第十話
「まさかそんな、妹が?!」
そんな一同の視線を感じ取ったのか映像目線でプルプルがこちらを向いてゆっくり微笑んだ。
「?!ヤバいな・・・女王陛下親衛隊プルプルがお忍びで参加してるとは、どうする師団長?」
ニッセルは奥歯をかみしめ、意を決したように武者震いをした。
「構いません、最近はロクに稽古も合わせておりませんでしたし。良いきっかけです。私の事はどうぞ構わず」
ニッセルは既に臨戦態勢だ。勿論他には目もくれずプルプルを一直線にとらえた。
そしてそれは向こうも同じようで腕に携えた小型の弓のような物のセーフティーを外した。
「やる気満々だね・・・それよりもプラプラッ!いいこと?打ち合わせ通りに行くわよ!」
予想外のプルプルはニッセルに任せるとして三人は何としてもあの山ん中マッスルンから神官の座を
奪い取らなければならないため作戦を直前まで練っていた。
「ど、どうかなぁ。みんなめっちゃ強そうだし・・・」
「案ずるより産むがやすしぃ!」
「そ、それこういう状況で使うもんなんかなぁ」
相変わらず調子にメソメソは既に半泣きだった。
”みなさぁーーん!準備はいいですかぁ!ベルが鳴ったら魔法陣に飛び込むんですよぉ!”
マッスルンがしびれを切らしてマッスルポーズを代わる代わる決めて行く。
その体の筋肉は既に寒気がするほどの汗が滴り落ちている。
「もはややるっきゃないでしょ!」
「うう、いやだなぁ~」
「行くぞ皆!」
三人もそれぞれマジックリングに最初の詠唱を装填する。
他の選手たちも一斉に構え、魔法陣を見据えその時を待ち構えた。
”それでは只今より、決勝バトルロワイヤル・・・”
”ヤッチマイナぁあああああああ!!!”
合図とともに巨大な黄金のベルが鳴り響き、選手全員が一斉に足元の遥か底に浮遊する魔法陣に飛びこんだ。
「めそめそ、良い?!」「や、やっちまぃなぁ~」
「「カテゴリー5、クラス4!!」」
ピコピコとメソメソは魔法陣にたどり着く前にマジックリングを回して詠唱を即座に始める。
「なっ?!」「卑怯だぞっ!!」
一部の選手が異変に即座に気付く。
そう、彼女らは魔法陣の効力にかかる前に威力のある魔法を放ち強豪を減らそうという魂胆なのである。
「「スピンランダァ!!」」
ダダダダダっ!!
二人のリングから放たれる楔のような形状をした圧縮された無数の空気圧。
「ぐぁああああああ!!」「きゃああああああ!!」
一部選手が直撃を受け、魔法陣に着地することなくそのまま落下した。がしかし。
「ふざけるなぁあああ!!」「はっ!この鋼の肉体の前では小枝も同然!」
バシンッ!バシンッ!と腕に覚えのある強豪は二人の魔法を無意味と言わんばかりに弾いていく。
「はっ!ざまあぁああ・・・ああ?」
一人の強豪が真っ先に魔法陣に着地したある人間に気が付く。
「ならば私のも受けてもらおうかっ!スピンランダッァアアアア!」
ズバアァアアン!
「のぉほおおおおおおおお?!!」
先ほどとは切れ味も鋭さも桁違いの空気圧が強豪を貫いた。
「いいぞぉ!やっぱり全力でやるのは気持ちいいものだなっ!!」
プラプラは普段抑えているマジックパワーを惜しみなく使えることに歓喜していた。
「マジかよ・・・全力でも私達の一つ上じゃん」
「ま、まあでもプラプラは詠唱に時間がかかるからここから、が本番」
「そうね・・・ここからはほぼ肉弾戦よ、離れずに行くわよ。
あんなゴーレムみたいな連中、詠唱中に来られたら大変だわ」
それを聞いてメソメソは怪訝な顔をする。
「え、でもそのためにあのサドから訓練を受けたのでわ・・・」
「それでもやらないのが一番なのっ、後心配なのはそう」
ピコピコは巨大な魔法陣の端の方を見る。
そこは既に何人たりともたち入れられないような絶対領域が形成されていた。
「おおおおおお!!!」「はぁああああああ!!」
交わる魔法剣、寸分たがわぬ剣の舞は観客たちの心を魅了した。
「流石騎士師団長・・・」
「王国きっての親衛隊隊長・・・これは見ものだぞっ」
互いに剣を交えながら、同時に詠唱も開始する。
「「アイスセグメントッ!!」」
どぉおおおん!
