第九十一話 旧友との再会2
夜風が木々を静かに揺らした。
焚き火の明かりはもう遠い。
生徒たちの寝息も、この場所までは届かない。
リオが昼間に結界を寝床の周囲に張っていたので守りも安心だ。
リーバは腕を組む。
「それで?教団の人間が学院の課外学習を覗き見とは趣味が悪いな。」
カイルは肩を竦めた。
「教師ごっこをしているお前よりはまともだと思うが。」
「相変わらず口だけは達者だ。」
「そうか。」
会話は続く。
だが、どちらも一歩も近寄らない。
その距離が今の二人の関係を表していた。
リーバが静かに本題に入る。
「何しに来た。」
「答える義理はない。」
「ずっと覗いていてか?答えろ。」
「...暇潰しだ。」
「嘘をつけ。」
即答だった。
カイルは少しだけ空を見上げて言う。
「...お前は昔から面倒だ。」
「昔話をするつもりはない。」
「だろうな。」
また沈黙が落ちる。
風が吹き、木々が擦れ合う音だけが響いた。
やがてカイルが生徒たちのいる寝床の方に目を向けた。
「あの灰色。」
ぽつりと呟く。
「……リオか。」
リーバの声が低くなる。
「随分面白いものを拾ったな。」
「拾ったんじゃない。」
「...育てたのはヴァルクだろう。」
「そうだ。」
「らしい剣だった。」
リーバの眉がぴくりと動く。
「...何が目的だ。」
「目的?」
カイルは少し考えるように首を傾げた。
「確かめに来ただけだ。」
「何を。」
「価値を。」
その一言だけで十分だった。
リーバの表情から笑みが消える。
「……教団がお前を寄越したのか。」
「...今日は独断だ。」
リーバは小さく舌打ちした。
独断。
その言葉が一番厄介だった。
教団の命令ならまだ動きは読める。
だが、目の前の男は昔から命令だけで動く人間ではない。
「お前がリオに近づく理由はない。」
リーバは静かに言う。
カイルは何も答えない。
ただ、生徒たちの方を見つめている。
「あの剣。」
ぼそりと漏らす。
「兄に似ていた。」
リーバの瞳が鋭くなる。
「……だから何だ。」
「別に。」
カイルは視線を戻した。
「似ていた。それだけだ。」
「それを確かめるためだけに来たのか。」
「半分はな。」
「もう半分は。」
カイルは少しだけ笑う。
その笑みには温度がなかった。
「教団が気にしている。」
その一言で、森の空気が変わる。
リーバの魔力が僅かに揺れる。
そうするうちにカイルは踵を返した。
「待て。」
リーバが呼び止める。
カイルは振り返らない。
「一つだけ忠告してやる。」
「何だ。」
「お前の生徒。」
「思っていたより面倒な存在になる。」
「……。」
「教団もいずれ放ってはおかない。」
それだけ言い残し、カイルの姿は闇へ溶けていった。
静寂だけが残る。
リーバはしばらくその場を動かなかった。
やがて小さく息を吐き、誰にも聞こえない声で呟く。
「……ヴァルク。お前らの隠したかったものは、もう隠しきれんぞ。」
月だけがその言葉を静かに照らしていた。




