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「起きてきちゃったかあ」
店主の視線の先を見てみると、初めて見る顔がそこにはあった。
「あら子犬」
「いえ、小さいですけどね、これでもオトナなんですよ、ええ」
その小さな子は、ととととと店主のもとにかけよっていくと、差し出された店主の手や腕に体をこすりつけていく。困ったふうでありながらも、店主の表情には笑顔が張りついていた。
「最近、一緒に暮らしはじめましてねえ。そのわりにまだまだ甘えたさんで、まいります。ん?どうした?ああ、わかった、わかった。え?ここで寝るのか?しかたないねえ」
店主は小さな、けれどちゃんとしたオトナのその犬を一心になでてやった。頭を、背中を、やさしく、やさしく、なでてやる。
店主のその手は、世界を救うことはできないかもしれない。それはそうだ。だってその手は、世界を救ってやるためのものではない。小さなこの犬を、やさしくなでてやるための手だ。小さなこの犬を深い眠りへと誘う、やさしくて大きな手だ。
店主のあの手でなでてもらったら、わたしも心地よい眠りに落ちていけるだろうかと、店主の大きな手を見つめながら、そんなことを考えていた。今夜の店主は、深夜の情緒にぴったりよりそっていて、じつに好ましくて心地いい。ふと、外からのひそひそ声につられ空の星たちに目をうつしてみると、わたしたちもそう思うわ、そのようにささやき合っていた。




