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第七十七話 お買い物にいこう!

テティス、ガイア、サナと一緒に街に入った瞬間、空気がぱっと変わった気がした。

学院の中とは違うざわざわした音。人の声、金属の触れ合う音、どこかで鳴っている小さな魔道具の駆動音。

鼻をくすぐるのは、焼きたてのパンの匂いと少し焦げた油の匂い。


「うわ……久しぶりだ」


僕は思わず声を漏らした。

そう、入学試験の時以来街には全く行けなかったのだ。

今日は思わぬ形で街へ行くことができたので足取りが自然と軽くなる。


街へ出かける準備をしていたとき、寮の部屋でライルが僕の服は旅人用すぎだと、街に出かける用の服を貸してくれた。貸してくれたというより、問答無用で押し付けられてライルはさっさと行ってしまった。

サナはそのやりとりを見て笑っていた。

サイズは少し大きいけれどありがたい。


横でテティスがぴょんと跳ねる。


「ねえ見て!あれ光ってる!」


指差した先には店先に並べられた小さなランプ。

魔法石が埋め込まれていて、淡い青色の光がゆらゆらとゆれている。テティスが何気なく覗き込む。


「これって魔法灯だよね。考えたことなかったけど、これどうやって光ってるの?あ、これも必要かな?」


僕は一緒にかがんで、商品を一つ手に取りまじまじと眺めては何気なく答える。


「中に小さい魔法石があって、そこに魔力を流してるんだよ。たぶん……あ、ほら、ここに刻印があって、一定量だけ流れるように制御してる」


指で示す。

外からは見えないはずの位置。

でも、なんとなく分かる。

構造が頭の中に浮かぶ。


「えっ、見えるの?」


「見えるっていうか……分かる、かな」


「すごーい!」


テティスが目を輝かせる。

その反応にリオは少しだけ照れたように笑う。


「普通だよ」 


「普通じゃないよ!」


そこにガイアがふらっと寄ってくる。


「なにしてんの?」 


「魔法灯?見てた」


「魔法灯は必要か!?」


ガイアがワクワクしながら聞いてくる。


「……うーん、どうだろ?ガイアは土属性だから、夜とかあったほうが便利かも。」


「じゃあ、やっぱり私も必要かも...」


テティスが真剣そうに悩んでいる。

僕は火や光の魔法が使えるから実際使ったことはない。

そのとき、少し後ろから声がした。 


「それ、構造分かるの?」


サナだった。

いつの間にか近くにいる。


「うん、なんとなくね」 


「便利だね」


サナはそれだけ言って、少しだけ口元を緩めた。



それから、みんなでなんとなく店を見て回る。

目的はあるはずなのに、気づけば寄り道ばかりしている。

それが妙に楽しかった。


道具屋に入るとさらに空気が変わった。

棚いっぱいに並ぶ魔道具。

小さな魔法石が埋め込まれたナイフ、温度を一定に保つ箱、魔力で水を浄化する器具。

どれも、ヴァルクの家にはなかったもので、見ているだけで飽きない。


「うわ、これなに?」


テティスが手に取ったのは、小さな球体。

中で光がくるくると回っている。

リオは覗き込んで構造を確認してしばらく考えてから答えた。


「たぶん、魔力検知器だね」


「けんちき?」


「近くに魔力があると反応するやつ」


「へえー!」


ガイアが横から覗く。


「ほんとか?」


「うん、ここに反応回路があって……あ、でもこれちょっと古い型かも。きっと新しいやつあるよ、だって感度あんまり良くないもん」


僕がさらっと言う。

店主が一瞬こちらを見た。


「……詳しいな、坊主」


「あ、いや、なんとなくです」


僕は慌てて商品から手を離した。


(……またやった)


自分では普通に言ってるつもりでも、周りの反応が少しだけ違う。

ヴァルクと2人でいるときはわからなかった。

僕が何かを作ってもヴァルクは特に何も言わなかったし、失敗ありきのことだったから、それが日常だった。

今は周りの反応が違うことに気づくと、少しだけ居心地が悪くなる。

サナが横で小さく笑う。


「いちいち気にしないでって顔してる」


「……そんな顔してる?」


「してる」


「してないよ」


軽く言い返すと、サナは「はいはい」と流す。

その感じが少しだけ安心する。

僕たちは買い物の目的を思い出して保存食の棚へ向かう。

干し肉、乾燥パン、固形食料。

僕は一つずつ手に取って重さを確かめる。


「これくらいあれば足りるかな……?」


「多い方がいいんじゃない?」


テティスが言う。


「途中で足りなくなったら困るし」


「たしかに」


ガイアが適当に頷く。


「俺はあんま考えてなかったけど」


「だろうね」


僕が笑うと、ガイアもつられて笑う。

その横で、サナが静かに言う。


「予備もいる」


リオが振り向く。


「予備?」


「だって、森で遭難するかも。」


まっすぐな理由。


「……確かに」


ガイアが妙に納得する。


「じゃあ、少し多めにするよ」


「うん」


サナはそれだけ言って、別の棚を見る。

冗談なのか本気なのかわからないサナの言葉に

僕は少しだけ笑った。

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