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第七十四話 腹の探り合い

夕方の訓練場は半分だけ静まり返っていた。

日が傾き、光が長く影を引く。

残っている生徒は少なく、声も途切れがちだ。


風が通るたびに砂がわずかに流れる。

その端でレオは一人、同じ動作を繰り返していた。

足元に落ちる影がわずかに濃くなる。

次の瞬間その影が揺れる。

形を変え細く伸び、そして元に戻る。

それだけ。


大きな魔法ではない。

だが、精度は高い。


「熱心だな」


すぐそばで声が落ちる。

レオの動きが止まり、すぐに影が元の形に戻る。

レオは振り向く。

そこにはリーバが立っていた。

距離は数歩。

逃げるには近く、踏み込むには遠い。


「……普通です」


短い返答。

それ以上は続けない。

リーバもまたそれ以上は近づかない。

ただそこに立ち、視線だけが動かない。


「夜間はよく出歩くのか」


何気ない口調。

だが、間がない。

レオは答えないが、ほんの一拍置いてから口を開く。


「……いえ」


リーバは頷く。


「そうか」


それだけ。

追及しない。

だが終わらせない。

レオは視線を外さないまま足元に意識を落とす。


影がわずかに細く伸びてはすぐに戻る。

同じ動作を繰り返し、リーバの視線はそれを見ている。


「裏手の方はどうだ」


今度は場所を指定する。

レオの影が一瞬だけ揺れ、動きがわずかに遅れる。


「……あまり」


短い言葉。それ以上はない。

リーバはそれを受け取り、少しだけ間を置く。


「そうか」


同じ返答。

肯定も否定もしない。

ただ受け取る。

レオは再び影を操作する。

今度は少しだけ広げる。

足元から円を描くように薄く広がる闇。

だが、すぐに収束させる。

乱れはない。


「夜間に出歩くことは校則違反だ。だが私も昔、ここの学生だった。よく夜間に仲間と"散歩"に出かけたものだ。」


リーバが一歩だけ前に出る。

距離がわずかに縮まる。


「お前は、何をしている」


曖昧さのないまっすぐな問い。

だがレオは答えない。


「……訓練です」


変わらない声。

リーバはわずかに首を傾ける。


「そうは見えない」


即座に返し、間を挟ませない。

レオは何も言わず、影を消しては完全に元の形に戻るす。


それから少しして2人の視線だけがぶつかる。

逃げる様子も弁明する様子もない。

リーバはそれをしばらく見て、やがて小さく息を吐いて言った。


「一つだけ教えてやる」


レオは反応せずにただ聞いている。


「嘘は積み重ねると歪む」


風が通る。

影がわずかに揺れる。


「どこかで、合わなくなる」


レオは目を逸らさない。


「……何の話ですか」


「さあな」


リーバは肩をすくめる。

だが視線は変わらない。


「お前の話かもしれないし、違うかもしれない」


レオは何も言わない。

かわりに沈黙が長くなる。

遠くで扉の閉まる音がするが、それもすぐに消える。

やっとレオが口を開いた。


「一つ、聞いていいですか」


「なんだ」


リーバは動かない。


「もし、見つけたらどうします」


主語はない。

だが意味は通る。

リーバは少しだけ考えてから答えた。


「そのとき考える」


曖昧なままの短い答え。

レオはそれ以上聞かないが、足元の影が再び揺れる。

今度は細く伸びるだけでなく、地面を這うように広がる。

だが、すぐに止まり、また元に戻る。


「夜は冷える」


リーバは振り返ってそう言いながら歩き出す。


「風邪を引くなよ」


軽い言葉を言ったあと、そのまま去っていった。

レオはしばらくその場に立ったまま動かない。

やがて、また足元の影がわずかに濃くなっては何かを探るように、ゆっくりと広がる。

そして――すぐに、消えた。

訓練場には、風の音だけが残った。

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