10.ゆるりと特別依頼を受ける
発電が気持ちがいい。
「あっ、あっ……」
もうすぐだから。
「うっ、んうぅぅぅ」
出たね。
男汁の噴水が出た。
朝の発射だ。
ボクはこの瞬間が一番大好きだ。
ここ三日間は毎日欠かさず行っている。
だってボクの身体って、気持ちがいいんだもん。
異世界人の体って、前世と違って快楽が何倍にも感じられるんだ。
そのせいなのか声が勝手に出てしまい、集中すると周りが気にならなくなっちゃうよね。
「むふぅ~」
賢者タイム。
それにしてもボクの声って女の子みたいだね。
自分でも驚くくらい可愛い声が出るし。
もっと喘ぎたいんだけど、周りの人に勘付かれるかもしれなから、7回で我慢をしているんだ。
終わりの2回になると噴水も少しは落ち着いて来るので、体の調子を考えると抑え気味。
おっといけない。男汁専用の布がもう限界にきている。
明るい時間だし、処理をするついでに洗濯場で体と一緒に洗い流そうね。
「よし」
今日も一発がんばろう。
「リエルくん。おはよう」
「おはよう。今日もいい天気だね」
「うん」
二日前に買ったばかりの新しい服に着替えたボクは、日課の鍛錬を終えたその足で、食堂のテーブル席に移動したばかり。
出迎えてくれたのが宿の娘のベティだ。
昨日と変わらず元気に接客をしている。
席に座るとすぐにベティが食事を持ってくる。
そんな決まりに慣れた常連客が、それぞれに感謝を述べていく。
ボクもその一人だ。
「リエルくん。朝食を持ってきたよ」
「いつもありがとう」
「仕事だもの。当然だよ」
今日も素っ気がないボクへの対応。
ボクにだけ特別に愛想が悪い気がする。
二日前は目も合わせてくれなかった。それからみればまだましだけどね。
何が原因なのか分からない。だけど、今も機嫌が悪いみたい。
少しずつ打ち解けてはいる。
でもボクにはよそよそしい。
初めて会ったときみたいに笑ってくれないかな。
そんなささやかな願望を胸に、ボクは祈りを捧げてから、食事を始めていく。
それからボクは仕事に出る。
そしてお昼になる。
採取依頼を終えた後に報告を終え、ギルドマスターからの報酬を受け取る。
金貨二枚に銀貨五枚。指名依頼の報酬は金払いが良い。
日雇いの荷運びで銀貨五枚。それからすると、かなりの金額になる。
笑いが止まらないね。
「なにをにやけてやがる。しみったれた顔が余計にみっともなくなるぞ。それよりもお前さん、今から時間があるよな?」
そりゃあボクは不細工だけど、ギルドマスターであるおじさんには言われたくはない。
微妙にへこむ。
「昼食を食べた後だから問題ないですよ?」
「そうか。だったらもうひと仕事する気はないか?」
「採取ですか?」
「いや、違う。ごみ掃除だ」
ついに来たか。駆け出し冒険者への嫌がらせが。
「ごみ掃除って、冒険者がする仕事なんですか?」
「場合にもよるな」
ボクは知っている。
ごみ掃除とは、街の捨て場にある廃棄物を処分する作業だ。
普段は領主が専属の掃除夫を雇い、毎日管理をしていく内政仕事になる。
国の定める法律に従い、決められた場所で決められた規則に応じ、ごみの分別を行う仕事だ。
有機物にはテイマーが使役するスカベンジャースライムを用いて処理をすることになる。
それを毎月ごみの日に取り掛かり、余ったごみを分別する。
無機物は金属が多いため、専用の施設で鋳物として集められることになる。
その他のごみは砕いて建材の土台として再利用される。
そういった作業の管理を地道に行うのが、掃除夫の務めになる。
だからこそ冒険者の仕事ではない。ごみ掃除の依頼なんて、依頼ボードに書かれてもいないのだから。
どうして冒険者であるボクがしないといけないのだろう。
「嫌なんですけど」
「お前さん、はっきりと物事を言うようになったな。まあ、別にお前さんがそれでいいのなら文句はない。だがな、本当にそれでもいいんだよな?」
「うっ」
目力が強い。こういう時のおじさんは、何か含みがあるはずだ。
「なんですか? 受けなかったらどうだっていうんです?」
「残念だ。お前さんは今日で冒険者を引退する」
「やらせていただきます!」
「おう、いい心掛けだ。今回は特別依頼になる。緊急招集と同じ扱いだ」
それって強制って意味じゃないですかね。
特別依頼ってなんだよ。
緊急招集もそうだし。
初めて聞く言葉だよ。
「分かりました」
無難に返事をするしかないじゃないか。
これって職権乱用だよね。
新人冒険者を何だと思っているんだ。
酷いよ。
「ああ、ちょっと待っていろ。今から地図を書いてやるからな」
そういえば、冒険者資格取得後の説明を受けていなかったね。アリーが来たときにタイミングが悪くて、聞きそびれることになったのは覚えている。
今考えると失敗したと思う。
面倒臭がらずに質問をしていればよかったよ。
「お、失敗しちまったな。ちっ」
あのときはアリーに迷惑が掛からないようにあえて聞かなかったけど、今更知らなかったなんて言えないし。そもそもここで迂闊に聞き返してしまうと、ギルド職員であるアリーの評価が下がってしまう。