唱える魔法もタイミングもほぼ同時、寸分たがわぬ強さは双子ならではといった感じだ。
・・・しかしながら。
「・・・・おほっ!」「・・・こりゃすごい、録画魔法っ」「こらっあっちの方を見ちゃだめよっ」「えーなんでぇ?」
二人とも目のやり場に困るほどの鎧を着ている、いや鎧というかひも付きのスプーンというか、ただのスプーンというか。
「・・・やっぱりか、というかやっぱりそうか」
「ま、まあどうしてもそっちにも目が行くよね」
やはり残念ながら話題はそっちに全振りになるのであった。
試合も終盤になり、選手の数も残りわずか。
プラプラ、ピコピコ、メソメソの三人は何とか連携を取って生き残っていたが魔法陣の効果もあってか
疲弊の色が色濃く出ていた。
「はぁはぁはぁ・・・」
「こ、こんなに詠唱したの初めてかも・・・とりあえずのどか湧いたぁ」
「さすがに都市きっての強豪ぞろい、油断ならんなっ」
その時、観客からどよめきが起こる。
「っ、あれ見てプラプラっ!」
ピコピコが指をさした先にはニッセルとプルゥが過去最大の詠唱を開始していた。
次の一撃で決めるという意思が会場を支配していた。
「流石だな、それでこそわが妹」
「ふんっ、そういうお前は腕が鈍ったんじゃないか?なんせマジカに神官の座を奪われるぐらいだからな」
もっともなご意見を突きつけられ、ニッセルは少しカチンと来てしまった。
「流石王国の魔法城壁で守られながら仕事してるやつはいう事が違うな?プルプルゥ?」
ワザとらしく、名前を言うときは意地悪に語尾を上げた。
「はぁ?!武装都市勤務の奴が良く言うわ。さすがニップルは大事なとこだけ守ってるだけの事はあるなぁ」
「お前ぇ!姉妹とはいえその名で呼ぶとはどういう事だ!?」
「どういう事もそういう事もそっちから先にほざいたんでしょうがっ!」
「ふざけやがってっ!」
「やんのかおらぁ!」
魔法などいざ知らず、二人は詠唱魔法を中断するとお互い腕を振り回しながら歩み寄って行き
たちまちただの殴り合いや投げ技を繰り広げるケンカになってしまった。
「え、ええぇえええ?」
「なんでそうなるかなぁ」
「うむぅ、いくつになっても兄弟げんかは絶えぬものなのだなっ」
三人が呆れた様子で眺める中、一人感極まっていたものがいた。当然、山ん中マッスルンである。
「・・・素晴らしい、素晴らしいぃ!!これが、これこそが戦い!魔法などいらないっ、そう筋肉さえあればっ」
そう言うとたまらず山ん中は颯爽と空中を飛び交い、一回転して魔法陣に降り立った。
「え、え、えっもう来たの?!ルール違反でしょっ」
「良いわよ、どのみちあの二人のどちらかを相手にするなんてまっぴらだわ。狙うは本丸よ!」
「来たか、山ん中きんに君っ」
「マッスルンです・・・。まあとりあえずそんなことは置いといて、これ以上の長丁場は不要っ!
そして王女・・・貴方を倒して妃として迎え、エルフレートを我がものとします。いいですね」
「マジか、そんな話したっけ?!」
二人はマジカが至極当たり前のように言うので思わず面食らってしまった。
「フッ・・・いいだろうっ。こい山ん中!」
まんざらでもないプラプラはファイティングポーズを取る。
「「あんたも少しは否定するなりしろよ・・・」」




