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第五十七話 灰色の痣と禁忌の記録(前半)

それからテティスは何かを言いかけようとしてやめた。

そのやり取りを少し離れた席で聞いているライル。

ちらっとリオの顔を見る。

リオは確実に難しい顔をしながら困っているようだった。


ライルは小さくため息をついた後、リオに声をかけた。


「……おい」


「ん?」


リオが振り向く。


「わからないの、歴史だろ」


「うん」


「ヘスティアに聞け」


「え?」


リオは少し驚く。


「なんで?」


「一番できるからだろ」


ライルはまるでそれが当たり前かのように言う。

リオは少し考え、素直に納得する。


「ありがとう」


「別に」


ライルはぶっきらぼうに返事した。


そのやり取りが聞こえていたヘスティア。

ほんの少しだけ本を読む手が止まる。そして顔に落ちてきたピンクの髪をわざとらしく耳にかけた。

リオは立ち上がりヘスティアの方まで歩いてくる。


「……あの」


少しだけ距離を置いて止まる。

ヘスティアが顔を上げる。


「歴史、全然わからないから教えてください。」


リオはまっすぐ変に気を使わない。ただ、素直に頼んだ。


一瞬、間。


「……はい」


小さく頷く。


「ありがとう!」


リオが軽く頭を下げる。

ヘスティアはそれ以上何も言わないが、少しだけ本を閉じる手が丁寧になる。

その様子を遠くから見ているライル。

表情は変わらないがほんの少しだけ視線を逸らす。



別に。ただ、効率がいいだけだ。



自分に言い聞かせる。

サナが横から小さく笑う。


「優しいじゃん」


「は?」


「ちゃんと紹介してやって」


「別にそんなんじゃねぇ」


「はいはい」



---------------


放課後・図書室。

静かな空間に向かい合って座る二人がいた。

リオとヘスティアだ。


「どこからやりますか」


「最初から」


リオは即答した。


「……分かりました」


ヘスティアは嫌そうでもなく、ただそれが事実として認識されたような表情で淡々と教科書を開いた。


「流れで覚えてください」


「流れ?」


「点ではなく、繋がりで」


ヘスティアは指で教科書をなぞる。


「この戦役は——」


静かな説明。

分かりやすく無駄がない。


「……なるほど」


リオが小さく頷く。


「ここで補給が断たれるから」


「はい」


「前線が崩れる」


「そうです」


授業の内容がだんだん頭の中で繋がる。


「……分かりやすい」


ぽつり。


「そうですか」


変わらない声。

でも、ほんの少しだけ説明が丁寧になる。


「ヘスティアってすごいね」


「……普通です」


「いや、すごいよ」


「……」


ヘスティアは少しだけ視線を逸らして答えた。


「ただ、覚えているだけです」


「それがすごいんだよ」


「……」


何も言わない。

でもページをめくる手が少しだけゆっくりになる。


「ここ、さっきの続き?」


「はい」


「繋がった」


「……そうですか」


小さく頷く。


「ありがとう」


リオが言う。


「……いえ……役に立てたなら」


小さな声。




それからしばらく静かな時間が流れた。

窓からは夕日が差し込んでいる。

ヘスティアはふとリオを見る。

リオは真剣に教科書と睨み合いながら格闘している。

その手の甲には灰色の痣がある。


「...?」


初め、ヘスティアは痣自体は気にも止めてなかった。

この世界で傷痕が身体にある人はそう珍しくもない。

ガイアも頬にある。

しかしヘスティアはリオの痣の奥にうっすら浮かぶ、魔法陣のような模様に気づいた。


「それ...」


思わず口に出してしまう。リオが気づく。


「これ?物心ついたときにはあったんだ。」


「見ても...いい...?」


ヘスティアの目が僅かに鋭くなる。


「いいよ、気持ち悪かったらごめんね。」


リオは手を差し出す。リオは痣を見たい、という人と初めて出会ったので正直びっくりしていた。

ヘスティアはまじまじと見て小さく呟く。


「古代魔法の魔法陣に似てる...」


「古代魔法の魔法陣?」





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