11.ゆるりとごみ掃除をする
地図を片手に向かう目的地。北門の防御壁沿いを東に進んだ先にあるごみ置き場にボクはたどり着く。
ここには沢山のごみが置かれる。崖に面していて、広いくぼ地が沢山ある。
異臭が酷く、カラスのような鳥が空を飛んでいる。
道沿いを進むと一軒の小屋が見えてくる。
ここに依頼人が居るはず。昼下がりという指示なので、今だけ特別に待ち合わせているのだろう。
ボクは木の扉の前に立ち、扉の壁を軽く叩いて管理人を呼び出すことにした。
「こんにちは!」
すると中から足音が聞こえてくる。
「はーい!」
掛け声と共に扉が開かれる。
「どちら様ですか?」
若い女性が出てきた。
身なりが整っている。
書類仕事用の作業着姿に見える。
この場に似つかわしくない、絹のような光沢感を衣服にまとわせている。
もしかしたら貴族様かもしれないね。
「あら、あなたはどこから来たの?」
ボクは紹介状をアイテムボックスから取り出し、そのまま女性に手渡す。
「冒険者ギルドから来ました。こちらがギルドマスターからの紹介状になります」
「あらそう、確認するわね」
「はい」
紹介状は紙で作られた封筒に入れられている。
女性は封蝋印を剥がし、中から手紙を取り出していく。
「あなたがリエルで間違いない?」
「はい」
「冒険者証明書を見せてくれるかしら?」
「はい。こちらになります」
言われた通り、女性に冒険者カードを手渡す。
「Gランク、駆け出しね」
「そうですね」
「はぁ、これって厄介払いかしら。私って運がない?」
それってボクがクソ雑魚だからダメだってことになるのですかね。
「いいわ。さっさと終わらせて帰りましょう」
独り言が多い人のようだ。
どちらかというと、キャリアウーマンが似合う印象があるね。上司から無理やり難題を押し付けられて、出向先で困っているといった印象があるね。
もしも眼鏡があったらできる女に見えただろう。おそらく書類仕事が得意なはずだ。
「ありがとう。これは返すわね」
「はい」
「はぁ~」
またため息。どれだけボクが嫌いなんだろうね。
「それじゃあ作業の説明をするから、中に入って」
「はい」
言われた通りにボクは小屋に入る。
室内は狭く、テーブルが一基置いてあるだけ。
その上に大きな獣皮紙が広げられている。
「自己紹介をするわね。私はシーアといいます。この街の役所に臨時で赴任してきました。普段は清掃課の職員をしています」
さっそく嘘が出ましたね。
名前に家名があるはずなのに、名乗らなかったのが嘘。
役所の人間は街の定住権を必ず持っている。
定住者には家名を持つ規則がある。
そして、定住権は複数の地域権利を有してはいけない。そのため、一度外に出ると自由民になる。
自由民は名前だけの存在になる。名前だけを名乗る人は自由民だという証明にもなる。
だからこそ家名は名乗るものだ。名乗らない人は嘘ということになる。
「ボクはリエルです。アイテムボックスが使えます。ギルドマスターに進められて、今日はここに来ました。よろしくお願いします」
「ええ、そうね。手紙にもそう書いてあるわね」
それを踏まえ、シーアさんはおそらく偉い人だ。
なぜなら、封蝋印を開けることができるからだ。
あれはギルドマスターの印。
そんな簡単に渡されるものではない。
おそらく下級貴族。
貴族は家名と貴族名を持ち合わせている。
そして、貴族は信用と誇りを尊ぶ者。
名前を偽るなんてことは、余程のことがない限りしない者たちだ。
大抵フルネームで覚えろというに決まっている。
そして、下級貴族には騎士が多い。
騎士は目的のためならば何でもする。
名前を偽ることも平気でするだろう。
そう考えると、紹介された名前もあやしいものだ。
常識的に判断して、なんとなくそんな感じがするね。
「じゃあ説明するわね。簡単に言うと、ごみの分別を行ってもらいたいの」
「はい」
「どんな方法でも構わないから、五日以内に終わらせて欲しいわ」
