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本性

「え……明人、何言ってるの?」


明人はもう一度言った。


「今日は、行かないでほしいんだ」


長い沈黙が流れた。


「な、なんで……」


夏未の声が震える。


「どうして、そんなこと言うの?」


明人は答えず、夏未の目をまっすぐ見つめていた。


夏未は唇を噛んで俯く。


しばらくして顔を上げると、安心させるように笑った。


「なに? もしかして、また浮気を疑ってるの?」


明人の表情は変わらない。


「大丈夫だから。すぐに帰ってくるから、ね?」


そう言って、スマートフォンへ手を伸ばす。


「返して」


明人はその手を見つめ、ほんの一瞬、寂しそうに目を閉じた。


「そっか」


小さく呟く。


次の瞬間、明人は夏未のスマートフォンを床へ思いきり叩きつけた。


乾いた音が工房に響き、液晶の破片が飛び散る。


「なっ……!」


夏未は壊れたスマートフォンを見つめたまま、動けなくなった。


明人は床へ目を落とし、低い声で言った。


「知ってるよ、これから浮気しに行くんだろ?」


夏未の表情が固まった。


身体が、動かなくなった。



夏未が何か言おうとする。


しかし、それを遮るように明人が言った。


「今日、また会いに行くんだろ?」


夏未の顔が強張る。


「浮気してた男に」


「ち、違う…」


夏未は明人の圧に押され、言葉を詰まらせた。


「お前、いったい何なんだよ」


明人の声が震えた。


「本当に、何がしたいんだよ」


「どういう意味よ」


夏未の顔から作り笑いが消える。


「自分から浮気を告白して」


「もう絶対にしないから、許してくれって言って」


「それで、たった一か月でまたこれかよ」


「だから、違うって言ってるじゃない!」


夏未が叫んだ。


「どうせ、あれだろ?」


明人は止まらない。


「家庭がある者同士で不倫して」


「二人だけの秘密みたいにして、ロマンティックな気分に浸ってたんだろ」


夏未は何も答えなかった。


「そりゃ、相手のことなんて教えられないよな」


明人の目にわずかに涙が浮かぶ。


「俺がそいつの家に怒鳴り込んだら、向こうの家庭が壊れちゃうもんな」


「適当なこと言わないでよ!」


夏未は腕を組み、明人を睨み返す。


「自分の想像だけで、勝手に責めないで」


「想像?」


明人が低い声で聞き返した。


「じゃあ、何が違うのか説明してみろよ」



夏未は唇を噛んだ。


何も答えられない。


明人は黙って待っていた。


その沈黙に耐えきれず、夏未が叫ぶ。


「あんた、めんどくさいのよ!!」


明人を鋭く睨みつけた。


「いつまで被害者ぶってるの?」


「私は戻ってきてあげたのに」


「それなのに、全部壊してるのはあなたじゃない!」


明人は何も言わない。


「私を抱くこともできないくせに!」


夏未は一瞬だけ息を止めた。


しかし、もう止まれなかった。


「勝手なことばかりして」


「私ばっかり悪者にして」


「そんなだから、浮気されるのよ!」


工房の空気が凍りついた。


夏未は息を切らしながら、最後の言葉を吐き出す。


「あんたは……」


「あんたみたいなやつは、黙って私を許してればよかったのよ!!」


静まり返った工房に、夏未の声だけが響いた。


「くくっ……」


明人が笑った。


「何がおかしいのよ」


「やっと本性が出てきたな」


「は?」


明人は顔を上げて睨みつける。


「お前の、どす黒い本性が出てきたって言ってるんだよ」


夏未は黙った。


「俺も、浮気相手も、お前の物語を盛り上げるための脇役だと思ってるんだろ?」


「何よ、それ……」


「夏未が何をしても、最後には俺がおまえを愛してる」


明人は夏未をまっすぐ見た。


「それが、お前の望んでたシナリオなんだろ?」


「残念だけど、お前の思いどおりに動く気なんかない」


明人の目から、涙がこぼれた。


「どうして……」


声が震える。


「どうして、黙っててくれなかったんだよ!!」


長い沈黙が流れた。


やがて夏未は、吐き捨てるように言った。


「わかったわよ」


「別れたいなら、別れてあげるわ」


明人に背を向け、出口へ歩き出す。


「待て…」


夏未は構わず、扉へ手を伸ばした。


「せっかくだから、俺の友達に会っていけよ」


その言葉に、夏未の手が止まる。


ゆっくりと振り返った。


明人は、床下へ続く扉の前に立っていた。


「友達って……誰よ」


明人は、扉へ手をかける。


「紹介する」


「和宏っていうんだ」


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