第六十一話 魔法の理由と、揃わない魔力
リーバ先生にやってみろと言われたので、地面にしゃがみ込み再度魔法の跡を確認した。少しだけ地面に指を触れながら確かめる。
冷たい。
けれど——
その奥に、わずかに残る魔法の“流れ”。
「……」
僕は目を細める。
見る、というより“感じる”。
深くえぐれた焼け跡の中心。
そこだけ、熱の残り方が違う。
周囲よりも、わずかに弱い。
普通なら、中心が一番強く焼けるはず。
なのに——
(弱い)
指を少しだけずらす。
今度は外側。
こちらは逆に、強く焼けている。
(外から加えた力じゃない...中で止めてる)
次に、地面のへこみを見る。
圧力がかかったへこみ。
でも——単純なへこみではない。
所々に亀裂が入っている。そう、雷が落ちたような跡だ。
僕は雷を出した。とりあえず詠唱ごっこ。
「雷」
ガァァァン!!!
大きくえぐれた傷跡のすぐ横の地面には大きな亀裂ができた。
それから僕はすぐに水を出す。
小さく、でもはっきりとした形が地面の内側で形を作っているようだ。
そうしているうちにすぐに火を出した。強くない。むしろ弱い火だけど、さっき出した水の中に火が通る逃げない火。
地面はじんわりやけ、そのままわずかに外へ広がった。
それから最後に風。大きな圧力を地面にかけた。
そう、訓練場の地面全体が一瞬揺れるほどの力をかけた。
もうすでにみんなはずっと僕に釘付けだった。
でも僕はお構いなしに続ける。
地面は大きくへこんだ。
僕は手を引いた。
僕の作った傷跡が元の傷跡と並んだ。
うん、ほぼ同じ。
リーバ先生は何も言わない。
ただ、数秒。じっと見てから——
「……合格だ」
僕は首を傾げる。
基礎、だよね?
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リーバは小さく舌打ちする。
再現じゃねぇ。理解してやがる。
視線を全体に戻す。
当たり前だがまだ誰もここまで辿り着いていない。
誰もが解析段階だったはずだ。
いや、そもそも1人でできないと気づくのにまだまだかかるはずだった。
それなのに大きな稲妻で全員がリオに注目した。そして理解した。...1人ではできないと。
リーバはリオに聞く。
「なぜこの傷跡を選んだ?」
リオはきょとん、としてさも当たり前のように言葉を返す。
「え?だって...訓練場にある傷跡は全部で9カ所ありますよね?他の傷跡をみたら、2種で作られた魔法の傷跡が2カ所、3種で作られた魔法の跡が6カ所。それと、この4種で使う傷跡が1カ所。...2種の魔法で使うのは、雷と火の組み合わせで...他が土、光、雷と火、闇、風...
みんなが使える魔法が一種類ずつでそれぞれの魔法属性を考えると僕がこの跡を再現した方が誰も余らないし、全体的に効率がいいと思ったからです。」
少しの沈黙が流れたあと、リーバは口にした。
「...他の者にヒントを与えすぎだ。減点。」
「えっ!」
リオは「説明しろって言ったからしたのに...」と肩を落としていた。
リーバは思う。
...自分の再現した傷跡だけではなく、他のすべての傷跡も解析して、あえてこの跡を選んだのか...
普通は一つの跡の解析だけに時間がかかり他のを解析する余裕はない。...本来ならこの大きな痕跡から取り掛かった奴らは必ず再現できずに終わる。またはこの痕跡とそれに向き合った奴らだけを残してただただ日が暮れていく。
そして残った奴らがどういう行動をするのかを高みの見物をして過ごす意地悪い試験だ。
...自覚のない化け物が、1番やっかいだ。
リーバはボトルの中身を一口呑んだ。
この瞬間から——試験は変わった。
一人で解くものではなく、どう組むかの試験へ。
誰と組むか。どう補うか。
それぞれが“自分の足りなさ”と向き合い始める。
リーバはそれを見て小さく笑った。
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リオの出した雷魔法、その一撃で、空気が変わった。
誰もがリオを見る。
今まで“解析していた側”だった視線が、
一斉に“理解しようとする側”へと変わる。
「……おい、今の」
ガイアが低く呟く。
「雷……だったよな」
「うん……」
テティスが小さく頷く。
「でも、雷だけじゃ……」
言葉が途中で止まる。
全員、気づき始めている。
リオの異常さ。そして、この試験の意味。
雷で亀裂、内側で水圧、熱で拡張...最後に圧で潰す。
頭の中で分解する。
(理屈は分かる)
だが——それぞれが思っただろう。
“足りない”。
一人じゃ、足りない。
その事実がはっきりと突きつけられる。
ガイアが頭をかく。
「……なるほどな。最初からそういう試験かよ」
ヘスティアが静かに口を開く。
「複数魔法の再現……単独では不可能な構造....つまり——協力前提の試験……」
リーバは何も言わない。
ただ、ニヤリと笑う。




