第26話
「か、カテゴリー31は特級魔法、使えるのは神官クラスのみ。という事はやっぱり・・・」
息を切らせながらメソメソは二人の後を必死に追いながらボヤク。
「そんなことよりそのコピー品はどこに消えたの?パパンを引っ叩いて吐かせるのが手っ取り早いでしょ」
「今しがた従事者から逃走したという報告を受けたわ。パパンは拘禁から軟禁に緩和する代わりに
喋ると交渉してきたようだ。それに乗ってしまったのが運の尽きという訳だ」
息を切らし、城を出て城下町へと辿り着く。
プラプラ達の通う学校、見慣れた街並み、大聖樹、行き交うエルフ達。
どれもこれも何ら変わりのない光景。
「どうやら、プラプラが急ぎ展開した絶対領域が功を奏したみたいね」
「うむ、他も無事ならいいのだが・・・」
ほっと胸を撫でおろす一同、しかし町の一角が妙に騒がしいのに気が付いた。
そこはエルフレート城下町の王国印エルフ豆饅頭店の店主と従業員である。
プラプラはやはり仮にも王女であるのかやはり放っておくことも出来ずに駆け寄り声をかけた。
「か、仮にもは酷いんじゃないのかな・・・」
王女であるが故に!
「店主よ久しいな!一体何があった?」
「こりゃあ、王女様!いやーまいったよ。いつもよっぽどの事が無い限りエルフ豆を届けてくれる
エルフ街道の取引先が予定日を2週間を過ぎても来やしない。転送魔法で問い合わせても応答しないし
いったい何があったんだが」
店主はすっかり空っぽになったショーケースを見て頭を抱えていた。
傍らにいた従業員が転送魔法を試みているも相手の応答がないため不発に終わる。
「プラプラ、これって・・・」
ピコピコは耳打ちする。
そもそもスマホの件に関しては緘口令が敷かれたため女王を始め一部の人間にしかまだ伝わっていなかったゆえだ。
そして気づいた。
城下町のあちこちでは本来行われるはずだった商いが滞り、エルフ全体の生活圏が脅かされていることを。
「これは・・・うむ、至急赴く必要があるようだ。店主よ、エルフ街道を抜けた先の町か?」
「ああイキリン山のふもとの町だよ。あそこは上質のエルフ豆が取れるからなぁ」
「い、イキリン山かぁ。標高はそんなに高くないんだけどあそこ何かと”云われ”が多いところだからなぁ
あんまり行きたくないんだよなぁーーーぐはぁあああ」
言い終わる前に既にメソメソの首根っこを掴みプラプラは駆け出していた。
走りながら俊足魔法をとなえ、そのスピードを瞬く間に加速させる。
「ちょ、待ちなさいよっ!俊足魔法使っても走るつらさは変わんないんだからねーーーー」
ピコピコは嫌々ながら呪文を詠唱し、プラプラの後を追った。
「何だこれは・・・」
一同はイキリン山のふもと、フグリン町にその日のうちにたどり着いた。
そこに待ち受けていたのは何ら傷一つついていないきれいな街だった。
ただひとつ、そこにある強烈な違和感を除いて。
「ぜーぜーぜーぜー・・・わ、私ちょっと休憩。ハーフマラソン並みの距離全力・・・走らせて・・・んじゃないわよ・・・」
そう言ってピコピコは地面に尻もちをついてへたり込んだ。
メソメソが辺りを索敵魔法でぐるりと見まわす。
「な、何なの、人一人歩いていないし、なんか途中で全員いなくなったように静まり返っている」
「いやちょっと待て、何か聞こえないか、ほら、シャカシャカしたような」
プラプラはそう言うと耳を澄まし、メソメソもそれにならう。
「た、たしかになんかくぐもった音が聞こえるような・・・あ、あそこの家、エルフがいる!」
メソメソはそう叫んで指差す、その先には窓際で椅子にもたれかかって何かを見ている若いエルフがいた。
二人は急いで駆け寄る。
「!!お、遅かったか」
「ま、まじか」
二人の見つめる窓の先、そこにはスマホ片手に熱狂するエルフがいた。
「マジエルフスゲー!!ちょ、マジかこれ!異世界転生してー!!」
スマホを見ながら熱狂するエルフの台詞に二人は顔を見合わせる。
「どういう事なんだ」
徐々に見えてくる町の全貌。
「ウォンさまぁああぎぢぁあああああ!!!」
