9-2
角田氏の使う部屋に通されて早々に、私は告げた。
「すみません。失礼続きで大変申し訳ございませんが、できれば角田さまと二人だけでお話をさせていただきたいのですけれども」
「わかりました」
そう来ると読んでいたのか、今回はまったく迷いなく了解した角田氏は、仲間の女性に声をかけた。
「ということですので、戸崎さん、申し訳ございませんが」
「承知しました」
女性はUターンする格好となって離れていき、出ていって玄関のドアが閉まる音が私たちのいるリビングまで届いた。
「どうぞ、おかけください」
角田氏が言った。
「ありがとうございます」
ともにソファーに腰を下ろし、我々は向かい合った。
「では、どういったご用件なのでしょうか?」
角田氏は私に質問を投げかけた。
「近頃、日本社会に助け合いの場面やシステムが多く見られるようになってきているという話をちらほら耳にします。もうだいぶ経ちますが、『ボランティア元年』と名称がついたほどに高まった、阪神淡路大震災後の時期に迫る規模のものではないかと語る人もいるくらいです。その導火線に火をつけたのは、あなたのようですね?」
「さあ? どうなんでしょうか」
目の前の男はしらばっくれる態度をとった。
「それは、まあ、いいでしょう。しかし、左翼政党に肩入れする行為を見過ごすことはできせません。私の上司にあたる人間が、ひどく腹を立てておりましてね。もうそうした振る舞いの一切から手を引いていただきたいのですよ」
「……その、あなたの上司にあたる方とは、どのようなお方なのでしょうか?」
「詳しくは申し上げられません。名字だけ教えましょう、布施です」
「なるほど」
どうやら知っているようだな。布施は、簡潔に述べると、極右の大物である。
「しかし、自らの行動に問題があったとは、私は思いません。左派政党への積極的な支援は控えることがあっても、行っているすべてをやめろというのは、申し訳ございませんが、受け入れ難いですね」
ほう。
「布施をご存じと受け取りましたが、それでも引く気持ちがないというのは、身を守れる体制は敷けているとの自負によるものなのでしょうかね」
そうに違いない。
「ですが、果たしてよろしいのでしょうか? あなた、常日頃ずいぶんと気にかけている女性が存在しますね」
さあ、どう反応するかな?
「名前はたしか——平瀬知子」
角田は、表情を変えることなくニターッとした笑みを浮かべてはいるものの、おそらく言葉が出てこないのだろう、返事をよこさなくなり、内心はひどく動揺しているのが明らかだった。




