7-2
「ここです」
到着してタクシーを降りて、案内されたマンションは至って普通で、自宅ではなく多くの人が出入りしているという話だったけれども、多少広いといった具合で、事務所ではなく住居として使用するのが一般的であろう部屋だった。
「どうぞ」
「ああ、はい。ありがとうございます」
キョロキョロしていたところ、人見さんに勧められて、リビングに置かれたソファーに、僕は腰を下ろした。
「ちょっと待っていてくださいね」
そう言い残し、彼女は部屋を後にしていった。
「ハー」
人見さんの自宅ではないとしても、他に誰もおらず二人きりなのだからほとんど同じことで、緊張する。
少しして、玄関のドアが開く音がした。
そして足音が近づいてくる。
「お待たせしました」
あれ? 男性の声だ。
そのように思い、やってくる人のほうに目を向けた、次の瞬間——。
「はぅあっ」
僕は、もはや声とは呼べない、おかしな音を口から発してしまったのだが、それも当然と同じ立場になれば誰もがわかってくれるだろう。こっちへとさらに歩を進めてくる男が、例えるならばヘビのような、ひどく気味の悪い顔をしていたのだ。ハンサムな要素がまるっきりなく、他人の容姿について否定的な発言などとてもできはしない僕ではあるが、ちょっと次元が違う。違いすぎる。
「あ、あなたは?」
僕はかろうじて質問を口にした。
「すみません、人見さんはこれから大事な用件があるもので、代わりに私がお話をうかがいにやってきました。角田と申します」
な、何なんだ? これは。まるでぼったくりの飲み屋に入ってしまったみたいだぞ。
いや、みたいじゃなくて、そういうことなのか? 綺麗な女性に相手をしてもらえるというので気持ちよくさせて、閉じた空間に引っ張ってきて、金を巻き上げようという魂胆だろうか? 登場したこいつの服装は、ネクタイこそしていないもののスーツときちんとしているけれども、暴力団の組員にも同じような格好の人間がいるイメージがあって、かえって怖さを増幅させている。
でも、人見さんがそんな悪い人だったなんて考えたくない。
「失礼いたします」
角田と名乗った男は、僕の向かいにある、一緒の型のソファーに座った。
正面、それも目と鼻の先といった距離に、世にも恐ろしいヘビ人間がいる。僕は体が固まって、これぞリアルな「ヘビににらまれたカエル」だな、なんて冗談のような言葉が浮かんだが、とても笑える気分ではない。
「彼女からざっとは聞いたのですけれども、申し訳ございませんが、よろしければもう一度詳しく、鈴木さんのご苦労されている話をしていただけませんでしょうか? 役に立てるよう努めますので」
……まあ、いいや。目の前の男は絶対にやばいに違いなく、へたに関わってしまうと最悪命を落とす危険もあるけれども、そうなったら結局僕の人生なんてのはその程度のものだったってことだろう。どうせこのまま生きてたってたかが知れてるんだし、もうどうにでもなりやがれ。
そして、僕は本日二回目となる、失敗だらけの自分の日々の話を、正直に彼に語ったのだった。
「そうでしたか。大変でしたね」
聞き終えた角田氏は言った。
なんか、思ったより楽にしゃべれて、すっきりしたぞ。
だけど、それも、良い気分にさせることで、こちらがお金を出しやすくなるという、手口なのかもな。
「しかし、そんなに落ち込まれる必要はないと思います。自分は仕事ができないとおっしゃいましたが、的確なサポートがあったり、別の職業ならば、違うかもしれませんし、仕事が優秀な人は他の面では劣っていたりするもので、お互いに足りないところを補い合うのが人間ではありませんか。投資の件も、至極まともなアドバイスをされただけであって、鈴木さんに落ち度はまったくない、でしょう?」
「はあ、まあ、そうなんでしょうか……」
「ああ、すみません。そのように言われても、現在も同僚の方々に迷惑をかけてしまっていることで苦しまれてらっしゃるわけで、正論など意味をなさないですよね。わかりました。なんとかいたしましょう」
わっ。
角田という男性は、ニタニタとしていた表情をもっと緩ませて、大きな笑みを浮かべたのだった。
やっぱり不気味だ。怖いよー。誰か助けてー。




