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第三十七話 初めてのクラス(7)

リーバ先生が去った瞬間、張り詰めていた空気が、一気にほどけた。

風が抜け、静寂が戻る。




「っはぁ……!」


ガイアがその場に座り込む。


「なんだよあれ……反則だろ……!」


額の汗を拭いながら、息を整える。 


「見えねぇし、速ぇし、重ぇし……!」  



「ほんとだよ〜……」


テティスも水をポタポタさせながらその場にへたり込む。


「途中から全然追いつけなかった……」


悔しそうに笑うが、その目はどこか楽しそうでもある。




「チッ……」 


ライルが舌打ちする。

まだ立っている。

だが、呼吸は荒い。


「……クソが」





「……」

金の髪をなびかせながらアリアはへたり込んで何も言わなかった。

自分の手を見る。


絶対に当てた……でも、届いてない...



そして、ゆっくりと視線を上げる。

リオを見る。


「……なんで」


小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。




「いやー……すごかったな今の」


ガイアが立ち上がりながら笑い、そのまま、リオの方へ歩いていく。


「お前さ、何者だよマジで」


肩を軽く叩く。


「最後のあれ、意味わかんねぇって」


その後ろから、テティスも駆け寄ってくる。


「ねね!どうやったの!?見えてたの!?」


碧い目を輝かせながら、ぐいっと距離を詰める。


「すごかったよリオくん!」


「え、いや……」


リオは少し困ったように笑う。


「見えては、ないけど……なんとなく……」


「なんとなくであれ!?」 


ガイアがツッコむ。 


「いや無理だろそれ!」 


「でもほんとに……」


説明できない。感覚に頼っている部分が多い。



その少し後ろ。


「……やるじゃん」


サナが気の抜けた声で言う。

ポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくり歩いてくる。


「思ってたよりずっと変」


褒めているのか分からない言い方。

だが、その目はほんの少しだけ細められている。


「……あんた」


一拍。


「普通じゃないな」


あまりにも自然に言い切った。

偏見も、驚きもない。

ただの事実みたいに。

リオは少しだけ戸惑う。


「え……そうなのかな」 


「そうだろ」


即答。 


「じゃなきゃあれできないって」 


興味はある。

でも深くは踏み込まない。

そんな距離感。




——その時。

「……」

空気が、わずかに変わる。

静かに、一人の影が近づいてきた。

あの黒ずくめの男の人だ。

足音は小さい。

気配も薄い。

だが——

確実に、“そこにいる”。

リオの前で、止まる。


「……」


無言。

ただ見ている。

その目は何も映していないようで、確かに、リオを“見ている”。


「……あの?」


リオが戸惑って声をかける。

反応は、少し遅れて返ってきた。


「……さっきの」


低い声。


「お前のか」


「え、うん……」


一瞬、何が?と聞きそうになったけど、突然のことで返事をするくらいしかできなかった。


「……そうか」


それだけ。

だが、その人の視線が、ほんの一瞬だけ深くなるのがわかった。


「……レオだ。」


何かを言いかけて——やめる。

代わりに、小さく呟く。


「……お前の名前、覚えておく」


その言葉だけを残して、すっと、去っていく。




「……なにあれ」


ガイアが小声で言う。


「初めて見たぞ、あいつが人に話しかけるの」


テティスも小さく頷く。


「ね……ちょっとびっくりした」


サナは興味なさげに肩をすくめる。


「珍しいもん見たな」


少し離れた場所でミュシャとヘスティアがそれを見ていた。


「……へぇ」


紫色の目を細め、リオを見る。


「面白いのがいるじゃない」

誰にも聞こえない声でミュシャは呟いた。



ヘスティアはただ、ピンクの髪を揺らしながら持っていた本に何かを書き込んでいた。



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