ああ、なるほど。
意味が分からん。
「あの、外にある物を全部ですか?」
「ええ、そうよ。全てのごみを分別して欲しいの」
まじか。
どう見ても五日で終わらせられる量じゃないよね。
「あの、できなかったらどうなるんでしょうか?」
「できるまで帰れません。夜になってでも終わらせてもらいます」
なんだろう。
どうしてボクならできるってことになったのかな。
「なるほど」
こんなクソ雑魚Gランクの初心者冒険者に、こんな大掛かりな仕事を一人でさせる。
どういう理屈だろうね。
「あの、紹介状にはなんて書いてあったのですか? 差し支えなければ教えてください」
「もしもできないようなら口封じをしてもいいと書いてあったわ」
なにそれ、ひどい。
「冗談よ。もしもできなかったら諦めろと書いてあったわ。あなた以外に適材適所な人なんて居ないって言いたいようね」
そうなのかな。
アイテムボックスを持っているだけで選ばれたのだから、アイテムボックスの能力が珍しいってことなんだろうけど。
つまり、アイテムボックス持ちの冒険者がベナンの街でボクしか居ないってことになるんだろうね。
それっておかしくないかな。
スキル持ちの商人は王都でも何人か居るって話は聞いたことがあるし。
珍しい能力でもあるのは確かだけど、そこまでレアな存在でもないと思うんだけどね。
ストレージバックもある世界だし、お金持ちだったらその辺はゴリ押しでどうにかなる気がするんだけど。
あやしいな。この仕事には裏があるぞ。
「それで、できそうかしら?」
できないです。とは言えない。
「今から作業をして、その状態を知ってから、これからの予定を決めたいと思います」
「そう、だったらそうして頂戴ね」
やっぱり貴族様かな。それっぽい臭いがする。
「さっそく始めますね」
「ええ、お願いするわ。私は一度ここから離れるので、私が帰って来るまでに予定を決めておいてくれるかしら?」
「はい、分かりました」
「そんなに緊張しなくてもいいわよ。あなたには期待していないから。それでも、できるできないくらいの判断は今日中にしておいてよね? でないとこっちにも代案を立てることができなくなるから。その事だけはきっちりとお願いするわね」
「はい」
そうですね。おっしゃる通りです。
ボクはうなずきも加えて返事をする。
「それじゃあ外に出るわよ」
言われた通りにボクは外に出る。
シーアさんも遅れて小屋から出てくる。
そして、木の扉に鍵を掛ける。
「夕方には戻ってくるわね」
そう言い残し、シーアさんが足早にこの場から離れていく。
さてと。
どうしようかな。
まずは一か所にごみを集めることにするかな。
それとも、捨てる場所を決めるのが先かな。
「そうだね。そうしよう」
日雇いの仕事でもごみの分別作業は経験済みだ。その通りの手順を熟せばいいだけだからね。
方針は決まった。
始めは、当たりを付けて、アイテムボックスにごみを入れていくことにしよう。
そして一か所にごみを集め、できるだけ分別できるスペースを空けていくんだ。
この一連の作業で、今後の予定を決めることにしよう。
ある程度夕方までにできないようなら、この依頼は諦めることにしよう。
「うん、いいね」
じゃあ始めようかな。
まずは収納からだね。
ボクはアイテムボックスを開き、表示された文字板をそのままにして、入れ口が右手になるように、ごみの前に突き出していく。
すると収納する物を指定する感覚が脳裏に浮かんでくる。
その指定先を思考で選択していく。
選択した瞬間、ごみが一瞬にして消える。
消えた箇所に穴が開く。
開いた穴に地面が露出する。
露出した箇所にごみが崩れていく。
「ん?」
おかしいな。
もう一度やってみよう。
ボクは右手を掲げ、収納場所をイメージする。
すると目の前に見えるごみが一瞬にして消える。
「お?」
もう一度やってみよう。
今度は右手をかざしながら収納をイメージして歩く。
