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第六十五話 触れてはいけない可能性

試験の合間、少し離れた場所。


「……アリア」


小さな声。ヘスティアだ。

本を閉じたまま、アリアを見ている。


「少し、いいですか」


「はい」


短く答える。


二人は人目を避けるように、少しだけ距離を取る。

ざわめきは遠い。ヘスティアは続ける。


「さっきの……再現...見ましたか」


「リオの、ですか」


「はい」


一瞬の沈黙。それからアリアは答える。


「……見ました」


「どう思いましたか」


少しだけ間。


「異常です」


アリアは、はっきりと言う。

ヘスティアの目が、わずかに揺れる。


「やはり……」


小さく、息を吐く。


「あなたも、同じ結論ですか」


「はい。彼の魔法は“安定しすぎている”」


ヘスティアはゆっくり頷く。アリアが続ける。


「普通は、崩れます。どれだけ精密でも。だから補助が必要になる。光や、制御魔法で。でも彼は——」


言葉が一瞬止まり、アリアが口を開いた。


「支えていない。いや支えていないように見えました。実際どうやってるかわかりません。」


「はい」


沈黙。


「……もう一つ」


ヘスティアが言う。


「手の甲、見ましたか」


アリアの目がわずかに細くなる。


「灰色の痣のことですか?」


「はい。その奥……魔法陣のようなもののことです。」


「やはり」


ヘスティアの声が、ほんの少しだけ低くなる。


「古代魔法陣に似ていませんか」


はっきりと告げる。

その場の空気が、変わる。

アリアはすぐに答えない。

考えている。

そして——


「可能性としては、あります」


慎重な言い方。


「ですが——断定はできません。私も実物を見たことはありません。」


「はい」


ヘスティアも同意する。


「もし本当にそうなら」


言葉を選ぶ。


「……危険です」


「はい」


アリアは短く、重い肯定をする。


古代魔法。禁忌。生贄。戦争。

すべてが頭をよぎる。ヘスティアが言う。


「ですが本人は、知らないように見えます。むしろ——普通だと思っている」


「……はい」


ヘスティアは目を伏せる。


「……だから、怖い」


その言葉は、小さい。

でも、重い。

アリアは否定しない。


「一つ、決めましょう」


ヘスティアが顔を上げる。


「はい」


「このことは——まだ、誰にも言わない」


「……はい」


「確証がない以上、混乱を招くだけです。それに」


一瞬だけ、視線がリオに向く。

無邪気に魔法を試している。


「彼は、何も知らない」


ヘスティアも見る。

そして、静かに頷く。


「……はい」


二人の間に、一つの“共通認識”が生まれる。

触れてはいけない可能性。

でも、目を逸らしてはいけない事実。


「様子を見ましょう」


アリアが言う。


「はい」


ヘスティアは小さく頷く。


「……私が見ます」


その言葉に、ほんの少しだけ“決意”が混じる。

アリアはそれに気づく。


(使命、ですか)


だが、何も言わない。

ただ一言。


「無理はしないでください」


ヘスティアは、少しだけ微笑む。


「はい」

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