第25話
「エルフレート魔封印緘口令?!」
「まふういんかんこ・・う・・・言いにくいなこれ」
窓から覗く景色は灰色一色でいつもの鮮やかな青に彩られるエルフレート城下町には似つかわしくなかった。
メソメソは窓から目を離すと食事を持ってきたプルプルを不安げに見つめた。
「事が事だけにです。王女は何としても今回の事態を食い止めたい、その為には止む無しであったかと」
「だとしても私達には一言も無しにしかも態度まで一変させることないじゃない?」
ピコピコはトレイに乗っていたマメパンをつまむとゆっくりかじった。
「それだけ貴方達の事が大事だったのです。傷つけられたくない思い一心でしょう」
プルプルはそう言うと軽く襟を整え、踵を返す。
「これからどこへ?」
「現在、パパァンを尋問中です。このスマホが他にないか国中くまなく捜索せねばなりません」
「そんなにヤバい代物なの?”スマホ”とかいうもの」
ピコピコはいかにも大げさだと言わんばかりに肩をすくめる。
そうするとプルプルは少し顎に手を当て思案した後、ある妙案を思いついたのかメソメソにある提案をする。
「メソメソ、鏡城伝説は知ってるな?あの神話に出てくる鏡をスマホに変えてみろ、それが実在した伝承だ」
「え、あれっておとぎ話とか創作の類じゃなかったの?!」
「あーあれ、ちっちゃいころに教科書の片隅にのってたのチラ見したけど全然覚えてないわ」
メソメソはプルプルの提案に驚きを隠し切れなかった。
「とりあえず、形式上君たちは軟禁期間が過ぎるまでは自由になれない。兵にはある程度の無理を聞いてやるよう
伝えてはいるが有り余る時間があるだろう、ここで歴史の履修でもしていてくれ」
そう言うとプルプルはさっそと部屋を出て行ってしまった。
二人は今、エルフレート城の客室へと軟禁状態となっている。
あの会場にいたエルフ達は皆兵たちによって拘束され、期間が過ぎるまで軟禁されることとなったのだ。
その理由はたった一つ、スマホなるものを見たかららしい。
「じゃ、メソメソ私は寝るからおとぎ話をお願いね」
そう言うと軟禁とは思えぬほどの豪華なベッドに身を沈めるピコピコ。
「あーずるい!自分だけ!!」
そう言うとメソメソもピコピコが陣取るベッドにダイブし二人してベッドの取り合いになったのである。
日付は変わり、エルフレート王国・謁見の間。
さわさわっ・・・。”ブレイブファースト!!”
「おおっ!」
さわっ、さわさわっ。”ストームレイン!!”
「ぬぉおお!!」
接収した渦中の禁忌物”スマホ”なるものを親衛隊隊長プルプルがなぞり、そのたびに放たれる言葉”だけ”の
魔法にその場にいた一同は騒めき、どよめき、怖気づく。
「やはり間違いありませんね・・・666年に一度、マジカに紛れてたどり着くあってはならないマジックアイテム・・・」
久しぶりに登場したプラプラの母親、ブラミール女王は苦渋の表情を浮かべた。
「母上、本当にこんなものがこのエルフレートを滅ぼしたのでしょうか?私にはにわかに信じられません」
プラプラは城一帯の絶対領域展開を発動・維持しつつ問う。
「かつて”現在”と呼ばれた世界がありました。そこでは魔法も力も持たない私達と似た、か弱き種族”ヒューマン”が
生活しておりました。ですが彼らにはある一つの能力があったのです、その能力の名は”科学”」
「科学・・・」
プラプラは息を飲み、いつになく真剣な母の、今は女王としての彼女を真剣に見つめる。
「科学の力は凄まじく、海を割る力、大地を削る力、天を焦がす力まで万能を誇りました。彼らはその様々な力を持って
終わることのない戦いを続けました。そしてある日、科学によって生み出されたある力によって自らを滅びの道へ
矛先を向けることとなったのです」
「それこそがスマホ・・・ということですか?」
プルプルは信じられないといった様子で片手に持ったスマホを見つめる。
当然だ、そんなヒューマンを滅ぼしたであろうそれは何ら害することなく自らの掌の中に納まっているのだから。
「しかしながら母上・・・いえ、女王陛下、私にはとてもこれがそこまでのものとは思えません。
と、いうよりもそんなに危険ならば破壊してしまえばよいのでは?」
いつになくまともな意見を言うプラプラ、しかし事はそう単純でもなかったようだ。
「ーーところでプルプル、これを暫く触ってみての感想はいかがですか?」
「か、感想ですか?そうですね・・・まあ、その正直なところ危険性は全く感じません。
それどころか面白さすら覚えましたね、なんというのか、単純ですが直感的に操れる感じが・・・」
眉一つ動かすことなく、女王は淡々と続ける。
「どのくらいそれを触っておりましたか?」
「そうですね、女王に渡されてから・・・1時間もなかったでしょうか?」
「3時間です」
「えっ」
「貴方は私に”それ”を渡されたから3時間、没頭しておりました」
そう言うと女王は映写魔法を唱え、渦中のプルプルを映し出した。
一同はそれを見つめるなか、プラプラは真っ先にそれに気づいた。
「これはっ・・・」
「な、なんだというのです王女?」
「無防備すぎるっ!!」
「なっ!そんなこと、そんなの当り前ではありませんか。こうやって調査ーーー」
プルプルが恥ずかしがる中、女王は不安的中と言わんばかりに確信をもって答えた。
「その通りです、親衛隊隊長というものが無防備すぎますね」
「いやそんなっ、そのっ、女王申し訳ございまーーー」
そこでようやくプルプル自身も事の重要性に気が付いた。他の者もである。
「そうか、そういう事かっ!これは、生きる者たちにとっての究極の娯楽ーーー」
「スマホは瞬く間にその数を星の数ほど増やし、人々はそれに没頭し、やがて夢中になり、次第にそれを持ち歩くようになり、仕事中もそれをし、寝る前も、食事の最中も、愛する渦中も、それに没頭し、やがてヒューマンは口々に
こう訴えるようになる」
その時、謁見の間の扉が開かれてた。
勢いよく飛び出してきたのはピコピコとメソメソだ。
「”それ”がないと生きていけない」
「お前たちっ」
プラプラが軟禁状態だった仲間の登場に驚きと喜びを交錯させる。
「聞いたわよプラプラ、究極の堕落禁忌物”スマホ”とはね。いくら堕落させないためとはいえ、
あの時の態度は謝罪に値するわよ」
ピコピコがいやらしい笑みを浮かべ、プラプラもぎょっとする。
「むぅうう、その、あの、すま、ない。あの時は私もどうすればいいかわからなくて」
「と、とりあえずそのスマホは早々にマジカの世界に返すべきだと思うな」
「そうね、まごついたこと言ってないでとっとと行動に移すべきだと思うわ」
二人の意見に他の者も次々に賛同する。
「そうですね、至急他の地方の神官たちに連絡しエルフレートへ召喚させてください。
プラプラ、絶対領域をより強固なものにしてください、後取り急ぎーーーー」
ダッダッダッ・・・バンッ!
「女王陛下、伝令がございます!至急ーーー」
「こちらへ」
伝達兵が汗を流しながら血相をかいて女王の元へと歩み寄る。
そして、女王の耳元へと口添えした時、女王の眼がカッと開かれた。
「・・・どうやら恐れていたことが起きてしまったようです」
「母上・・・まさかっ!?」
「パパンが口を割りました、スマホは既にカテゴリー31・複製魔法により増殖しております」




