第三十五話 初めてのクラス(5)
「ここからが本番だ」
リーバの口角が上がる。
次の瞬間——
ヒュンッ!!ヒュンッ!!ヒュンッ!!
数が、増えた。
さっきまでとは比べものにならない。
全方位。
死角。
速度も段違い。
「っ……!?」
「チッ!!」
ライルが詠唱した後踏み込み、炎を一気に拡張。
ドォォッ!!
周囲を焼き払うように展開する。
その展開の大きさはかつて孤児院で見た時よりも威力が増しているように思う。
「全部まとめて——」
——その瞬間。
何かに“抜けられた”。
「なっ——!?」
炎の隙間を、正確に突かれる。
——ドンッ!!
衝撃。
「ぐっ……!!」
吹き飛ばされる。
地面を転がり、なんとか受け身を取る。
見えてるのに……間に合わねぇ!
歯を食いしばる。
「任せて……!」
テティスが水を展開する。
今度は防御だけじゃない。
流れを作る。
攻撃を逸らすように、水流を操作する。
だが——
——バシュッ!!
「えっ……!?」
一点。
正確に“弱い場所”を撃ち抜かれる。
水が崩壊する。
「きゃっ……!」
体勢を崩す。
「……そこ!」
アリアは2人が戦っている間に時間を稼いでいたようだ。連射で光を放つ。
閃光が連続で走る。
——ギィン、ギィン!!
何度かは当たる。
だが——
「甘い」
軌道を読まれる。
死角からの一撃。
——ドンッ!!
「っ……!」
膝をつく。
息が乱れる。
強い……!
「ははっ、やべぇなこれ!」
ガイアが笑いながら、土を連続で展開する。
壁、盾、足場。
防御しながら詠唱し、距離を詰めようとする。
だが——
——ガガガッ!!
連続で砕かれる。
「マジかよ!」
防ぎきれない。
一撃一撃が重い。
——ドンッ!!
「ぐっ……!」
吹き飛ぶ。
「……めんど」
サナは最小限で避け続ける。
一歩、半歩。
流れに合わせる。
だが——
ヒュンッ!!
数が増える。
「……あー」
わずかに遅れる。
——ドンッ!!
「っと」
直撃は避けたが、弾かれる。
「さすがに多いか」
それでも、まだ余裕はある。
「……」
先ほどの黒ずくめの男の人。
やっぱり動かない。
——ヒュンヒュンヒュン
リーバ、あ、いや、リーバ大先生が複数同時に攻撃を放つ。
だが——
“当たらない”。
空間が歪む。
距離が消える。
だが次の瞬間。
「……」
ピタリ、と止まる。
一撃だけが——
“残った”。
——ドンッ
「……」
わずかに体が揺れる。
初めての“被弾”。
それでも表情は変わらない。
「はぁ……」
ミュシャが舌打ちする。
雷で加速。
避ける、避ける、避ける——
だが。
「数、多すぎ」
一瞬の判断ミス。
——ドンッ!!
「……チッ」
後方へ弾かれる。
すぐに体勢を立て直すが、完全ではない。
むしろ後方へ弾かれた衝撃でさらにやる気をなくしたようだ。木の上にサッと飛んで傍観している。
「……」
ピンクの髪のヘスティアは自分に向かってくる攻撃を炎で焼く。消す。
自分には触れさせない。
だが——
「……無理」
ぽつり。
数が上回る。
——ドンッ!!
小さく吹き飛ぶ。
炎は消えないが、体は耐えきれない。
——そして。
全員が、一度崩れた。
立っている者もいる。
だが、“余裕がある者”はもういない。
ただ一人を除いて。
「……」
リオ。
呼吸が静かに整っている。
速い。多い。でも——
見える。
いや。
“分かる”。
来る前に。
空気の歪み。
流れのズレ。
そこ
一歩、避ける。
次
半歩、こっち。
身体が、勝手に動く。まるで“全部知っているみたいに”。
「……なんだそれ」
リーバ先生の声が、初めて低くなる。
興味から——確信へ。
「見えてんのか?」
「……見えては、ないです」
リオは正直に答える。
「でも……なんか、分かる」
そう、速さでいえばヴァルクと同じくらいなのだ。
その瞬間。
ヒュンッ——!!
さらに速い一撃。
今までと違う、明確な“狙い”。
来る、ここ。
手を伸ばす。
——パシッ
「……は?」
誰かが、呟いた。
リオの手が。“それ”を止めていた。
見えないはずの一撃を正確に掴んでいた。
やっぱり、仕組みはわからないけど風で作られた“攻撃”だ...。
空気が、凍る。
「……マジかよ」
皆が息を呑み言葉を失った。
ライルの目が見開かれる。
サナだけが、少しだけ目を細めた。
「……あーあ」
小さく呟く。
「やっぱそっち側か」
リーバ先生が、ゆっくりと笑う。
今までで一番、楽しそうに。
「いいねぇ」
ゾクッ、とするほどの圧。
「やっと出てきた」
その視線は、完全にリオだけを見ている。
「——“灰色”」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が、変わった。




