第七話
「そんな馬鹿な、大体神官の任命には一部例外を除いて王国幹部会の許可及び僧侶の派遣が義務図けられている。
マジカが神官の座に就いたならこちらに報告が・・・まさか」
「そうです王女、そのまさかです。その”一部例外”によって今まさにマジカが神官の座についているのです」
ニッセルは申し訳なさそうに詫びた。
「だから王国にマジカの連絡が入ったのね、でも何故?マジカが神官になるなんてまず貴方達が許さないでしょうにーーー」
だが彼女たちの話を遮るかのように投影魔法のボリュームが一段と増し始める。
”さぁ、エルフのみんな!今日も元気に・・・バッチコーイィィィ!!!”
”バッチコーイィィィ!”
「あの、いや、さ」
”さぁこい俺の上腕二頭筋っ、バイセップスゥ!”
”バイセップスゥ!”
「な、何という力こぶしぃ!」
”はいっ!はいっ!起きろ俺の上腕三頭筋っ!きっ、きた・・・トライセップスぅ!”
”トライセップルぅ!”
「ムキムキのエルフってなんかきもいんだけど・・・」
”最後は決めてっ!ハイしょーりのポーズぅ!!”
””サイドチェストォ!!””
「はぁ・・・全く」
いつものお決まりであろうかの台詞にニッセルは頭を抱え溜息をついた。
武装都市のあちこちから沸き立つ歓声。
今まさに都市の住民は映像に無我夢中になっていた。
「しかしだニッセル師団長!映像を見る限り彼は健康的なタダのパフォーマーで害があるように見えない。そしてそれが民の信頼を得ることになっているのなら何ら問題がないのではなかろうか?」
当然の疑問をぶつけるプラプラにニッセルは目を吊り上げ答える。
「王女、それが永年より語り継がれるエルフの魔法文明の崩壊、エルフレートの崩壊を意味してもですか?」
「なん・・・だと・・・」
思いがけない台詞にプラプラは硬直した。
「昼間の中央闘技場での試合は見ましたね?一見するとタダの魔法合戦のように見えましたが・・・」
「そ、そうだよっ。私変だと思ったっ。炎を使うきれいな騎士の人は正統派魔法使いって感じだったけどもう一人の
ごつい体の人は氷の魔法を拳に宿らせて身体強化みたいに使ってたっ」
広場の際はあまりの気迫にきょどッていたメソメソが急にしゃしゃり出る。
「それだけじゃないわ、露店の人も、そこら辺歩いている人も、みんなガタイいい人が多いのよ。
なんかみんな格闘家って感じで」
ピコピコも今日過ごして感じた疑問を素直に打ち明けた。
「当然だ、奴は実は魔法をことごとく嫌っている。
ゆえに自身の肉体強化を一番として魔法を衰退させようと活動しているんだ。神官という立場を利用してな」
ニッセルは映像を見ながら淡々と説明した。
「王女、しかも今あいつは独自に自警団を築き上げ、我ら王国直属の騎士師団を乗っ取ろうとしております。
しかもあいつは自身の権力を振りかざし、まだ1000歳満たない若いエルフ(現実では十代)をかき集め
報道で言うところの・・・その・・・”みだらな格好”をさせ、はべらせるとんでもないペド野郎です。
あのマジカの好きにさせてはいけませんっ!」
ニッセルは拳を握りしめ、怒りを露にする。
「た、たしかに。やっていることは健康的ではあるもののいささかその方向性に問題があるな・・・さすが
マジカといったところか。このまま放置しておくとR18は免れんか・・・」
「何を言ってるんです王女!!R18どころかR21までいきます!」
ニッセルの思いがけない言葉にプラプラは驚愕する。
「R21?!あーるにじゅういちってどんなの・・・」
ニッセルはプラプラに歩み寄り軽く耳打ちした。
「・・・・・・・ぶはっ!!!」
ドガッ!
