お前さんからは何かあるか?」


 聞きたいことはある。

 でもおじさんもボクに聞きたいことがあるのを抑えている気がする。

 そんな状態で質問なんてできるはずがない。


「いいえ、ありません」

「そうか。だったらいい。今日は下がってもいいぞ」

「はい」


 なんか怒られたので気分が悪いな。

 宿に帰ったらいつものアレでストレスを発散しよう。

 夕食も追加で注文するかな。

 お酒も飲んじゃおう。特別依頼完了のお祝いに、贅沢をしてやろう。


 うん、いいね。そうしよう。

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