第17話
「あ、あれは、ムシ落とし!」
「ムシ落とし?!」
”ムシ落とし”それはダンゴムシエンジンというタイヤとエンジンが一体となったシステムならではの
技術である。
本来は雨天の際の魔法路の雨水停滞による路面スリップを軽減する目的で魔法路の路肩に水を逃がすための緩やかな魔法溝である。
だが、本来そこに動力とタイヤを兼ねたダンゴムシを滑り込ませるなんてのは狂気の沙汰であり、
途端に大きく道を外れクラッシュするのは目に見えている。
しかしながらこのピコピコ、そこをあえてインより突っ込ませて滑車はドリフトを魔法で維持するという
高等技術に打って出たのである。
「なんていう解説全開のコメントっ」
「な、なんでもかんでも魔法で片づけてんじゃねーよ!」
メソメソは号泣に加え、○○袋を顔に突っ込ませながらそう絶叫した。
「くそっこの数年、この峠では最強だったこのアタイがっ・・・ケツを眺めることになるなんて」
「嘗め回すの間違いでしょう?!この変態エルフっ!」
二人は共に罵り合いながら第一関門の連続ヘアピンを抜けていく。
「すっげー何あれ?!ムニムニが後塵を喰らってんぞ」
「おい、伝令魔法!うちのチームにも直ぐに連絡しろっ、大変なことになってんぞって!」
「何あの馬車・・・ぱちろく?なにそれ?時代はET-Rっしょ!!」
「俺はムニムニに賭けるぜ!地元勢応援すんのは当然だろ?!」
「おい押すなって!生身で魔法路に出たらヤバいだろうが!」
「エルフマメ饅頭はいかがですか~?今ならひえひえエルフマメとうふもありますよ~」
「ハイチケットはこちら!ちゃんと列に並んでくださいね!」
既に峠はギャラリーでごった返し、何時ぞやの海の家並みの盛況になっていた。
「こ、これもしかして・・・」
ピコピコは道路脇のギャラリーの中にオーケーマークを出す会長の姿を見逃さなかった。
(いい加減に・・・あ、あいつ覚えてろっ!)
ピコピコ達は流れる背景に映る会長にあらぬコンプライアンス抵触発言をするのであった。
その時。
「負けられないのよぉ!!」
グゥオン!
直線に入った途端、ロータリンダンゴムシのエンジンがうなりを上げ加速する。
コーナリングで付けたアドバンテージが一気につめられ、次のカーブに差し掛かった時には横にビタ付けされた。
「あんたたちにぃいいい!!」
そして、コーナー出口では再びムニムニに前を譲ることになってしまった。
「やはりロータリンエンジンは鬼に金棒ね」
「ど、どうすんの?せっかく抜いたのに直線に出た途端抜かれちゃ意味ないよっ!」
メソメソは焦るが以外にもピコピコは冷静だった。
「ぴ、ピコピコ?」「大丈夫、勝負はこれからよ」
そのころ。
「順調だね兄さん・・・」
「ああ、オルガンよ。我々の野望までもう少しだ」
明日太郎のコンソールを眺めるフロン兄弟はそういって頬を上げた。
「おいっブーメラン兄弟!お前たちはいったい何を企んでいる!?」
あらゆるコードで縛り上げられたプラプラは兄弟の背に向かって声を張り上げた。
「ふふっ、もうすぐわかるよコンプライアンス王女様・・・」
「王女よ、もう少しだけ我々に付き合ってもらおう。それまではその特等席でレースを見学してるがいい」
兄弟は王女を気にも留めることもなくレースと明日太郎が映し出すゲージ群に夢中だった。
(くそっ、しかしなぜ詠唱しても魔力が出ない?これはコードのせいだけでは無い・・・もっと根本的な)
プラプラは必死に辺りを探るが原因となるものが見つからない。
しかし、ある異変に気付く。
(・・・・・・なんだ、この音?)
ギャリギャリギャリギャリギャリッ!!
ゴアッ!
ドヒュン!
