第五十五話 合格祝い
テティスが合格した日の後。
全員教室に戻れとのリーバ先生からの指示があったので教室で待機していた。
「次の課題の話かな?」
テティスが少し緊張しながら言う。すぐさまサナが突っ込む。
「やだ。はやい。」
「全員、集まってるか」
低く、通る声。リーバ・ボレアス先生。
教室の入口に立っている。酒を呑みながら、もう片手には大きな手提げ袋を持っている。
「……なんだよ、急に」
ガイアがぼやく。
リーバ先生が一度見渡す。
「……全員残ったな」
短く言う。
「……はい」
テティスが少しだけ遅れて答える。
「よくやった」
それだけ。
でも、その一言は重い。
「で」
リーバ先生が持っていた荷物を教壇の机におく。
中身は軽食と飲み物だった。
「今日は解散前に一回、顔合わせだ」
「は?」
ガイアが素で声を出す。
「もうだいぶ顔合わせてるじゃん」
「“同じクラスとして”は今日が初日だ」
言い切る。誰も反論できない。
「あと」
指を一本立てる。
「お前ら、自分のことしか見えてねぇ」
空気が少しだけ引き締まる。
「Aクラスはチームだ。一人でも欠けたら意味がねぇ」
一瞬、間。
「……覚えとけ」
それだけ言う。
そして背を向ける。
「……あとは好きにしろ」
リーバ先生は去っていく。
クラスには少しの沈黙が流れた。
「……なんだよあれ」
ライルがため息をつく。
「合格祝いじゃん?」
サナが適当に言う。
「雑すぎるだろ」
そしてライルはちらっとテティスを見ながら少し笑う。
「でもまあ...集まれって言われたしな」
「……だね」
テティスは満面の笑顔になった。
少しずつ、クラスの空気が緩んだ。
テティスはテーブルの前で少し迷う。
視線の先。スピリットソーダがあった。
テティスはおもむろに手に取った。
「それ、好きだったっけ」
ガイアが横から言う。
「……前はあんまり」
「じゃあなんでそれ選んでんの?」
「……なんとなく」
小さく笑い、蓋を開ける。
しゅわ、と音がした。
一口。甘い。でも、
「……やっぱり今はすきかも」
テティスはもう一度飲み、リオの側に行った。
「……ありがと」
小さく、リオに言う。
「ん?」
「ちゃんと“ある”感じ、分かった」
「そっか」
それだけ。
でも、それで十分だった。
「……」
ライルが腕を組んでいる。
視線はリオとテティス。
「気に入らないって顔してるわね」
ミュシャが横に立つ。
「別に」
「“チーム”なんでしょ?」
「……」
ライルは何も返さない。
ただ、胸の奥が少しざわつく。
「……チッ」
小さく舌打ち。
「感じ悪いわね」
「うるせー、ほっとけ」
ミュシャが少し笑ってから言う。
「ほら、あんたのすきな飲み物とってきたから一緒に飲も。」
レオは遠くで壁にもたれて静かに周りを見ている。
「チーム、か」
小さく呟く。
誰にも聞こえない声。
その視線は、リオに向いている。
「……この最初の課題で全員残るなんて珍しいらしいですよ」
アリアがぽつりと呟く。
ヘスティアは何も言わない。
ただ、手の中の火を見つめている。
教室では笑い声。軽い会話。
でも前とは少し違う。
「チーム」
リーバ先生の言葉。
それぞれが少しだけ考えている。
テティスは周りを見る。
みんながいる。
同じ場所に。
胸の奥が少しだけあたたかくなる。
「よかったね」
隣から、リオ。
「うん」
小さく笑う。
今度はちゃんと自分の意思で。
その光景を、ライルは見ている。
レオもまた、見ている。
そして、ミュシャだけが、
「……面白くなってきたわね」
小さく笑った。




