第六話
すったもんだの末ゴブリン街道を抜けた王女一行はついに一報の受けたエルフレート王国から南に離れた
武装都市ヤッチ・マイナにやって来た。
ここは鉱山資源(魔法石)が豊富であり、外敵から資源を守るため武装や兵装の増強を繰り返すうちに
王国きっての武装都市へと成長した。
木々や自然を(基本的に)愛するエルフ達だがこの都市はエルフ達には嫌煙されそうな機械文明も
発達していた。
「ようやくついたな、魔法石を燃焼する香りが鼻腔をくすぐる・・・」
「何カッコつけてんだか。それよりもここってエルフ騎士師団の縄張りでしょ?
そんな虫けら一匹寄り付かなさそうなところにマジカが出没するなんて考えられないんだけど」
ピコピコは露店に売っていた魔法石を燃料にして焼き上げた大きなマメ饅頭”名物ヤッチ饅頭”を買い食いする。
「ふぉふぉ。あーやっぱ焼き立ては上手いわ」
「い、い、いいなピコピコ。私も食べたい・・・」
饅頭を頬張るピコピコを見てメソメソは涎を垂らす。
「あんた着くなり串焼き食べてたでしょ。そのちっこい体のどこに入るっていうのよ」
「そ、それは、こ、ここかな?でへへへへ・・・」
メソメソは小柄な体躯とは裏腹にプラプラに負けぬほどの大層ご立派なものをぐっとつかんで上下に振った。
「バルンバルン、ボルンっボルンーって擬音、いったいどこから生まれたのやら・・・」
「ぐっ!・・・バ、バッカじゃないの。こーなりゃ露店のもの片っ端から食いまくってやるんだから」
ピコピコはそう言うと三口で饅頭を完食すると次なる獲物に狙いを定め飛んでいった。
「は、はえぇぇ。あ、そういえば騎士師団で思い出したけどここってプラプラのお世話してる人の
出身地だよね?なんて言ったっけ、プリ?プリンプリン?」
「プルゥ・プルンドル王国親衛騎士団・騎士団長"プルプル"の生まれ故郷。そして・・・」
その時、すさまじい喧騒が響き渡る。
「う、うわっ何あれ?!」
露店街を抜けた先の巨大な中央広場では地面に作られた大きな魔法陣がせり上がり
それを囲うように魔法柵が展開されている、それはさしずめーーー。
「・・・ファイフレーム!!」
「・・・アイスレード!!」
交錯する炎と氷の刃。
「これは・・・闘技場?!そんな馬鹿な、私が子供の頃には」
「色とりどりの魔法石を使った噴水が美しい虹のアーチを描いていた・・・かしら」
プラプラ達は背後からの突然の声にハッと驚いて振り返る。
「うわっすごい服そっ・・・もごもご」
その人物のあり得ないほどのきわどいボディアーマーに声が漏れそうになるが屋台をひとしきり荒らしたピコピコに
口をふさがれる。
「失礼でしょっ。この人、いやこの方はエルフレート騎士団・ヤッチ騎士師団長ーー」
「ついて早々いきなりの対面とは・・・」
三人の前に現れた恐ろしくグラマラスな体躯にムチムチ過ぎる境界線ライザなボディーアーマーを見せつける
ウェーブがかったロングヘアーをたくし上げた長身の凛々しき女性。
「お待ちしておりました、ようこそヤッチ・マイナへ。師団長”ニッセル・プルンドル”、市民を代表して
心より歓迎いたします。お久しぶりですね王女」
「ひさしぶりだ、ニップーーー」
プラプラが大手を振って名前を口にしたとたん、ニッセルは駆け足でプラプラの元に近づき慌てて口を塞ぐ。
「おおお王女! 王女!王女!幼き頃の癖とはいえ、何でも略して言うのはどうかとっ!!」
何故口を塞がれたのかプラプラは解らなかったが意に介さず手をやんわり払いのけ続けようとする。
「そうか?ニップルの方が言いやーーー」
「おおい!とにかく、今はそれどころではないのですっ」
ニッセルは苦笑いをして慌てて話を変えようとする様子を見てピコピコとメソメソは白けた目で傍観している。
「まあその略し方じゃなぁ」
「し、しかもあの姿・・・あの姿であの名前はマズいですよ」
その時、中央の魔法陣から小気味よいベルが鳴り響いた。
”オオオオオオオオオォ!!!”
