第五十六話 教室の日常とリオ、ピンチに陥る?
鐘の音が学院に響く。
寮の廊下では僕とサナとライルが教室に向かって歩いていた。サナが欠伸をしながら呟く。
「……眠い」
僕が隣で質問する。
「昨日、寝れなかったの?」
ライルが横から突っ込む。
「お前、普通に寝てただろ」
「うん」
「なんで眠そうなんだよ」
「なんとなく」
「適当すぎるだろ」
そんな会話をしながら教室へ向かう。
Aクラスの教室。教室にはすでに何人か来ていた。
ヘスティアは三つ編みに編んだ髪を垂らしながら静かに本を開いている。
古代文字について書かれた本だ。
「またそれ?」
ミュシャが声をかける。
「……はい」
「飽きないの?」
「……これしか、ないので」
ヘスティアは短い返答をする。
ミュシャは少しだけ視線を落とす。
これしか、ない、ね。
ミュシャは何も言わなかった。
それから窓際に腰掛け外を見る。
「平和ね」
ぽつり。平和ね、という呟きだけが聞こえたので僕はミュシャに近づいて言った。
「そう?」
ミュシャは僕の方をみることはせずに窓の遠くを眺めて答えた。
「嵐の前は、だいたいこんなものよ」
「嵐?」
「言ってみただけ」
小さく笑う。
「……?」
僕はよく分かってない。
教室後方、ライルが一人で座っている。
手の中に小さな火。
リーバ先生から出されて合格した魔法だ。
それを見たガイアが声をかける。
「お前、またやってんのか」
「別に」
「真面目だなぁ」
「当たり前だろ」
「余裕じゃねぇの?」
ガイアの特に悪気のない質問だった。
「…余裕なんかねぇよ」
ライルは少し低くなった声で言う。
「……そっか」
ガイアはそれ以上は言わない。
そしてテティスもまた教室の隅で手のひらに水を出していた。僕はそれを見つけてまた声をかける。
「やってるね」
テティスは一瞬パッとキラキラした瞳をこちらに向けてにこっと微笑んだ。
「うん。先生にさ、次どんな課題出されると思う?
私、ちょっとだけ、不安かも」
テティスは少し笑う。
「そうなの?」
僕は本気でそうなの?と聞いた。その回答にテティスがまた少しだけ笑う。
「でも、まあ」
小さく息を吐く。
「やるしかないよね」
「うん」
短く頷く。
廊下ではレオが一人、立っている。
教室の中を見る。クラスメイトの笑い声や会話が聞こえる。
「……」
視線が止まる。
リオ。
「……」
レオは目を少し細める。
やはり、異質だ。
そうしているうちにリーバ先生がやってきた。
「何やってんだ?教室、入れよ」
レオは何も答えない。
「しんきくせーな。もうちょっと愛想よくしてみろよ。お前ら昔からの付き合いなんだってな。たまには自分から話にいけば?」
そう言いながらリーバ先生が先に教室の中へ入っていく
...愛想よく...?
自分から...話しかけて...?
レオはリーバ先生に言われたことを脳内で考えるのだった。
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静かな空気が流れる中黒板の前には教師が立っている。
Aクラスでは学科授業が行われていた。
「では、この戦役における転換点はどこか」
数秒の沈黙が流れた後、質問の矛先はアリアへ向けられた。
「アリア」
「……第三戦線の補給遮断です」
即答。
「理由は」
「前線ではなく後方を断つことで長期的に戦力を削いだからです」
「正解だ」
アリアはさらっと答えるし、周りも特に驚かない。
リオがここ数週間で感じていること。この光景はAクラスでは“普通”。
「次、ガイア」
「……地形利用っすかね」
「具体的に」
「高低差を使って魔法の威力を底上げした、とか」
「悪くない」
「……よし」
小さくガッツポーズ。
「では、この戦術を現代魔法戦に応用するなら?」
「サナ」
「んー……」
軽く考えて、
「魔力消費抑えて持久戦に持ち込む、とか?」
「簡潔でいい」
「はーい」
軽い。でも的確な答えだった。
「ヘスティア」
「……はい」
静かに顔を上げる。
「同戦役における古代魔法の使用記録は?」
「記録上は三例あります」
淡々と話し出す。
「いずれも失敗に終わっていますが、その原因は——」
止まらない。
細かく、正確に、無駄なく喋り続ける。
「……以上です」
「完璧だ」
教師が頷く。
本人は特に何も感じていない顔をしている。そしてリオが当てられた。
「リオ」
「は、はい」
少し遅れて返事。
「同戦役の名称は?」
「……すみません、分かりません」
正直に答える。
「基礎だぞ」
「……はい」
軽くため息。
サナが横で小さく笑う。
「お前、そっち弱いよな」
「うん」
僕は素直に認めた。
「なんでだよ」
「覚えられない」
「シンプルすぎるだろ」
「....以上だ」
教師が教科書を閉じると同時に一言述べた。
「——中間試験は二週間後。今のところはテスト範囲だぞ。しっかり覚えておけ。」
少しだけざわ、と空気が揺れる。
「中間試験は学科と実技だ。ともに評価する。各自準備しておけ。」
当たり前のように言う。
「……」
静かな緊張が走る中、授業が終了した。
「終わったー……」
ガイアが身体を伸ばしながら文句を垂れた。
「中間とかだるすぎ」
サナが突っ込む。
「お前は実技だけやってろ」
「それでいけたら苦労しねぇよ!しかも、実技ってなんの実技かも知らされてねぇし。」
「……」
そんな中僕は教科書を見ている。
みんなから見たら、珍しく真顔だったらしい。
「……」
ページをめくる。
「……」
閉じる。またページをめくっては、閉じる。
そして一言ぽつり。
「無理だ」
それを聞いていたサナが笑う。
「早くね?」
「いやほんとに分かんない」
「どこが?」
「全部」
「んー、全部はやばいかな」
その会話を聞いていたテティスがフォローに入った
「まぁ、ほら私たちはね...たぶん小さい頃からみんななんやかんや勉強させられてたからさ」




