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それから明人は、宣言したとおり、自分のペースで生活するようになった。


好き嫌いをはっきり口にするようになり、生活時間も不規則になった。


夏未に断ることなく、好きなものを買ってくることも増えた。


夏未は、最初こそ戸惑っていた。


しかし、以前のように何も言わずに一人で悩み、突然怒り出されるよりはましだった。


子どもが拗ねているようなものだ。


そのうち収まるだろう——そう思い、しばらく様子を見ることにした。



ある日。


夏未がソファに座って雑誌を読んでいると、後ろから明人に声をかけられた。


「ねえ、前に撮ったハロウィンの写真、見せてよ」


夏未は振り返った。


「うん」


テーブルに置いてあったスマートフォンを手に取る。


明人もソファの後ろから、画面を覗き込んだ。


夏未は少しだけ胸が高鳴った。


こんなに近くで明人の顔を見るのは、久しぶりだった。


「ちょっと待ってね」


夏未はロックを解除し、ハロウィンの仮装をした陽介の写真を開いた。


「これ?」


「うん。それ送ってくれる?待ち受けにしたくって」


夏未が写真を送ると、明人は身体を離した。


「サンキュー」


そのまま立ち去ろうとする明人の手を、夏未が慌ててつかんだ。


「待って」


「どうしたの?」


「ううん。ただ……なんか、久しぶりだったから」


夏未は明人を引き寄せ、その胸に顔を埋めた。


明人は優しく夏未の背中に腕を回した。


「……そうだね」


夏未からは見えなかった。


明人の顔には、一切の感情が浮かんでいなかった。



その日の夜。


夏未が浴室から出てきた。


タオルで濡れた髪を拭きながらリビングへ入ると、明人がテーブルの前に座っていた。


手には、夏未のスマートフォンがある。


夏未は足を止めた。


「明人?」


声をかけると、明人は少し驚いたように顔を上げた。


「ごめん」


明人はスマホをテーブルに置いた。


「たまたま通知が来たのが見えて……どうしても我慢できなくなって、手に取ってしまった」


夏未は黙って明人を見た。


「中までは見てないから」


明人はそう言って、震える手でスマートフォンを差し出した。


夏未は何も言わずに受け取り、画面に表示されている通知を確認した。


「ああ、これ。仕事の連絡だよ」


「うん。分かってる」


明人は小さく頷いた。


「本当にごめん。もう気にしないって約束したのに…」


その声は震えていた。


夏未は、今にも泣き出しそうな明人の顔を見つめた。


それからそっと近づき、明人の肩を撫でた。


「ねえ、明人」


「なに?」


夏未は少しためらったあと、小さな声で言った。


「ベッド、行かない?」


明人が顔を上げる。


夏未はそれ以上、何も言わなかった。


しばらくして、明人は静かに頷いた。



寝室。


ベッドに仰向けになった夏未へ、明人が覆いかぶさる。


唇を重ね、夏未も明人の背中に腕を回した。


数分後。


二人は裸のまま抱き合っていた。


明人の動きが止まる。


「……ごめん、夏未」


「どうしたの?」


明人は夏未から目を逸らした。


「なんか……無理かもしれない」


「無理?」


「身体が、反応してくれなくて」


短い沈黙が流れた。


「そっか」


夏未は少し寂しそうに笑った。


「仕方ないね」


「ごめんね」


明人は夏未の上から降り、ベッドの端へ腰を下ろした。


「また、試させて」


「うん……」


夏未の声は、小さかった。



明人は浴室へ入ると、シャワーを強く出した。


壁に片手をつき、熱い湯を頭から浴びる。


「うっ……」


何度もえずいた。


口元を押さえ、目を閉じる。


夏未の身体へ触れた感触が、まだ手に残っていた。


「さすがに……無理だろ」


明人はシャワーの音に消えるような声で呟いた。



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