歩く速度に合わせ、ごみが消えていく。
「おお?」
歩く速度を上げていく。どんどんごみが消えていく。
「おおお?」
面白い。
掃除機みたいにごみが消えていくね。
どこまで入るんだろう。
「おおおお?」
どんどん入る。
入るだけやってみよう。
「うぉおおお!」
以前はこんな風にはならなかった。
木材の丸太が二本入いるくらいが限界だったと思う。
あの林で頭を打った時点で能力の本質が変化したのだろうね。
そうだとしたら、凄いことだよ。
おそらく、転生特典と云う奴だろうね。
だとしたら検証が必要だね。
丁度いいから、この作業でおおよそのことを理解しよう。
「むふふ」
笑っちゃうね。
ボクはほほを緩めながら右手をかざしていく。
まるでバキュームで汚物を吸い取るかのように、爽快感を覚えていく。
圧倒的な吸引力でみるみるとごみの山が消えて行く。
おかげで、宮殿くらいの敷地にある、ごみの二割を収納することができた。
いい気分だね。チート能力がボクにも備わったのだと実感させられるよ。
テンションが爆上がりだね。楽しいな。
疲れもなく、今後の生活が楽になる妄想に浸ることができる。
実に有意義だね。
「うふふ」
程なくして、全域の半分の清掃を終えることができた。
少し飽きてきたので速度を上げることにする。
走ってみたらどうかな?
「うぉおおおー!」
ボクは鍛練をするようにランニングをしていく。
もりもりと音を立ててごみの山が一瞬にして消えていく。
改めてチートだと実感させられるね。
体感にして半刻ほど経ったところで、ようやくほとんどのごみを収納することに成功した。
「全部入ってしまった」
山のようにあったごみが綺麗に無くなっている。
残された物は何一つ無く、空地に小屋が見えるだけ。
少し虫が沸いているのはご愛敬。
早速ボクは、アイテムボックスの表示を確認する。
生活必需品[71] 生ごみ[2687]
資源ごみ[4897] 燃えないごみ[595]
その他[73]
なるほど。
新しく分類が変わっているようだね。大項目毎に分けられるようになったみたい。
試しに生活必需品を指で押して開いてみると、今まで入れていた物の名前で一覧になって、表示されていく。
どうやら問題は無いようだね。
何かが消える訳でもなさそうだし。
そうすると、他の項目も気になるよね。
生ごみってなんだろう。
ちょっと表示文字を押して確認してみよう。
よく分からないけど、有機物とか腐った物とか、そういう抽象的な汚物の名前が一覧になっているようだね。
薬草採取のときからも分かっていたことだけど、改めて見ると便利なスキルだと実感させられるよ。
資源ごみはどうだろう。
鉄のくずに壊れた武器に壊れた防具。
金属に関わる物が全て収められているね。
壊れた、使えない、錆びている。
そんな表示項目が目に付くようだね。
よく見ると貴金属も含まれているね。
金の腕輪に懐中時計に金剛石の指輪もある。
金貨に鉄貨に銅貨、銭貨に大銭貨もある。
こういう場合は冒険者としてどう扱うべきだろう。
捨ててあったのだから拾った者が所有者になるのかな?
それとも仕事なので、全ての物が管理者の権限に委ねられるとでもいうのだろうか。
どちらにしても報告はした方がいいに決まっているよね。
おじさんに怒られるのは嫌だしね。
燃えないごみはどうだろう。
焼き物やガラスに呪いの人形なんかもこの辺りの部類になるよね。
こういった物はどう処理するのかな?
再利用はできなさそうだし、定期通りに砕いて建材に使うのかな?
それともスライムで処理することができるのかな。
まあ、どちらにしても面倒な物に違いはないよね。
最後はその他だね。
その他って誰が決めているんだろうね。
燃えるごみなんかでもそうだよね。
きっと超常的な何者かが決めているに違いない。
あるいは、ボクの認識に合わせて変わっていくものになるのかもしれないね。
その辺は要検証かな?