魔法陣を囲っていた観客のエルフ達が一斉に沸き立つ。
地面に伏した可憐なエルフの傍で拳を振り上げ声援を受けるエルフ騎士団と思われる若き凛々しいエルフ。
「そうだ、そういえばこの舞台は一体何なのだ?!ほんの数年前まで武装都市の癒しの場ともいえる美しい
噴水群が影も形もないではないかっ」
プラプラは魔法陣を指差してかつての噴水の様相を身振り手振りで表現する。
「・・・王女、ここでは何ですから師団営舎に行きましょう。ささやかですが歓迎の用意もしております」
「??あの、ニッセル様。通常王女が来られた場合はヤッチ宮殿の神官に謁見するのが通式なのでは?」
ピコピコは王女プラプラと(一応)古くからの付き合いもあってかある程度の王族儀式は知っていた。
「ピコピコ、その話は後だ。今はまず営舎に向かおう」
そういうニッセルの顔は心なしか陰りがあった。
ーーーエルフ騎士師団・営舎。
プラプラ一同は営舎の食堂でささやかな歓迎を受けた。
騎士団の面々は皆少し柔らかい感じのアマゾネス(女兵士)といった感じで堅苦しいこともなく
慎ましいセレモニーながらも楽しいひと時を過ごした。
「うむぅううう、こんなのはピコピコの誕生日会以来だぞっ。そう思うとやっぱり王国は堅苦しくていかん!」
「オッサンかよ・・・」
「で、でもなんか楽しい、学園の魔法発表会みたい・・・」
ピコピコもメソメソも突っ込みながらも楽しいひと時を過ごし、日も傾き始めた事、営舎の外が何やら騒がしくなってきた。
「??何事だ?!」
プラプラの疑問に周りの騎士達は答える事無くただ伏し目がちになり、みな目を合わせようとしない。
「・・・王女。外へ行きましょう、投影魔法が空のあちこちに映し出されております故直ぐに答えがわかるでしょう」
ニッセルはそう言うとおもむろに立ち上がりゆっくりと外へ出た。
「・・・??どゆこと?」
「さ、さあ?とりあえず王女、ずずっと外へ出て追ってみましょうよ」
三人はニッセルの会ったときの元気いっぱいの時との変わりように顔を見合わせ、目を点にしながらも慌てて後を追った。
外へ出て営舎の練習場に出ると、武装都市の空のあちこちには投影魔法が発動されていた。
ちなみに武装都市ヤッチ・マイナは魔法石が取れる山を取り囲むように築き上げられており騎士師団営舎はその
頂付近に建造されている。
「うむぅ、あちこちに投影魔法が・・・しかも16:9の8Kビジョンとはかなりの使い手」
「あんた見ただけで何でそこまでわかんのよ・・・」
ピコピコは呆れながら映像を見ているが白い画面からまったく先へと進まない。
「な、何にも映んないね・・・失敗とか?」
「直にわかる」
ニッセルが空を見上げそう呟いたとき、オッサンのキンキン声が辺りに響き渡った。
「んなぁ?!なんだぁ!?」
”さぁーキタ!さぁーキタ!ぼ・く・の・上腕二頭筋が・・・キタぁ!!!!”
「あれ、マジカ?!アンデットとかそのたぐいじゃないの?!」
メソメソは筋肉隆々のオッサンのビキニ姿にげんなりしている。
しかし、都市のあちこちでは筋肉隆々のオッサンマジカの登場に沸き立っている声が聞こえる。
”さぁ、みんな。今日も一緒に・・・んぅぅぅぅうううレッスン!!”
”レッスウウウン!”
そう言うとマジカはモスト・マスキュラー(腕を胸の前で曲げて胸筋を強調する)のポーズを取り、
両側のグラマラス美人エルフもそれに続いて同じくポーズを取る。
・・・かなりデカかった。
「な、なんなのあれ。馬鹿じゃないの?!」
「どういう事だ師団長!なぜマジカが堂々と投影魔法で・・・」
戸惑う三人にニッセルはゆっくりと口を開いた。
「王女・・・今、この武装都市ヤッチ・マイナの神官はマジカなのです」




