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お母さんが私にあんなにも熱心にコミュニケーションをとろうとしてくれるのはおそらく、お父さんが仕事で忙しくてほとんど家にいないし、そんなに働いていながら我が家がちっとも裕福じゃなくて、ぜいたくをさせてあげられないからというのもあるのだ。「おもちゃはほとんど買ってあげられないし、代わりのものとして与えているのは図書館の本ばかりだ」といった具合に。読書は好きだし、そうでなくても、私はまったく気にしてないのだけれど。
私が、お母さんに質問した内容のように、政治に興味を持ったのは、恵まれているとはここでもやはり言えない住まいであるアパートの、隣の部屋で一人で暮らしている、多分三十歳のくらいの、平瀬知子さんがきっかけだ。
彼女は美人だと私は思うのだが、周りの人たちはそういうふうには見ていないみたいである。顔が目立つつくりではないからではなかろうか。とはいっても、私も容姿が良いか悪いかなんてどうでもよくて、可愛げがないと大人たちにしょっちゅう眉をひそめられる私なのに、顔を合わせると必ず微笑んであいさつをしてくれる、そのときのすごーく優しい雰囲気が好きだ。善い人で間違いないだろう。
ただ、知子さんは生活がおとなしすぎて謎めいている。もちろん、どう日々を送っているかなんて、たとえ同じアパートのお隣さんであっても、すべてを把握はできっこないけれども、「人間って、こんなに欲がなくて生きていけるものなのか?」と思ってしまう印象なのだ。
そうしたところから好奇心がわいて、彼女のことを詳しく知りたくなった。そこで、近所の人なんかの噂が大好きで、どこで情報をつかんでくるのか、やたらと物知りなおばさんが近くにはいるもので、知子さんに負けず劣らず影が薄い私は、そういう人が仲の良い別のおばさんとおしゃべりしている際にこっそりそばに寄って話に耳を傾けるというやり方で、彼女の素性をかなり手に入れられた。
知子さんは、私と同じく一人っ子で、父親と母親は離婚したので、最初からずっとではなく途中からか、母子家庭で育ったらしい。その母親は、市議会議員で、無所属ながらリベラルな政党が中心の会派に入っている。つまり中道寄りな左派政治家の子どもであり、私は政治に関心を抱いたというわけだ。
それにしても、本当にどうして左派は世界の、すべてとは言わないまでも、大半の国で政権を獲得できないのだろうか?
日本はわかる。本来、左派は高福祉の社会システムにするために国民に高負担を求めるものなのに、わが国では消費税を廃止するなんて主張をするんだから。お金を集めずにどうやって福祉を手厚くできるのか、お母さんも話していたけれど、本気で自分たちが政権を担う気があるとは思えず、票を入れる気持ちにはなれない。
でも、私がお母さんに口にしたように、極右の言い分だってかなり現実と乖離している。彼らへの支持が増えているのは、社会不安が高まっているからだと聞くが、他の国に攻撃されるような状況であれば、例えば向こうはヒトラーという凶暴な男がトップにいるから、こっちはスターリンくらいの人間でなくては対抗できない、といった考えで、理解はできるけれども、経済や社会が行き詰まっているなかで頼りにしたって、移民を攻撃したりする優しくない極右は、甘い言葉をささやいたりしても、結局自分たちも助けてくれないことくらいわかりそうなものなのにな。不思議だ。
あ。
そうだ、あの人ならわかるかも。
うんうん。彼、きっと賢いから。