文字に指を当てて開いてみると分かるように、物騒な表記が並んでいるようだね。
ゴブリンの死体や腐食鳥の骸に黒色ネズミの死骸とか。
死体、骸、死骸。
そういった生き物の死に関わる文字が並んでいるよね。
人の骨とかもあるね。
終わりに表記されていたから分かりづらかったけど、さりげなくて憎いよね。
「ん?」
これは事件だね。
「凄いじゃない!」
夕暮れになる前にシーアさんが戻って来た。
再会してすぐに驚かれる。
「まさかもう終わっているなんて思わなかったわよ!」
ボクも終わらせることができるなんて思わなかったです。
「どうやったのかは知らないけど、これで私も安心ができるわ。ありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「謙遜はよしてよね」
シーアさんが笑っている。本心から嬉しそうだ。
「あなた、リエルって言ったかしら? Gランクなのにすごいわね。さっきは否定的なことを云ってしまって、ごめんなさいね」
「いえ、気にしていないです」
嘘です。ボクも驚いています。
「竜殺しのアレハンドロ・エイブラムに認められるだけのことはあるわね」
すごいね。おじさんは竜を殺したことがあるんだね。
「いいわ。依頼完了よ。報酬は倍払うわ。ありがとう。リエルさんには感謝しかないわね」
喜んでいるところ悪いのだけど、ボクの話を聞いて欲しい。
「あの」
「ん?」
「実は見てもらいたいものがあるんです」
「何かしら?」
さっきの人骨です。
ちょっとこちらに来てください。
ボクは先導するようにごみ山の奥へと移動する。
「これは……」
目立たない場所に案内したボクは、白骨化した死体をシーアさんにお見せする。
「どうしたらいいですかね? これ」
「これ、ごみの中に在ったの?」
「はい」
死体をこれ呼ばわり。世も末だ。
「はぁ、まさかこんなところで見付かるなんて……」
「え?」
「いえ、なんでもないわ」
物騒な独り言だね。何かを知っているみたいだ。
「仕方がないわね。北門の兵士を呼びましょう」
「えっと、今から行ってきます?」
「そうね。リエルさんがお願いできるかしら?」
「え?」
呼んで来るだけなら構わないけど、説明するのが難しいかと思う。
ボクは見た目が子供だ。
死体が見つけたから来てくださいと守衛さんに伝えたとしても、信じてもらえるのかが分からないよね。
おそらく守衛兵士さんはボクを見て、こう答えるだろう。
嘘を付くんじゃない、と。
そうするとボクは拘束されて、尋問を受けることになる。
尋問の間はここでシーアさんが一人になる。
夕暮れになって辺りが暗くなる。
すると、闇に紛れて怪しい男たちが現れ、シーアさんをさらいに近づいていく。
「だめです。誘拐されますよ?」
「ん?」
「あ」
しまった。声に出してしまった。
一瞬時間が止まったように、空気が張り詰めた気がしたよ。
きっと変な人だと思われたに違いない。
「あの、ボクが行くと信じてもらえないような気がします。だから、シーアさんが行った方がいいと思いますよ?」
「ん……、そうね。その方がいいのかもしれないわね」
でもそうなると、ボクが一人だけになってしまうよね?
一人になると人さらいが来るかもしれないし。
「暗くなる前に帰ってきてくださいね」
「そうね。急いで行ってくるわね」
「できるだけ早くにお願いしますね」
怖くて思わず本音を口にしてしまった。
「じゃあ行ってくるわね」
「はい」
シーアさんが離れていく。
今度は足取りがゆっくりだ。
できればさっきのように早く歩いて欲しい。
「うっ、帰って来て欲しいな……」
それからしばらくして、人骨の前で待つボクは、とても重要なことに気付いてしまう。
この人骨に触れて鑑定をするとどうなるか気になってくる。
「うん」
試してみよう。
ボクは恐る恐る変色した黄色い骨に触れてみる。
名前 ウッデンベルク・フォレスト・フォーレイースの骸
品質 48
効果 フォーレイース伯爵家長男の全身骨格。
補正 ヴェドバレルド王国の兵士ボルド・ナンフからの切り傷跡大
半年の風化による劣化微
「え?」
なにこれ。
突っ込みどころしかないじゃないか。
一週間に一回くらいのペースでアップできたらいいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。




