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一緒にするな

「なんで、あの二人が浮気のことを知ってるの?」


明人の表情を見て、夏未は困ったように黙り込んだ。


「どうして」


明人は夏未を睨んだ。


「どうして、あの二人が浮気のことを知ってるんだって聞いてるんだよ!」


拳をテーブルへ叩きつけた。


大きな音がリビングに響く。


夏未がびくりと身体を震わせた。


「違うの。美姫に相談しただけなの」


「はあ?」


「明人とのことが心配で……どうしたらいいか分からなかったから」


「相談してどうなるんだよ」


明人の声がさらに大きくなる。


「もうこの話はするなって言っただろ!」


「でも、私だって誰かに話さないと――」


「ふざけんなよ!」


明人は足元に転がっていた陽介のおもちゃを蹴り飛ばした。


プラスチックのおもちゃが床を滑り、壁にぶつかった。


「ちょっと、やめて!」


夏未は慌てて陽介のいるベビーベッドへ向かった。


陽介を抱き上げ、胸元へ引き寄せる。


明人は荒い呼吸を繰り返した。


怒りを鎮めようとした。


けれど、何度息を吸っても胸の奥は焼けるように熱かった。


「じゃあ、何か?」


明人は夏未を見た。


「あの二人は、浮気された旦那がどんな顔してるのか見に来たのか?」


「そんなんじゃないって」


夏未は陽介を抱いたまま答えた。


「お願いだから、落ち着いて」


明人は俯いた。


「どんだけ……」


声が震えた。


「どんだけ人を馬鹿にすれば、気が済むんだよ!!」


もう自分を制御できない。


このままここにいたら、何をしてしまうかわからない。


明人は何も持たずに家を飛び出した。



暗闇の中、明人は湖のほとりを当てもなく歩いていた。


「こんなの、もう無理だ……」


小さく呟いた。


何かあるたびに、自分を抑えられなくなる。


このままでは、本当に頭がおかしくなりそうだった。


タバコに火をつける。


一口吸ったところで、先ほどの夫婦の顔が浮かんだ。


明人はタバコを地面へ叩きつけた。


ポケットの中でスマホが震えた。


夏未からの着信だった。


明人は出なかった。


――知らない方がよかった。


そう思った。


浮気のことも。なにもかも。


何も知らなければ、これまでと同じように暮らしていけた。


明人は足を止めた。


湖の上には、白い月が浮かんでいた。


しばらく見上げているうちに、胸の奥にあった怒りが少しずつ遠ざかっていった。


楽になったわけではない。


ただ、何も感じなくなった。



一時間ほどして、明人は家へ戻った。


自分がどんな顔をしているのか、もう分からなかった。


夏未が駆け寄ってくる。


「明人、あのね。美姫に連絡しておいたから」


明人は黙って夏未を見る。


「二人とも謝ってた。だから、もう怒らないで」


明人はゆっくり瞬きをした。


「もう怒ってないよ」


「本当に?」


「うん」


自分でも驚くほど、平坦な声だった。


「もうこの話は終わりでいいよ」


夏未は安心したように笑った。


「ありがとう。やっぱり明人は優しいね」


その笑顔を見ながら、明人は低い声で言った。


「高給取りで、浮気まで許してくれる旦那だよ」


「好きなだけ、友達に自慢すればいい」


夏未の笑顔が止まる。


「なんで……」


その声を遮るように、明人は続けた。


「あのさ」


「俺、これから好きに生きてもいいかな」


明人は夏未の目を見た。


夏未は意味が分からない様子だったが、やがて小さく頷いた。


「もちろん。明人の人生なんだから、好きにしていいよ」


そして、明人を安心させるように笑った。


「なんなら、明人が浮気したって、私はついていくから」


沈黙が落ちた。


明人は夏未の肩をつかんだ。


「お前と一緒にしないでくれる?」


夏未の表情が固まる。


やがて目を伏せた。


「……ごめん」


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