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話でもあるのだろうか。いや、そういうふうでもないのか。店主は何も聞いてこなくって、口を開くのは冷たい麦茶をその口に含むときばかり。いったい、これはなんなんだろう。時間ばかりがすぎていく。
「以前、スーパーの店長をしてましてね」
ふいに店主が言葉を発した。
「といっても、雇われ店長ですがね」
「あ、はあ…」
突然のことで、まのぬけた返答しかできなかった。店主は、そのことにはかまわず先を続けていく。
「半額シール」
「え?」
「あるでしょう、半額シール」
「お弁当とか、お惣菜とかの…」
「ええ、それです。あれをね、貼っていくんですよ」
店主はそこで、ひと息つく。この話の行く末がどんなものになるのかを想像し、わたしはもやもやしながらも麦茶が半分くらいになったグラスの縁に口をつけた。
「あの半額シールの、あの束をね、たくさん手に持ってみるんですよ。がばっと、たくさん」
まだグラスに口をつけていた。わたしはそれには答えられず、そのことを気にせず店主は、
「そうすると気持ちが大きくなりましてねえ。もしかしたら、なんだってできるんじゃないかって思っちゃうんですよ。ただの半額シールなんですけどねえ」
そう言って、なんとなく顔に力がみなぎったように見えた。けれど、それはほんの一瞬で、
「でもねえ、いくら気持ちが大きくなっても、強くなったと思ってみても…」
―世界を救えないんですよ。この手ではねえ… 世界を救えないんですよ
そんなことを言う気がした。冗談めかして、でも険しい表情で。なんとなく、ただ、なんとなく。店主の大きな体が、やけに小さく見えた。どう声をかけるのがいいのかそれがわからなくて、わたしは助けを求めるようにお店の外に目をうつした。星たちはきらきらしながら、わたしたちにもわからないわ、そうささやき合っているようだった。
「ああ、ああ、ああ」
それまでとは違う調子の店主の声で、わたしは弾かれるように店のなかに視線をもどした。




