収納鞄を作ってみよう
お店の魔法石の棚の前に立った瞬間、さっきまでの“買い物”の空気が、少しだけ変わった。
並んでいる石はどれも似ているようで、よく見ると全部違う。
色、透明度、内側の揺らぎ。
一つ一つに“流れ”がある。
「……どれがいいかな」
僕は魔法石を扱ったことはほぼない。
ためしに手を伸ばしていくつかの石を順番に持ち上げたり、軽く指先で触れる。
それだけでなんとなく分かった。
(これは……安定してるけど、出力弱い...こっちは強いけど、ちょっと荒いな)
自然と選別している。
考えるというより、感じている。
「リオ、分かるの?」
テティスが不思議そうに覗き込む。
「うん、なんとなくね」
感覚的な問題かのでどう説明してもいいかわからない。
ガイアが後ろから覗く。
「全部同じに見えるけどな」
「ちょっと違うように感じるんだ。」
僕は一つの石を持ち上げる。
淡い灰色がかった透明な石。
光にかざすと、内側に細い筋のような流れが見える。
「これがいいかな」
「なんで?」
「流れが安定してるから、刻印乗せやすいと思う」
「……よく分かんねえけど、すごそうだな」
ガイアが素直に言う。
サナは少しだけ目を細めた。
「暴れないタイプ?」
「うん、そんな感じ」
リオは頷く。
「壊れにくそう?」
「やったことないからわかんないけど、たぶん」
「楽しみ」
それから僕はその石を手に取ったまま刻印用の道具の方へ向かう。
刻印用のペンと、細かい魔力調整用の針。
どれも見たことはあるけど、ちゃんと使ったことはない。
それでも――
(まあ、なんとかなるか)
変な自信がある。ヴァルクの家でも魔法陣で道具を作る時は試行錯誤の連続だったからだ。
「え、今から作るの?」
テティスが目を輝かせる。
「うん、簡単なやつだけ店出て座れるところとかで」
「ほんとに!?」
「え、だめかな?まだ時間あるし。失敗したらすぐ買えるし。」
軽く言う。
ガイアが笑う。
「ほんとにやるのかよ」
「やってみるよ」
一連のやりとりを見ていた店主はニヤニヤしていた。
「兄ちゃんたち、素直に収納鞄を買った方が安くつくかもしれないよ」
魔法石も収納鞄よりは遥かに安いが安すぎるわけではないからだ。
僕は店を出てすぐそばのベンチを見つけて作業にとりかかった。
前からもっていたボロボロの鞄を試しに使ってみた。
まずは試作。
サナの言葉が頭に残っている。
“壊れないか”
(……ちゃんと作ろう)
魔法石を袋の内側に固定する。
位置は中央より少し奥。
流れが全体に回る位置。
刻印ペンを持つ。
ほんの一瞬だけ、手が止まる。
(……いや)
すぐに動く。
線を引く。
迷いはない。
なんとなく“こうすればいい”が分かるから。
空間拡張の基礎刻印。
そこに重ねるように、重量軽減。
さらに、簡易的な取り出し補助。
本来なら複雑なはずの構造が、
不思議なくらいスムーズに繋がっていく。
「……え」
興味深々で見ていたテティスが声を漏らす。
「早くない?」
ガイアも覗き込む。
「お前、絶対初めてじゃないだろ」
「初めてだよ」
リオは普通に答えるが手は止まらない。
最後に魔法石へ流れを繋ぐ。
軽く魔力を流す。
――一瞬、空気が揺れ、すぐに静まった。
「……できた」
あっさり言う。
あまりにも普通のトーン。
テティスが固まる。
「え、もう?」
「うん」
リオは鞄を持ち上げる。
軽い。
見た目通り。
でも――
「ちょっと入れてみて」
ガイアに渡す。
「お、おう」
ガイアが自分が持っていた買ったものを適当に入れる。
一つ、二つ、三つ...
買ったものが全て入ってしまった。
まだ余裕がある。
「……え、入るな。しかも、ちゃんと取り出せる。」
「でしょ」
僕は軽く頷く。
「これ試作だから、もっと収納できるように作れるはず。」
「もっと収納!」
ガイアが驚く。
テティスはもう完全に目を輝かせている。
「すごいすごいすごい!」
サナは静かに鞄を受け取り、入念に中を確かめて、言う。
「問題なさそうだけど本当に壊れない?」
「たぶん大丈夫」
「たぶんか」
「……うん」
少しだけ苦笑する。
でも、もう一度魔力の流れを確認する。
(……安定してる)
問題はなさそうだ。
僕は少しだけ息を吐いた。
思ったより簡単だった。
でも、それを言うとまた変な顔をされそうだから、やめる。
テティスがぐいっと近づく。
「ねえねえ!あたしのも作って!」
「え」
「お願い!」
ガイアも笑いながら言う。
「その速度で作れるのなら俺のも頼む!」
サナは何も言わないけど、少しだけこっちを見る。
期待してる顔。
(……あー)
リオは少しだけ頭をかく。
「みんなの分もやってみるけど、責任は取れないよ?」
「やった!そのときはそのとき!」
テティスが嬉しそうに跳ねる。
その横でサナがぽつりと。
「普通の鞄とか魔法石かってくる。リオの新しいのも。魔法石は選んで?」
僕は少しだけ笑った。
「わかった」
軽く答える。
(……もう明日、あそこ行くんだよな)
頭で想像する森の先の景色。
行ったことのない場所。
さっきまでの楽しさの中に、ほんの少しだけ混ざる緊張。
それでも手に握る鞄を見て僕は小さく呟いた。
「準備は、できてきたね」