そのせいでボクが彼女に嫌われてしまうかもしれないからね。
そんなのは嫌だ。
ここは黙って知っている振りをするのが無難だろう。
友達は大切にしたいからね。
「うむ、まあこんなもんか。おい。これが地図だ。ここに午後一で行ってこい。今日は管理者が居るから、そいつの手伝いをして来い」
「理由は教えてもらえないんですか?」
「あん? 聞いてどうする」
おじさんの目が怖い。
ここで応え方を間違えると、今度から馬鹿にされるかもしれない。
慎重にいこう。
「せめて特別依頼になった理由を教えてもらえませんか? なんでボクなんです?」
「おう。いい質問だな」
上手く言えた。
確かにいい質問だ。
特別依頼の理由と仕事の由来を同時に聞けるのだから。
「お前さんがアイテムボックスを持っているってことが理由になるな」
「なるほど」
アイテムボックスにごみを入れると分別が楽になる。
それに、重たい物も手をかざすだけで持ち運ぶことができる。
使い方次第で簡単に分別作業ができるようになる。
「話は分かりました。それでボクみたいな新人に特別依頼が来たということは、ボク一人で作業をするということでいいんですよね?」
「お前さんは察しがいいな。その通りだ。お前さんだけで作業に当たって欲しい」
「ああ、なるほど」
何がなるほどか分からないけど、なんとなく癖で言ってみた。
「お前さん、頭がいいな。教会がポーションを集めているっていう話も、お前さんからだって言うじゃあねぇか?」
「知っていたんですか?」
「ありがとうなあ。お前さんのおかげで色々と助かった」
「おじさんにそう言われると、なんだかむず痒いですね」
「あん? おじさんだぁ~?」
「あ、ついうっかり」
切り出される会話の流れからも不審な点がある。
おじさんはどうしてポーションの話を持ち出してきたんだろうね。
「お前さんも言うようになったな」
「すいません」
「謝ることじゃない。冒険者はそれくらいじゃないと勤まらんからな。いい心構えだ」
多分関連があるはずだ。
だとすると教会絡みだろうか。
いや、違うな。
最近西の方でゴブリンによる被害が多く、その関係から商人たちが頻繁に噂をしていることがある。
それが、西に商品を持って行けば必ず売れるという話だ。
つまり、西側で何かが起ころうとしていることが噂から分かってくる。そして、物資の需要が高まっていることも容易に想像できる。
この二点のせいでポーションが必要になっているのかもしれないね。
「そういや、服装を変えたんだな? 似合ってねぇぞ」
「え? ボクは気に入っているのに! おじさん、ひどい!」
ポーションは怪我を手っ取り早く直してくれる薬になる。
光魔法のように魔力を必要とせず、手軽に使用できることが魅力の一つ。
それを大量に必要としているこの状況はおそらく、その意図を隠すことにも繋がっているのだろう。
教会はポーションの価値をできるだけ上げないように注意をしているに違いない。
「しかし似合ってねぇな。お前さん、前よりも女に見えるぞ?」
「え? 本当ですか?」
誰の指示からだろう。
回復院ギルドも含め、ギルドのような組織にそういった行為ができるのだろうか。
いや、できるはずがない。
ギルドは国にかん口令を強いる権限がないからね。
情報の漏洩を防ぐ行為は、領主と国の領分になる。
「まあ、前の服装よりはましか」
「…………」
ギルドは国の組織ではない。
世界中にある助け合いの組織になる。
人種も国も分け隔てなく、共和的に助成し合うための組織として独立した存在になる。
議会があって、規則もある。その枠組みには政治の関与を認めないとした取り決めがある。
以前ボクが冒険者ギルドの契約書を読み上げたときにも書かれていたことだ。
そう考えると、国が関与しているのは間違いない。
特別依頼の理由を知る機会がないのは、政治に関わる仕事だからだろう。
「お前さん、顔色が悪いが大丈夫か?」
「あ、はい。ちょっと考え事をしていました」
これは西で戦争が起きているな。
確信がある訳ではない。
証拠もない。
だけど、そんな予感がする。
「なんでもないです。今から仕事に行ってきます」
「そうか? あまり無理をするなよ? それとこれを持っていけ。紹介状だ」
「はい」
特別依頼の理由、それは政治に関わること。
そしてボクが受けることになった理由。それは、ボクがトカゲの尻尾切りに最適だからだろう。
なんの意図があるのか分からない。
だけど、今から会う人たちには注意が必要だ。
知ってしまって損をする情報には、知る必要がないものが含まれている。
それは、前世でも変わらない理屈。
世の中には知ることで不幸になることもある。
それは、当然の心理。
最悪、知ってしまったことで消されることもある。
これは、一種の戦いだ。
知らない振りをして身を守らなければならないこともある。
だからボクは、気を引き締める。
そして、これから受ける特別依頼に立ち向かっていこうと思う。