余りの刺激の強さにプラプラは大の字に倒れた。
「ちょっ・・・ニッセルさん、プラプラは妙なところ刺激が弱いんですから手加減してくださいっ」
「す、すまん。とりあえず営舎まで運んで今後の対策を練ろう」
ニッセルはプラプラをおぶって営舎向かって歩きだした。
未だに投影魔法には神官が様々なマッスルポーズとエクササイズを繰り広げている。
「まったく、来て早々面倒なことになったわね・・・」
「そ、そういえばニッセル師団長。あいつの名前、なんてーの?」
肝心なことを聞いていなかったメソメソが師団長の背中に尋ねる。
「あいつか?あいつの名は・・・・・・山ん中マッスルン・・・神官」
「山ん中マッスルン・・・なんか変な名前」
そのマジカがやって来たのはわずか三か月前の事だ。
「だ、誰かっ、手を貸して。お願い!」
この武装都市ヤッチ・マイナでは武装が故につきものの問題があった。
それは火事や凍結などの人為的災害ある。
魔法石の利用は便利な一方でその管理等を怠るとたちまち予期せぬ魔法を暴発する恐れがあった。
今日はよりにもよって都市のあちこちで魔法石により火の魔法が暴発。
騎士団が火消しに躍起になるものの水の魔法は扱いが高度である為人員も限られており
手が回らないのは必然であった。
「ヤバいっあのデカい屋根もうすぐ崩れるぞ、奥さんっ早く離れなさいって!」
「駄目です、家の中にはまだおばあさまがっ」
超長寿であるエルフにとって高齢者はもっとも敬うべき存在であり、最高齢ともなれば生きる歴史となり
それは王族などと肩を並べる程であった。
そんな、武装都市最高齢の老婆がベッドの上で来るべきその時を恐れながら待っていた。
「くそっ、私は水魔法は苦手だし、他に何か」
「いっそのこと爆破魔法で屋根を吹き飛ばすかっ?!」
「馬鹿ッ!家も吹き飛ぶぞ、それよりも騎士師団の連中は!?こんな時に役に立たずにどうする!」
野次馬たちが必死にバケツで水を汲み家に放つがまさに焼け石に水である。
「そこの人、その水の入ったバケツ一つ貸してくれませんか?」
「っ?!なんだあんた・・・筋肉ムキムキの巨人みたいなっってエルフじゃないっ?!」
「良いから早くっ」
野次馬の後ろに突如現れたのはマジカ。マジカは水の入ったバケツをおもむろに掴むと勢いよく
頭からかぶった。
ばしゃーん!
「よし今行くぞおばあさんっ!」
マジカはドスドスドスと勢いよく今にも崩れ落ちそうな屋敷の中に飛び込んでいった。
「おいマジか?!」
動揺した野次馬たちが見守る中、暫くの後正面玄関から老婆をお姫様抱っこで担ぎゆっくり出てきたマジカ。
オオオオオオオオオォ!!!
群衆が湧き、老婆を救い出したマジカを称える。
その瞬間、屋敷の屋根は崩れ落ち間一髪のところで事なきを得た。
そしてマジカは美しい人妻エルフの前に立ちゆっくり口を開く。
「麗しい奥さん・・・おばあ様はもう安心です、よかったですね」
「ああ、ありがとうございます!なんとお礼を申し上げれば」
老婆はマジカの胸に顔をうずめたまま離れようとしない。
「何という逞しい胸筋・・・ほほほほ」
「ハハハハハ!なんて元気なおばあ様だ!奥さんも後でどうです?ん?」
「な、そんなっ・・・ぽっ」
マジカは一瞬鼻を伸ばすが直ぐにキリッとした顔に戻ると群衆へと振り返り声高らかに宣言する。
「皆さん!なぜ皆さんは助けに行かなかったのですっ!手を延ばせば直ぐ届くというのにっ!」
群衆は当然の疑問にすっかり委縮してしまう。暫くの沈黙の後、マジカは言った。
「答えられませんか?ならば私が代わりに答えましょう!
それは体力がないからです。
力がないからです。筋力がないからです!だから勇気がわかないのです!」
力強いマジカの台詞に群衆はすっかり聞き入っていた。
「皆さん、強くなりましょう!魔法に頼ってはいけません!筋肉こそが全てを救うのです!さぁーこい!!」
その一言に群衆の心は一気にマジカの虜になった。
聞けば口々に”鍛えるぞ!””これからは体力の時代だ””実は魔法苦手だったんだ”とあちこちから聞こえてきた。
「何と逞しいお方・・・若返るわいっ」
「おばあ様、よければお願いがあるのですが」
すっかり惚れ込んでいた老婆にマジカは優しく問いかける。
「うふふ、何でもいう事聞いちゃうっ☆」
「私を神官にしてください」
「・・・と、言う訳なんだ」
「「「いやいやいやっ、そりゃないでしょ?!」」」