「これ”投げ銭”ってどうやるの?!ちょっと、有料コンテンツってやつーーー」
「・・・・・(サワサワ)・・・・(サワサワ)」
「しゃおらぁああああ!8キル8キル、日寄ってんじゃねーぞおらぁ!」
「・・・・・・・・・・・・(ピーピーピー)あ、充電しなきゃ」
人々はいた。しかし皆一様にスマホを眺めては撫でて夢中になり、または呆然とし、はたまた興奮していた。
しかし王女は総じて断言できることが一言あった。
「無気力だ!生きることに無気力になっている!」
プラプラはパン屋のカウンターで腰掛けスマホゲームに夢中になっている店主の胸ぐらをつかみ
叱責する。
「おい店主!客だぞ、パンはどうした?カウンターに並んでいるパンはもはやカビてしまっているではないか」
「おいやめっーーって王女様ぁ?!ああ、あのその、これ済んだらやりますんでもうちょっと待っててくれませんか?」
如何にも店主は鬱陶しそうに王女の手を払いのけ、再びスマホに見入った。
「プラプラあそこ見て!あっちの倉庫の方、エルフ豆を出荷している場所じゃない?」
ピコピコが指さす方を見るとそこには数名の人間がずた袋に腰を下ろしてジーっとスマホを眺めていた。
「・・・・・・なんて感動的なんだ、グズッ!」
「何をやっている?泣きたいのはエルフレートの城下町の人間だ!お前たちが働かないから町は段々と
混乱して言っているぞ!」
王女は威厳を放つ。本来ならば戦慄モノだがしかし倉庫員達は何ら怯える様子もない。
それどころか彼らは周りの全てが鬱陶しそうだった。
「…チッ、うっせーな!反省してまーす」
「なっ?!仮にも王女に向かってその口のーーー」
「ま、まってプラプラ!彼らをよく見て!」
メソメソが腕をつかみ何やら意味深なことを言いながら制止する。
「彼らの何を見ろってーーーうん?まて、こいつら・・・」
そう言ってプラプラは掴んでいた腕を離すと腕輪を回し、簡単な詠唱を唱える。
カテゴリー5、最も容易い魔法・相手の魔力を探る”ノゾキ・ミヨン”
だが目の前の彼には本来探れるはずの魔力の情報が出てこない。
「どうした?!まさか私の魔力がスマホの影響を?!」
「そうじゃないわプラプラ。この人達、魔力がほぼ”底”まで落ちてる・・・」
ピコピコも同じようにノゾキ・ミヨンを唱えて彼らの魔力を探る。
目を凝らすとほんのわずかであるが生まれたての赤ん坊程のオーラが感じ取れた。
「なんてことだ・・・このスマホの影響力なのか?!」
王女は魔法を町中全てのエルフに当てた。
するとどうだろう、倉庫員はまだ”マシ”レベル。
高齢なエルフに至ってはほぼゼロに近い。
「こ、これがスマホの力・・・なのか」
プラプラは思わず膝をつく。
それはまるで戦わずして勝つという言葉を具現化しているかの如く威力であった。
その時、か弱き声が聞こえた。
「お、王女様、申し訳ございません。申し訳ございません・・・」
三人が振り向くと、そこにはこの町の町長であるおおばば様が弱弱しく歩み寄って来た。
「おおばば様か?!久しぶりだっとと、無理をするでない!ピコピコ、手を貸してくれ」
「言われなくても!!」
二人は急いでおおばば様に駆け寄り、抱えると近くのベンチへと腰を据えさせた。
おおばば様はエルフレート王国の中でも指折りのご意見番として有名な最高齢エルフであった。
「私が不甲斐ないばかりに、町の人間が、本当にーーー」
「よい、むしろおおばば様を守らなくてはならない住民自身に責任がある!
後でしかりつけておいてやる。して、いったいこの状況はどういう事だ?!」
それを聞いたおおばば様は震える指先でただ一つ三人の遥か後方を指差した。
三人は振り向き指さす方を見つめる。
「や、やっぱりなのかぁ」
「なんとなく、想像はついたけどね」
「”いわれ”のある山、だな」
指差した先、それはイキリン山。
「そうです王女様、異世界より来訪した”マジカ”・・・その最初に降り立った地。
人々を虜にしたスマホとやらの石板は、そこから来たのです」




