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第七十三話 スパイさがし(リーバ視点)

夜の空気は、どこか乾いていた。

昼間の熱がわずかに残る石畳を、リーバ・ボレアスは静かに踏みしめる。

見上げれば、月は雲に隠れたり現れたりを繰り返していた。


(……次で三回目か)


同じ時間。

同じ場所。

同じ観測。

変化があるとすれば、それは“相手のほう”だ。

リーバは物陰に身を潜め、視線だけを通路の先へ向ける。

やがて――足音。

一定のリズム。

迷いのない歩き方。


やはり、レオだった。


(やはり来るか)


レオは周囲を確認する。

だが、その確認の仕方が前回とは違った。

わずかに時間が長い。

視線の動きも、より慎重になっている。


(……警戒が上がっている)


誰かに見られている可能性を、考慮している。

つまり――


(自覚はある)


レオはそのまま裏手へ向かう。

扉の前で一瞬だけ止まり、耳を澄ませる。

そして、ゆっくりと扉を開けた。

夜気が流れ込む。

リーバは距離を保ったまま追う。

外は木々の影が、風に揺れる。

レオはいつもの位置で止まらなかった。

さらに奥へ進む。


(……場所を変えた)


前回と同じではない、意図的な変更。

やがて建物の影に入り視界が切れる。

リーバは一瞬だけ間を置き、回り込むように移動した。

音は立てない。

呼吸も浅く。

そして――見えた。

レオが、誰かと対面している。

フードを被った人物。

背格好は最初の人物と似ている。

だが、動きが違う。


(……別人か?)


距離は近い。

声は聞こえない。

だが、やり取りは明確だった。

レオが何かを差し出す。

小さな紙片。

フードの人物が受け取る。

そして――何かを返した。


(交換……)


情報のやり取り。

その構図は、明らかだった。

レオは短く何かを言い、すぐにその場を離れる。

フードの人物も、反対方向へ消えた。

完全に気配が消えるまで、リーバは動かなかった。


(……ほぼ黒だな)


状況だけ見れば、そう結論づけられる。

連続の接触。

警戒の変化。

交換される紙片。


(言い逃れは難しい)


だが――

リーバはゆっくりと目を閉じた。


(……それでも、引っかかる)


違和感が、消えない。

むしろ、強くなっている。

いや、自分の生徒だからこそ信じたくないだけかもしれない。


「...チームか....」


リーバはしばらくその場で空を眺めるのだった。



翌日の訓練場。

いつもと同じ空気。

だが、リーバの中では何かがずれていた。


「昨日の課題、できているな」


淡々とした指導。

生徒たちはいつも通り動く。

その中で、リーバは“仕掛け”を確認していた。


(魔力量・低評価の情報、制御不安定の情報、属性偏重の情報、、、)


それぞれ異なる経路で流した偽情報。

そして――


(どれが漏れたか)


昨夜のやり取り。紙片のサイズ。

やり取りのタイミング。

そこから、ある程度の推測はできる。


(……内容が違う)


リーバの目が、わずかに細まる。


(あれは、“制御不安定”の情報じゃない)


もしそれが流れているなら、接触のタイミングが合わない。


(“魔力量が低い”でもない)


それなら、あの距離感はおかしい。


(……じゃあ何だ)


リーバは、ゆっくりと息を吐いた。


(偽情報と一致していない)


つまり――レオが流しているのは、“自分たちが流した情報ではない”。

一瞬、思考が止まる。

そしてすぐに回り出す。


(……いや、こいつらは同じクラスだ。いくら偽情報を流したからといってもその意味はほとんどない。正しい情報が漏れている可能性の方が高い。)


リーバは脳内でぐるぐる考えながら視線をわずかに動かした。

訓練場の端。

目立たない位置にヘスティアとアリアがいた。


静かに立ち、ただ周りを見ている。

いつもと同じ。

何も変わらない。


(……)


だが――

ほんのわずかに視線の向きが違う。

リオの手元を見て、それから“全体”を見ているように思う。


(観察している……?)


リーバはすぐに視線を外した。


リーバは何も言わない。

ただ、いつも通りに振るまい、ボトルの中身を一口呑む。

だがその内側では、確実に次の一手が組み上がっていた。


(もう少し泳がせる)


焦る必要は、ない。


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