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第九十話 旧友との再会

【リーバ視点】


「昼から見てる人。」


焚き火を眺めていたリーバはリオの何気無い会話に笑えなかった。

なぜなら今の答えでひとつ分かったからだ。

リオは気づいていた。

それもかなり早く。

そして、その気配を敵だと思っていない。

この年齢の子供がそんなことまでわかるのか。とんだ化け物だ。

リーバは森の奥を素早く見る。

暗闇。

気配はまだあり、消えていない。

こちらが気づいたことを知っているはずなのに動じていない。

それが不気味だった。


攻撃を仕掛けるわけではない。

なら、やはり監視、か。


誰だ。

教団か。

それとも別の何かか。


考えながら森を見る。

焚き火の火がゆらりと揺れる。

リーバは立ち上がり、リオの方に向かい、やがてため息をついた。


「お前...コイツらは森のど素人だ。本気にするからそろそろ冗談はお終いにするぞ。」


「冗談ではないです。」


「なら証拠を持ってこい。」


「うーん……。」


リオは困ったように笑った。


「気配はするんですけど。」


「森じゃ珍しくない。」


リーバはそれだけ言うと無理矢理話を切り上げた。


「明日も歩く。今日は寝ろ。」


生徒たちはなんだ、冗談かよ、びっくりしたとブツブツ文句を言ったもののそれ以上気にすることなく、それぞれの寝床へむかっていく。



夜は深く、更けていた。

焚き火は赤く燻り、小さな火の粉だけが夜空へ舞っている。

生徒たちの寝息は静かに重なっていた。

リーバは焚き火の番をしていた。

ふと、一つの気配が立ち上がる。

レオだった。

黒い外套を羽織り、周囲を起こさないよう足音を消して森へ入っていく。

リーバは小さく息を吐いた。


「……まったく。」


誰にも聞こえない声で呟く。   

レオは誰にも気づかれないよう森の奥へ消えていく。

リーバは小さく息を吐いた。


(感心しないな。)


生徒が夜中に勝手な行動を取ること自体が問題だ。

まして今は教団の件がある。

偶然とは思えない。


(お前がスパイだと言いたいわけじゃない。だが、疑われるような真似はするな。)


リーバは距離を保ったまま、静かにレオの後を追った。

木々の隙間へ、二つの影が消えていく。



リーバは立ち上がり、一定の距離を保って後を追った。

レオはしばらく歩くと足を止める。

月明かりだけが木々の間から差し込んでいた。


「……出てきたらどうですか。」


レオはボソリと言った。

リーバは眉をひそめる。レオは振り返らなかったし、

視線も向けるわけではなかった。


「先生。」


リーバは物陰から姿を現す。


「気づいていたか。」


「気配で分かります。」


レオは淡々と答える。


「こんな時間に何をしている。」


「眠れない。」


「それだけか。」


「闇魔法は夜の方が魔力が濃くなるので、制御を兼ねています。」


レオは自分の手を見る。

黒い魔力が指先から薄く漏れ、夜の空気へ溶けていく。


「放っておくと勝手に魔力が溢れます。」


「だから毎晩か。」


「はい。」


短い返事。

嘘をついているようには見えない。

リーバはしばらく黙っていた。

やがて肩の力を抜く。


「……森は危険が多い。夜に一人で行動する時は言え。」


「分かりました。」


レオは素直に頷く。

そして踵を返し、寝床の方へ歩いていく。

その背中を見送りながら、リーバは小さくため息をついた。


「……悪い癖だ。」


レオは誰にも頼らない。

全部一人で抱え込む。

それがあの少年らしいと言えば、らしかった。

やがて気配が完全に遠ざかる。

森は再び静寂に包まれた。

――しかし、リーバは動かなかった。

そのまま森の奥を見つめる。

夜風が吹くき葉が揺れる。

やがて、小さく息を吐いた。 


「……で。」 


返事はない。 


「いつまで見ている。」 


森は静まり返ったままだ。


「出てこい。」 


低い声だった。

命令でも威圧でもない。

ただ、相手がいると確信している声。

数秒の沈黙。

その後――

木の影が、わずかに揺れた。

闇の中から、黒いマントを羽織った一人の男がゆっくり姿を現す。

その姿を見ても、リーバは驚かなかった。

ただ、目を細める。


「……やはりお前か。」


男は無言だった。

その沈黙が肯定だった。


「久しぶりだな、カイル。」


男の口元が、ほんの僅かに歪む。

月明かりを受けても、その瞳だけは冷え切っていた。

だが、リーバの表情が変わることはなかった。

やがて男は口を開いた。


「その名で呼ぶのは、お前くらいだ。」


「教団では違う名前か。」


「必要ない。」


短いやり取り。

だが、その空気は張り詰めていた。

リーバは一歩前へ出る。


「教団の人間が、学院の課外学習を覗き見とは趣味が悪い。」


カイルと呼ばれた男は鼻で笑う。 


「お前こそ、教師ごっこが板についている。」


「質問に答えろ。」


「答える義理はない。」


二人の間に長い沈黙が落ちた。

旧友でもなく敵でもなく昔を知る者同士だからこその距離がそこにはあった。


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