第三十六話 初めてのクラス(6)
「——“灰色”」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が、変わった。
リーバ先生の立ち姿がわずかに沈む。
重心が落ちる。
それだけで——
場の“質”が変質した。
「いいねぇ……」
低い声。
さっきまでの軽さが、消える。
「じゃあ、もうちょい上げるぞ」
ゾクッ——
全員の背筋に、同時に悪寒が走った。
「ちょ、待てよ……」
ガイアが顔を引きつらせる。
「さっきのでも十分ヤバかっただろ……」
「さっきのは、3割しかだしてない。」
リーバ先生は笑う。
その目は——完全にリオだけを見ている。
「こいつの力がどれまでなのか見たいだけだ」
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——消えた。
そう見えた。
次の瞬間。
「——っ!?」
リオの視界の“内側”に、リーバ先生がいた。
速い——じゃない。“距離がない”!?
拳が来る。
避ける——
間に合わない。
いや、違う、来る前に——
身体が勝手に沈む。
ギリギリで、拳が頬を掠める。
——ドゴォッ!!
後方の壁がふきとんだ。
え?入学したての学生に向ける力?
下手したら死んでない?
てか壁壊していいの?誰か嘘だと言って?
僕は血の気が引いた。
「……避けるか」
すぐ横から声。
もう次が来ている。
蹴り。
横。
上。
下。
——連撃。
見えない。でも——
分かる。
“来る場所”が、先にズレる。
リオの身体が、紙一重で動き続ける。
スッ、スッ、スッ——
全部、かろうじで当たらない。
「……は?」
ライルが呟く。
「なんだよ、あれ……」
「……人間の動きじゃない」
リーバ先生の笑みが深くなる。
「いいねぇ……!」
速度が上がる。さらに。
——ドンッ!!
初めてリオの腕が弾かれた。
「っ……!」
重い一撃。
今までの“見えない攻撃”とは違う。純粋な拳の力。
「避けるだけじゃダメだぞ?」
すぐ次が来る。
…受ける?
直感。無理だ。
なら——
その瞬間、リオの中で、“何か”が静かに動いた。
色がない、ほとんど見えない攻撃。
ただ——
“そこにある”。
無意識に、手を前に出す。
リーバ先生の拳が、そこに叩き込まれる。
——ドンッ!!
「……止めた?」
リーバ先生の目が、わずかに開く。
リオの手の前で、拳が止まっていた。
正確には——
“止められていた”。
「……お前」
リーバ先生が低く呟く。
次の瞬間。
さらに力を込める。
——バキッ!!
空気が軋み、重圧を受ける。普通なら、吹き飛ぶ。
だが——
「……っ!」
リオは、そのまま押し返した。
「なっ……!?」
ガイアが声を上げる。
「押し返したぞ今!?」
ライルの目が見開かれる。
リーバ先生が、はっきりと笑った。
「最高だな」
本気の顔。次の瞬間、また踏み込む。
今度は、本気の一撃。
避けられない。
防げない。
リオが、剣を手を触れる。
その瞬間、その一撃は目の前でぴたりと止まった。
「……ははっ」
リーバ先生が笑う。
「やっぱりか」
ゆっくりと拳を下ろす。
「もういい」
それだけでら空気が、元に戻る。
張り詰めていた圧が、一気に消えた。
「……お前ら全員最高だ。良い素材だ。」
視線は——
リオへ。
「特にそこの少年」
ニヤリと笑う。
「お前は...“化け物側”だ」
その一言で、Aクラスの視線が、全てリオに集まった。
尊敬でも、恐怖でもない。
まだ名前のつかない感情。
ただ一つ確かなのは——
“同じではない”という事実。
リオは、ただ立っていた。
手の痣がピリピリと傷んだ。




