第15話
エキゾースト。
凄まじいスキール音と重低音が峠道に木霊する。
「あたいのっ! 前を! 許可なく走るんじゃないよぉぉぉおおお!!」
ギャリギャリギャリギャリ!!!
Uの字カーブのダウンヒルを凄まじい速さで駆け下りる馬車。
だが馬車を引いているのは馬ではない、巨大なダンゴムシだ。
エルフにしてはかなりのレアケースである自身の”アタイ”呼称はさておき、
美しくも鋭い目線の少女は馬車についているステアリングを軽やかに回す。
「この8本気筒のダンゴエンジンに私の魔力が加われば他のエルフ共など正にアウトオブ眼中!!
このディー峠であたいにかなうやつなどっ!」
馬車のギアを迅速に入れる。
カッ、ゴキッ! ダンゴムシから火花が散り、破裂音を発する。
バァアアアアン!
「いないんだよぉおおお!!」
鮮やかな円を描きながら魔法路を辺りの木にスレスレで曲がる。
「すごいね兄さんっ・・・」
「ああオルガンよ、この峠で走り屋達によって徐々に溜まる魔法力・・・そしてプラプラの魔力が合わされば」
ジャギアは不敵な笑みを浮かべる。
「流石兄さん・・・全ては計画通りだね」
その時、二人の前に閃光が走った。
「「!!」」
ドォオオオオオオオオオオオン!!
「誰だいっ!あたいらの走りを邪魔する輩は」
過ぎ去ったかと思われたエルフは得体のしれない気配を感じ取り、Uターンしてフロン兄弟の元に舞い戻っていた。
「そこの野次馬っ!この峠をアタイらのチーム・プロジェクトE!そしてこのリーダー、ムニルゥス・ムニュムモルに挨拶もせずに通れると思っているのかい?!」
「ムニムニッ!ちょっと気が散ったからって観客に当たってんじゃないわよっ」
「なっ?!うるせー黙ってろ!」
他の馬車仲間のエルフ達に茶化され、ムニムニと呼ばれたリーダーの少女は顔を赤めらせながら叱責した。
「これはこれは・・・エルフレート1の走り屋、ムニムニ様にお声を駆けられるなんて恐悦至極」
「ムニムニいうなっーーーってお前ら、マジカかっ?!何しにきやがったこの変態どもっ」
ムニムニは馬車から降りて、ケンカ上等と言わんばかりに腕を回しながらフロン兄弟に歩み寄って来た。
既に歩みながら詠唱しており、どうやら魔法力も相当であると直ぐに感じ取れた。
「ぼくたちは貴方に敵対するも何も・・・敬意を表しているのです」
「敬意どころか・・・私達は共感を覚え、ぜひ貴方をエルフレート王国の地位を確立させたいお手伝いがしたいのです」
「んだとぉおお?」
深々と兄弟に礼をされ、ムニムニはすっかり意気消沈してしまった。
そこに仲間の一人が急ぎ駆け寄ってきて耳打ちする。
「あねごっ、やめとけよ!仮にもこいつらこの世で右に出る者はいないほどの変態マジカだぜっ
きっとスキを突かれて”ピー”とか”ピー”とか”ピピピー”とかされるに・・・」
ムニムニは聞きながら鼻血が出る程顔を赤めらせた。
「んなっ、そんなすごいーーいやヤバい事っ!お前ら覚悟を」
その時、今まで暗がりでわからなかったが兄弟の背後にある物体に目が入った。
そう、巨大な蟹マシン・明日太郎に括り付けられたプラプラ王女である。
「こ、これはっまさか王女か!?」「ぜったいあれ虫さされてる、大量に刺されてるっ!!いやマジでっ!」
ギャラリーが動揺する中、オルガンが高らかに笑った。
「プラン王女は大丈夫だよっ、蚊帳魔法をかけているからね。それよりもぼくたちは他のマジカと違って変態じゃないよ」
「え、でもそのブーメランパン・・・」
「リーダー、ビジネスという言葉を聞いたことは?」
ジャギアはあえてわかっているよねと言わんばかりの体で問いかけた。
「ビ、ビジネ・・・ああ、ビジネスな!当たり前だろ、エルフ一の走り屋が知らないわけがない!」
それを聞いて兄弟は顔を見合わせてニンマリと笑った。
「ではリーダー、僕たちとビジネスをーーー」
数日後ーーー指定された場所にて。
