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触らないで

三日が過ぎた。


相変わらず、夏未の顔をまともに見ることはできなかった。


それでも仕事と子育てに没頭している間は、余計なことを考えずに済んだ。


夏未も、気を遣っているのが痛いほど分かった。


以前より明るく話しかけてくる。


食事にも手をかけるようになった。


明人の顔色をうかがいながら、まるで付き合い始めた頃に戻ろうとしているようだった。


でも正直、そっとしておいてほしかった。


その行動に悪気がないことは分かっている。


浮気を告白した。


許すと言われた。


夏未の中では、時間をかければ、きっと元に戻れると思っているのだろう。


けれど、自分が浮気を知ったのは、まだ数日前だ。


夏未にとっては、終わらせた出来事。


明人にとっては、突然始まったばかりの出来事。


同じ三日間を過ごしているはずなのに、二人はまったく違う場所に立っていた。



その日、工房で図面を広げていると、窓の向こうに夏未の姿が見えた。


陽介を抱き、こちらへ手を振っている。


明人は少し驚きながら、手を振り返した。


夏未が工房まで来ることなど、最近はほとんどなかった。


しばらくして、夏未が中へ入ってきた。


「ほら、パパのお仕事するところだよ」


陽介に話しかけながら、工房の中をゆっくり見て回る。


やがて、夏未が明人のそばまで来た。


その視線が、テーブルの上で止まる。


タバコとライターが置かれていた。


「あれ?やめたんじゃなかったっけ?」


「ああ、うん」


明人は淡々と答えた。


「やめてたけど、また吸いたくなったんだ」


「……そうなんだ」


「吸っちゃ駄目かな?」


夏未は少し黙った。


「別に。陽介の前で吸わなければいいよ」


それから少しだけ話をして、夏未は陽介を連れて母屋へ戻っていった。


扉が閉まる。


明人は胸に手を当てた。


夏未が工房へ入ってきただけで、心臓が締めつけられるように苦しかった。


ここにまで来られるのは、正直耐えられない。


そう思った。



その日の夜。


明人の方から夏未に声をかけた。


「あのさ。今日みたいに、陽介を工房へ連れてくるのはやめてくれないか」


「どうして?」


「工具もあるし、薬品も多いから。危ないんだ」


「抱っこしてれば大丈夫じゃない?」


夏未は、不思議そうに首をかしげた。


「何かあってからじゃ困るから」


明人が言い切ると、夏未は口を閉ざした。


その表情に、わずかな寂しさがにじむ。


やがて、夏未はためらうように一歩近づいた。


「ねぇ」


「なに?」


「もしかして、まだ怒ってる?」


明人の胸が一瞬詰まった。


顔色が明らかに変わる。


夏未が明人の肩へ手を伸ばす。


明人は反射的にその手を避けた。


夏未が驚いた顔で見つめる。


「…ごめん」


明人は目を伏せた。


「…触らないでほしい」


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