「勢いが衰えないっ!峠始まって以来のニューレコードかぁ?!」
沸き立つ野次馬たち、レースも中盤を越えてボルテージは最高潮に達していた。
二台は既に三つあるうちの連続ヘアピンのうち、二つ目を越えようとしていた。
とうぜんトップに立っているのは・・・。
「どうしたの、あんたのプリケツはどこに行ったのかしら?!」
ピコピコであった。
(くそっくそっ!こんな屈辱っ、ふざけるな!こんなーーー)
そんな中ムニムニはイライラを隠せずにいた、なぜなら。
グォオオオオオオオ!
再び、ロータリンダンゴムシのエンジンが呼応を上げる。
「ほら待ってましたの直線よ!早く抜かしたらどう?!」
「あ、あおりすぎぃ~」メソメソは既に諦めモードだった。
再び直線に入り、アドバンテージを詰めるムニムニ。
しかしながらその心境はとても喜ぶべきものではなかった。
(直線に入った時だけ差を詰められ、コーナーに入ってぶっちぎられるって事はつまり)
「つまりつまり・・・」
「今頃気づいたのムニムニ?そういう事よ!」
怒りと羞恥心で顔を真っ赤にしてムニムニは声を張り上げた。
「つまりマシンの性能差だけでアタイの腕が単純にに劣っているってことかよ、ちきしょーめ!!」
ムニムニはあえて抜かすことなく、並行して最終ヘアピンへと突入することを決意した。
(負けてないっ・・・マシンじゃないんだ!純粋に腕が勝っていることを証明してやる!)
意を決したムニムニを感じ取り、ピコピコは口元を緩ませながらも目をぎらつかせた。
ぴろんぴろん、ぴろんぴろん。
「ちょっとメソメソ、こんな時に何素っ頓狂な音出してんのよ!緊張のシーンが台無しぃ!」
「ゴメン、転送魔法の受信マナーモードにするの忘れてた」
メソメソは腕輪のリングを回す。
「ちょっ、でるんかーい!」
「はいメソメソ」
”メソメソか?!私だ、プラプラだ!大変なことになったっ”
腕輪から聞こえてきたのは血相をかいている様子のプラプラだった。
「大変なのは前からじゃない?とうとう隠すものもなくなって放送禁止になったとか・・・」
”そうではない!いや、そうなのかもしれない!しかしだ!それよりももっと大変っ、のほぅうう!”
プラプラは何かに必死に耐えているのか、何とも卑猥なうめき声をあげる。
”卑猥ではなぃ!い、良いかよく聞け、私の背後、凄まじい音が聞こえる代物、これは魔法圧縮炉だ。
魔法道路が抑制するため吸い取っているお前たちの魔力を兄弟が吸い取ってこちらに集めているんだ!
このままではっ・・・お〝お〝ぉぉん!”
「魔法圧縮炉ですって・・・そういえばあの兄弟の乗ってる明日太郎とかいう蟹---」
「ピ、ピコピコあれ見て!!」
メソメソはぐあんぐあんとコーナで左右に振られながらも必死にゴール付近にいる兄弟たちを指差さした。
そこにはレースで発生した有り余るほどの魔力をかき集め、膨大なエネルギーを蓄えた魔法圧縮炉と
更にプラプラの魔力が加わったそれは既に爆発寸前に輝いていた。
頭上に輝く満月がより一層際立たせているそれは、明日太郎についている大きな砲台である。
「くそっ・・・そういう事か、このまま走り続ければあいつらに余計に魔力を注ぐ結果になってしまうっ!」
一方ゴール付近では既にギャラリーたちで埋め尽くされお祭り騒ぎ。
その動乱に生じて兄弟たちの動きは気にも留められていなかった。
「いよいよだね兄さん」
「ああ、オルガンよ。これからは私達の時代だ、下等生物エルフ共を駆逐し私達が真のニュー・・・」
兄弟たちがコンソールを弄り、明日太郎の照準をセットする。
狙いはもちろん・・・エルフレート王国。
「させるかぁああああ!!!」