「ここがその峠なのね・・・しかもこんな馬車まで。私は走り屋じゃないわよっ」
「ま、まあそういわずにね。ここに来いっていう事は走りで勝負しろって事でしょ?」
ピコピコとメソメソは二人馬車に乗りフロン兄弟の待つⅮ峠へとやってきた。
勿論、プラプラはともかく二人に馬車などという高価な代物を買う余裕などない。
「いやあ・・・売上金、どうしようかしら・・・」
「と、とりあえず頭金はそれで払って後はプラプラのツケにしたけど、まああの女王様ならなんとかするよ」
ピコピコのポケットにはローンの契約書が突っ込まれており、72回払いとなっていた。
「しかしまあ、中古とはいえよくこんな馬車が残っていたわね・・・」
ピコピコは前のダンゴムシならぬエンジンを摩る。
「い、一時期はやったよね”ぱちろく”。一部の地方にしかいないダンゴムシから出来てるんだけど
そのあとすぐ品種改良したモデルが出て一気に廃れたけど・・・」
メソメソが当時のカタログを見てマニア心をくすぐられるのかニタニタしている。
「もうすぐ山頂の展望台だけど・・・ちょっとあれ、もしかして」
二人の目に入って来た黄色の車体のシルエットと一風変わったダンゴムシエンジン。
「ふっ・・・きたな鴨葱っ!」
「あれって、地元で有名なプロジェクトエルフっていう走り屋でしょ?!それに隣にフロン兄弟も」
フロン兄弟は山頂の展望台付近に陣取り、明日太郎と一緒にこちらを眺めていた。
勿論、プラプラはまだ縛り付けられたままだ。
気の性かもしれないが沢山のケーブルがあらぬ絡み方をしており、
周りのギャラリーたちの映写魔法の格好の餌食となっていた。
「あいつまだ寝てんの?!捕まってから5日もたってんのよ」
「昏睡・・・冬眠・・・もしかして・・・死!?」
「そんなわけないだろう、少しは仲間を敬ったらどうだ?」
流石にフロン兄弟も突っ込みを入れる。
「彼女は明日太郎から発生される最高の幻影魔法で眠ってもらっているだけ・・・しかし、飲み食いしているわけでは無い」
「そう、勝負を急がないとそろそろ危ないかもしれないよ」
オルガンはそう言うと明日太郎のコンソールを弄る。
「ぬ、ぬほおぉお・・・ほぉおお・・・イ、いってるから。イッテルカラぁああ」
「いつもと変わらんような気が」
「お、同じく」
呆然と見つめる二人の前にプロジェクトエルフ・リーダーが立ちふさがった。
「アタイの名はムニムニ!さぁ、アタイと対決してもらうよ。あんたのその型遅れ”ぱちろく”。
当然そのつもりなんでしょ?」
「勝負って・・・いやちょっと待ってよ!あなたエルフのくせにマジカに味方するって言うの?!」
「味方じゃない。これはそう、ほら、あれ、ビジネスだ!!」
「その口ぶりは絶対解った感じじゃないし・・・」
ピコピコが怖気ずくのも無理はなかった。
相手の馬車は最新モデル、ロータリンダンゴムシと呼ばれるきわめて馬力の高いダンゴムシをエンジンに搭載する
スポーツタイプだった。
「リーダーの言う通りだよ、君たちがこの峠のレースに勝ったら王女は返すよ」
「負けたらどうするのよ?金なんてないし負けたら負けで別にプラプラなんて騎士師団の連中が助けに来るでしょうよ」
ピコピコはあっけらかんとした表情をしているのでフロン兄弟は呆れた表情をしていた。
「負けたら、アタイらを学園に入れてもらうっ!」
リーダー・ムニムニの突然の発言にメソメソが戦慄する。
「こ、こんな不良エルフを?!自分の事を”アタイ”とかいうエルフのレアケースを?!」
そう聞くや否やムニムニは一枚の紙を取り出した。
「編入願書!ここに在校生の推薦サインが二名入れば学科試験パスで編入することが出来る!!」
(くそっそういう事か・・・でもそれにしてもフロン兄弟の思惑が見えない。私達が勝負することによって得する
理由は何?マジカが得する事とは・・・)
ピコピコはフロン兄弟を暫く見つめながら思考し、決断した。
「いいわ、乗ってあげるこの勝負」




