第三十八話 初めてのクラス(8)
訓練場からの帰り道、さっきまでの緊張が嘘みたいに空気は緩んでいた。
風が気持ちよい。
誰かの笑い声が、やけに遠く感じる。
「いやー……マジで疲れた」
ガイアが大きく伸びをする。
「初日からあれはねぇだろ」
「ほんとそれ〜……」
テティスが隣で頷く。
「でもちょっと楽しかったかも!」
「お前余裕あったもんな」
「そんなことないよ〜!」
笑い合う二人。さっきまで戦っていたとは思えないくらい、空気が軽い。
「……なあリオ」
ガイアが振り向く。
「このあと時間あるか?」
「え?」
「さっき言ってたやつ。どっか寄ってくって」
「あー、それな」
サナが横から口を挟む。
「別にどこでもいいけど」
相変わらず気だるげ。だが、断る気はないらしい。
「どうする?」
「?」
ガイアがニヤッと笑う。
「せっかくだし来いよ」
「え、いいの?」
「いいに決まってんだろ」
「むしろ来い」
軽い調子。でも、それが自然で。
リオは少しだけ迷って——
「……じゃあ、行こうかな」
小さく頷く。
「よっしゃ決まり!」
ガイアが嬉しそうに笑う。
「私も行きたい!」
テティスがぱっと手を上げる。
「ね、いいでしょ!?」
「いいけど……騒がしくなるな」
サナがぼそっと言う。
「えー!?ひどい!」
「うるさいのは事実」
「むー!」
頬を膨らませるテティス。
そのやり取りに、ガイアが笑う。
「まあいいじゃねぇか、賑やかな方が」
少し離れた場所。
他のみんながその様子を見ていた。
輪の中には入らないが、ただ静かに歩く。
黄金色の目をじっと見つめてアリアは思った。
……楽しそう
一瞬だけ、そんな感情が浮かぶ。
だが——
まるで興味がないと言い聞かせるようにすぐ視線をそらす。そこに素早くミュシャが気づく。
「行かないの?」
ミュシャは少しだけ意地悪そうに笑っている。
「……何が?」
「分かってるでしょ」
顎で、リオたちの方を指す。
「お友達ごっこ」
「……興味ない」
即答。
ミュシャは肩をすくめて笑う。
「強がりの、お姫様なんだから。」
ミュシャはそのまま歩き去った。
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「で、どこ行く?」
ガイアが言う。
「食堂?街出るか?」
「街は遠い」
サナが即答。
「めんどい」
「じゃあ食堂だな」
「安直だね〜」
テティスが笑う。
「でもお腹すいたし賛成!」
「リオは?」
「え、あ、僕もそれでいいよ」
流れに乗る。それだけなのに、少しだけ楽しい。
「……」
その後ろを黒ずくめのレオが少し距離を空けて歩いていた。
誰にも気づかれない距離。
視線だけが——
リオを追っている。
「……」
小さく、呟く。
「灰色……」
「ほら行くぞー!」
ガイアが手を振る。
「置いてくぞ!」
「ちょ、待って!」
リオが小走りで追いつく。その隣に、サナ。
少し後ろに、テティス。
騒がしくて、まとまりがなくて。
でも——
どこか心地いい距離。
……なんか
リオは、少しだけ笑った。
胸が熱くなる。




