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第八十四話 魔物狩り

森の奥で何かが動いた。

ガサリ――

葉が擦れる音。

一度だけじゃない。

右、左、少し離れた後方に複数。

確実に近づいてきている。

さっきまで昼食の話をしていた空気は一瞬で消えた。

テティスが慌てて立ち上がる。


「き、来た!?」


「来たな」


リーバ先生は平然と答える。


まるで天気の話でもしているようだった。

ガイアが顔を引きつらせる。


「いやいやいや」


「先生はなんで座ってるんだよ!」


「昼休憩だからな」


リーバは酒の入ったボトルを傾ける。


「お前たちは昼飯を取りに行け」


「理不尽すぎるだろ!!」


その瞬間、茂みが大きく揺れた。

飛び出してきたのは狼によく似た魔物だった。

ただし大きさは馬ほどある。

全身を覆う黒い毛。

赤い目。

口元から覗く牙は短剣のように鋭い。

テティスが悲鳴を上げる。


「あれ、入学試験のやつじゃん!」


ミュシャがボソッと言う


「でも、明らかに大きいわね」


僕は森出身なので正直、見慣れたよくいる魔物という感じ。

さすがに空気が悪くなりそうだから何も言わないけど...


みんなが少なからずとも動揺しているのがわかる。

まぁ、いきなり持ってきたご飯をしまえと言われて、ご飯は魔物だ、と言われたら誰でも動揺するか...

僕も、持ってきたやつでランチパーティーしたかったな...


僕がそんなことを考えているうちにその魔物はジリジリとこちらに近づいてきた。

そして魔物が飛び出した瞬間、ライルが動いていた。


ドンッ


地面を蹴る音。

赤い髪が風を切る。 


「邪魔」


次の瞬間、炎が閃いた。

みんなが動揺して動けなかったとき、ライルだけは静かに詠唱していた。


轟音。


木を二本へし折りながら狼型の魔物は吹き飛んだ。


一瞬の静寂のあとガイアが口を開く。


「お前いつもそうだよな」


「とりあえず燃やす。効率がいい」


ライルは真顔だった。

僕はライルが入学試験のときより確実に強くなってると思った。



だが、魔物退治はそこで終わらなかった。

ガサガサガサガサ――

今度は周囲全部の茂みが揺れる。

ヘスティアが静かに言った。


「増えた」


僕も気づく。

十。

いや、もっといる。

匂いにつられて集まってきている。


「先生!」


テティスが叫ぶ。


「いっぱい来てるんですけど!?」


リーバ先生は座ってあぐらをかいたままだった。


「だから何だ」


「えっ!」


「昼飯が増えただけだ。晩飯の分もあるかもな。」


「そういう問題じゃないです!!」


次の瞬間。

一体がテティスへ飛びかかろうとした。

だが、それより速く水が走った。


バシャッ!!


巨大な水流。魔物の顔面へ直撃する。

テティスだった。


「私だって戦えるもん!」


魔物が吹き飛び、その勢いのまま、ガイアの近くへ転がった。

ガイアがすぐに詠唱する。その間にガイアに飛びかかろうとした魔物だが、アリアが先を見越したのか、ガイアの周りに結界をはり、防御している。


そうしているうちに土が盛り上がった。 


ゴゴゴゴ――


地面から巨大な岩柱が生え、魔物が直撃する。


「よし!」


ガイアが嬉しそうな顔をする。


「ナイス」


僕が笑う。

その横でサナが風を流していた。

派手なことはしない。

ただ、風が僕たちの足元を支える。

視界を広げる。

敵の位置を伝える。

誰も気づかないくらい自然に。


やっぱりサナすごいな...


僕は思う。

サナ本人は気づいていないけれど、その支援があるだけで、みんな戦いやすくなっている。


一方。少し離れた場所。

レオは静かだった。

魔物が迫る。

だが逃げない。

闇が揺れ、黒い影が地面を走った次の瞬間。

魔物の影と繋がる。


ドサッ


まるで見えない手に引きずられたように魔物が崩れ落ちる。


「……終わり」


レオはいつも通りだった。

ミュシャはというと


「面倒ね」


そう言いながら雷を落としまくっていた。


バチィィッ!!


魔物が次々と吹き飛ぶ。


「面倒ならやらなきゃいいのに」


サナが言う。


「死ぬのはもっと面倒なのよ」


正論だった。


リオはそんな仲間たちを見て、少しだけ笑う。

入学した頃よりやっぱりみんな強くなっている。

確実に。

そんなことを思っている時だった。


「リオ」


リーバ先生の声。

僕は振り返って先生の顔を見た。


リーバ先生は森の奥を見ている。


「お前、森出身だよな。」


「はい、そうです」


そう言いながら僕も森の奥を見る。

そこには今までの狼型とは違う気配があった。

重い。

空気が沈む。

木々が揺れる。

一歩、また一歩と何かが近づいてくる。

それだけで、周囲の魔物たちが怯え始めた。


ライルが眉をひそめる。

レオが顔を上げる。

アリアがぎゅっと手を握る。


そしてリーバ先生は僕に命令した。


「Aクラス」


静かな声。

全員の視線が集まる。


「これは授業だ」


一拍。

口元がわずかに笑う。


「リオに魔物との戦い方の手本を見せてもらおう。」



その瞬間。

森の奥から現れた巨大な影に、僕は思わず息を呑んだ。

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