第20話
「何よメソメソ”かゆうま”な奴って?」
「そうだぞメソメソ、正しくは”かゆ、うまい”だ」
「何メタ発言してんだか・・・」
三人は広い吹き抜けのロビーのあちこちを眺める。
「主人や家の者は留守か?」
「留守ってことは無いでしょうよ。魔晄炉が動いてんだから照明がついているんだし・・・」
プラプラが再び大きく声を張り上げるが広いロビーに響き渡るだけで直ぐに静寂が戻る。
「埒が明かんな。よし、手分けして家の者を探そう」
「ほ、ほら出たセオリー通りっ!そうやってみんなバラバラになって、ちょうやばいやつが”かゆ、ウマー”ってっ」
プラプラの咄嗟に出た提案を既にボロ泣きのメソメソが必死に反対する。
「何馬鹿みたいなこと言ってんのよ・・・あんた500年しか生きてませんって訳じゃないでしょうに(エルフ視点)」
「い、いくつになっても怖いものはダメなのっ!別に一人で行こうがみんなで行こうが一緒でしょうに・・・あっ」
メソメソは言い終わるや否やマズったと顔をしかめた。
「その理屈で言うと一人でもいいってことになるわね、じゃ、私早くシャワー借りたいの」
そう言うとピコピコはとっとと反対の扉へと向かっていった。
「じゃ、私は奥を見てくるとするか」
プラプラも何食わぬ顔で大股でずかずかと奥へと消えてしまった。
「ち、ちょっとっ!何してんのっ!行かないでよっ!あっ動けない動けない、誰か誰かぁあああ・・・・ちくしょー」
メソメソは暫く泣いている”フリ”をして気を引こうとしていたが結局一人になってしまった。
「ど、どうしよ、このままじゃっーーー」
その時である。
ドンドンドンッ!
背後の玄関ドアを激しく叩く音がロビーに響き渡る。
「ひぃいいいいっ!助けてぇ」
メソメソは慌てて近くの扉に飛び込んだ。
「こ、ここはダイニング?とりあえずなんとかしなくちゃっ」
メソメソは広く数十人は座れそうな食堂に来た。
壁には価値の有るのか無いのかよくわからないがとりあえず高級そうな絵画がずらりと並んでいる。
取り付く島も無く心ここにあらずのメソメソであったがふとある事を閃く。
「そ、そうだセーブルームだっセーブルームにいれば絶対に襲われないっ!セーブルームに入って朝まで待って
とっとと脱出しよう。ね、寝ればMPもある程度回復するしっ」
そうと解ればメソメソは辺りを見渡し、いかにも”らしい”ドアを見つけて恐る恐る近づいた。
しかし、ふと床へ目を落とし震えあがる。
「うぎゃあぁあ!ち、ち、血だぁーー」
床に広がる赤いしずく、わずかに酸味のあるトマトっぽい香りが漂う、何よりここはダイニングであったが
そんな事はいざ知らずメソメソは顔を青ざめた。
洋館に響き渡るほどの絶叫を上げて思わず泡を吹きそうになるが必死にでこらえる。根性で。
「ううううっ、お、おぎゃー!おぎゃー!」
しかし、もはやエルフとしての大事な部分を失いつつあるのか歳も憚らぬような鳴き声を上げ、
フラフラになりながら隣のドアをゆっくり開いた。
(ドックン!ドックン!ドックン!)ギギィーーーイ!
「ううっ・・・」
辺りを見当たすと奥の方に人影が見える。
耳が長い、エルフだ。
メソメソは藁をもすがる思いで必死に駆け寄り恐る恐る声をかけた。
「あ・・・あ・・・助かった・・・あの・・・ここの人でーーー」
様子がおかしい。
エルフは我関せずと言わんばかりにかがんだままで何かを貪っている。
もさ、もさ、もさ、もさ。
「あ、あのその、勝手に入ってごめんなさい・・・わたし!」
メソメソの声が思わず裏返ったとき、ようやく気付いたのかエルフがゆっくりとメソメソの方を振り返った。
「!!!」
その表情は実にあどけなく、そしてーーーーー。
「お”、お”、お”ほぉおおおおおおおおお!!!」」
プラプラに負けんばかりのオホ顔&オホ声をだして急げ周り右をして一目散に駆け出す。
「プラプラぁあああ!ピコピコぉおおおお!!」
ダイニングに戻るや否や、飛び込んできた光景にメソメソは目を疑った。
「おほおおおっ!おぎゃー!おぎゃー!」
ダイニングには口を真っ赤に染めたエルフが二人こちらを覗き見て両手を前に突き出した。
「あんぎゃあーーー!」
メソメソは小柄な体躯を生かしダイニングの中央にある長いダイニングテーブルの下を潜り抜けて
一気にロビーに続く扉へ辿り着く。
(も、もうどうでもいいっ!逃げようっ!MPならなんとかなるし!)
メソメソはパニックで頭が真っ白になりもはや自我崩壊寸前だった。
「おぎゃあああああああ!」
赤子にも負けない鳴き声を上げながら扉を開け放つ。
「!!!」
ロビーにいた背を向けて佇む二人の影。
やがてゆっくりと振り返るとそれは見覚えのある姿。
プラプラ・・・ピコピコ・・・。
「あ・・・ああああ・・・・」
その顔は深紅に染まっていた。
「あ・・・もう・・ダメぇぇん~」
メソメソは白目を剥いてその場に大の字に倒れこんだ。
「ちょっとメソメソっ!何倒れてんの?!」
「どうしたメソメソ、まさか”あの日”か?!」
「”あの日”って何よ。ってかあの日で倒れてたまるかっての。ちょっとメソメソっ!」
顔こそ真っ赤に染まっているもののいたって正気であった二人は倒れこんだメソメソに急いで駆け寄る。
やがてダイニングから先ほどの顔を真っ赤に染め上げたエルフもやって来た。
「すみませんっ!突然の事だったので驚かれたようで、お怪我は?!」
ダイニングからやって来た彼女たち二人も顔こそ真っ赤に染まっていたもののいたって普通であった。
「すみません、お屋敷の方。メソメソはなんていうか、その、情緒不安定というかなんて言うかその・・・はっ!」
その時プラプラは気づいてしまった。
メソメソの腰回りに漂うかぐわしい香りを。
やがてそれは床を金色に染め上げる。
「ほう、血だまりならぬ、聖水だまーーー」
「王女ちょっと黙ってて」




