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びっくりした。
「あなたのそばにもいませんか? いっつも洗車してるおじさん。いるいる、そんな人ー。おるおる、そんな奴ー」
「いるいる」からは節をつけて歌うように言い、へんてこな動きを加えもする。
「買い物に行くと見ませんか? やたらと氷を買ってるおじさん。おじさんばっかりかい! いるいる、そんな人ー。おるおる、そんな奴ー」
テレビの画面が切り替わって、それを見て爆笑する観客たちが映しだされた。
この、端的に言うと、あるあるネタを人にしぼっただけの、「いるいるネタ」で、守笠は俺の予想を遥かに上回るブレイクを果たし、俺たちディスクが追い抜かれたと述べていい状況にまでなったのだ。
元々、小泉のほうがちょっと茶髪にしてるだけで特徴のない容姿の俺たちに比べ、チビで小太りで目がすごく離れているなど個性が強くて、コメディアン、なかでもピン芸人向きではあったのだが、あいつはお決まりのバーテンダーのような衣装を身につけ、前髪を垂らしてクルンとねじってと、面白そうという思いつきのみでたどりついたその姿でより一層キャラを濃くし、「いるいる」以降の台詞を口にするときの意味は見た目同様にまったくないクネクネと動くコミカルな振りといい、すべてがうまい具合にハマった。
可笑しいから、いけると判断したので、守笠に伝授したわけだけれども、ここまで成功するとは本当に驚いた。自分たちのネタとは違い一生懸命考えなかったのも、わかりやすくて万人受けするものになって、かえって良かったんだろう。
それからというもの、話を聞きつけた他の後輩たち、しかも知った間柄とはいえ別の事務所の連中までもが、こぞって俺にネタのアイデアをくれと接近してきたが、すべて断った。その理由は、おわかりかもしれないけれども、わずらわしいとか、これ以上後輩や自分たち以外の芸人が売れるのをアシストなんてしたくないからといった理由ではない。
そう、案の定ではあるが、人気が沸騰した年の象徴として特番に出まくった十二月をピークに、翌年から守笠の露出は一気に減ってしまったのだ。
俺は、自分の笑いのセンスにホレボレしてうぬぼれたのはほんの一瞬と言える期間で、やっぱりやめときゃよかったと後悔したのだった。守笠がもう一度同じポジションに返り咲くのは、まだ一回も日の目を見ていない芸人よりも難しい。「終わった奴」というイメージが染みついているからである。
俺は芸人仲間を中心とした周囲の人間たちに対して、一緒に食事に行ったときなんかに、そのことをよく口にした。
すると、守笠が俺のもとに真剣な面持ちでやってきた。
「ちわっす、長尾さん。いきなりですけど、聞きましたよ、僕のネタを作ったことを悔やんでるって」
「ああ。本当に悪かったな」
俺は頭を下げた。
「謝罪なんて求めてません! なんでそんな訳のわからない罪悪感を抱いてるんすか! 僕、いっぱい良い思いをさせてもらいましたし、こうなるとわかって、お互い納得のうえでやったことじゃないですか! これ以上後悔してるってみんなに言ったり、僕に謝ったりしたら、たとえ先輩でも殴りますよ!」
すごい迫力で、俺はうろたえてしまった。
「そ、そうか。悪かった。あ、今の『悪かった』は、ネタをやらなきゃよかったって思ったりして申し訳なかったって意味だぞ」
「わかればいいんです。じゃあ、今後もお互いに切磋琢磨して頑張っていきましょうね。僕は友達と遊ぶ約束があるので、これで失礼しますけども」
そうして、守笠は妙に偉そうな態度でさっさと帰っていった。
俺は、何か立場とかおかしいことになってねえか? 芸人同士とはいえ、俺とお前は切磋琢磨しているって関係じゃないだろう、などと思いながらも、しすぎだろと言うくらいに堂々とした守笠に丸め込まれて、去っていくあいつをぽかーんとした状態で見送ったのだった。




