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清人の話しぶりが、真剣かつ穏やかで聞きやすく、見事だったのも加点材料になっただろう。この関門を誰もケチをつけない圧勝という状態で突破し、評価クラブの設置は認められた。
清人のアピールを傍聴席で耳にした俺は、もしやと思い、まったくその気はなかった評価クラブのメンバーになることにした。
部の活動の基本的な流れは、しいたけのチョコとつくしのショコラの回だったら、清人の想定のまままずは参加者みんなでその場で両方を食し、自由な感想と、どっちが好きかを、紙に書く。その際、本人の名前は記しても記さなくてもよい。感想はそのまま、好みのほうは票を集計して、清人が全員に発表する。ただし、比べても、だからどちらの勝ちであるとか、何かするわけではなく、ただ票数を述べるだけである。それを受けて、感じたことや考えたことなどの意見を、また用紙に各自で書いて、集めたものを清人が読みあげる。その後で自由に語り合うのだけれども、なぜ途中までは紙に書くことをくり返すといったまどろっこしい進め方をするのかというと、シャイな人でも、加えて、テーマによっては口に出しづらい感想も名前を記入しなかったりすることで、本人のありのままの意見を表明できるようにという配慮だそうだ。それが良かったようで、部員はずいぶん集まったし、噂を聞きつけてか、今も増えている。ちなみに、しいたけのチョコとつくしのショコラの好みの票はというと、つくしのショコラのほうが上回り、しいたけのチョコ派の清人は少しの間ぶーたれたのだった。
そして重要なのが、俺が予想した通りだったのだが、アピールの場で小説の感想といった真面目なことも行うと宣言したように、勉強に関する内容や、社会問題も取り上げているのだ。
それも、お菓子やポピュラーソングみたいに多くの生徒が好きなものに、絶妙な頻度であったりと、うまい具合に混ぜ込んでいるうえ、新聞の記事を読んでの評価という回では、難しくなく若者が興味をそそられるポイントが入っているやつを選んでくるなど、みんながいつのまにか社会について知り、考えるようになってきているのである。
「清人、悪かった。そいつが狙いだったんだろ?」
学校の廊下で二人きりのときに、俺は確認でそう問いかけた。
「まあね」
清人はニカッと笑った。
「よく思いついたな。それに、細かいところまで抜かりなくって感じでここまで持ってきて、すげえよ」
「貴ちゃんがさ、泥棒をやろうとしているとする」
「あ?」
何だ? 急に。
「倫理的な問題は置いといて、ちょっと考えてみてよ。当然、警察に逮捕されるかもだとか、リスクだらけなわけで、なんとかうまく目的を達成しようと、必死に策を練るでしょ? かたや、善い行いの場合、立派なことをしているというので満足しちゃって、そこまでは懸命に成功させようとしないケースが多い。うまくいかなけりゃしょうがないし、例えば『正しいことを言ったのに応じない相手が悪いんだ』と判断して済ませるだとか。善いことがなかなか浸透しない一因はそこにあるから、本気で成し遂げたいんなら、徹底的に成功への道筋を考えたりしなきゃ駄目なんだよ」
「……なるほどな」
それを実践してみせた清人に、反論の言葉などあろうはずがない。
「動物が不安や恐怖を感じるのって、自分よりも強くて食べられてしまう別の動物が現れただとか、目の前にまさに危険が迫ったときじゃない? ところが人間は、賢くて想像力があるために、今は安全でも、一分後に巨大地震が起きるかもしれないって怖くなったり、何十年も先の老後を考えて不安になったりする。優れた頭脳を持った代償として、心の不安定さも手に入れることになったわけさ。だから、必死で安定させようと、笑うだとか遊ぶといった独自の行動を身につけ、神様を創りだして宗教も誕生した。ゆえに、感情は他の動物よりも大事なくらいで、左派は『人間の理性を信じる』みたいなことを言うけれど、それじゃあ感情を重視する右派に負けるよ。感情VS理性じゃなくて、感情VS理性プラス感情って状態にしなきゃ。そうすれば、左派は選挙で勝てるんだよ」
そうか……あ。
「そうだ。すっかり忘れてて、ふと思いだしたけど、お前、なんか怪しいおっさんと一緒にいたって話を聞いたぞ。何なんだよ? そりゃ。大丈夫なのか?」
その件について訊きにいったときに、評価クラブの話を五人くらいの同級生にしていたんだ。何やら相手は相当やばそうな人だったという情報をたまたま耳にしたのである。それからは聞くことがなくなったものの、前にも述べたがこいつはときどき無茶もやるから心配なのだ。
「怪しいおっさん? ああ……」
清人は、あの人か、という顔で、小刻みに頭を上下させた。
「誰なんだよ? それ」
清人は、よく見せる、いかにもスマイルといった表情になって、答えた。
「今、俺がしゃべったことについて教えてくれたんだ。だから、貴ちゃんも感謝するべき人だよ」




