第三十四話 初めてのクラス(4)
「——始めるぞ」
リーバの声が静かに落ちた。
次の瞬間。
ヒュン——
空気が裂ける音。
「っ……!?」
リオの背筋が反応する。見えない。
なのに、“来る”のだけは分かる。
「来たッ!」
ガイア・ブラッカー——赤褐色の肌にお似合いの土属性。
地面を強く踏み込み詠唱した瞬間、足元から魔力が流れ込む。
ゴゴッ——!!
地面が盛り上がる。
瞬時に形成されたのは、厚い土の壁。
ただの壁じゃない。
層になっている。
圧縮され、叩き固められた“防御の塊”。
——ガンッ!!
見えない何かが直撃する。
衝撃で表面が砕けるが、貫通はしない。
「っぶねぇ……!」
ガイアが歯を見せて笑う。
「見えねぇ攻撃とか反則だろ!」
防ぐ。真正面から受け止める。
それが“土”の戦い方。
「……ガイア、土こっちに飛んでる。」
黄緑色の髪のサナ・アルヴェイン——おそらく風属性だろう。
彼は一歩だけ、横にずれる。
それだけ。
——彼に向かって放たれた“何か”は彼には当たらない。
まるで、最初からそこに攻撃が存在していなかったかのように。
風が、彼の周囲を自然に流れる。
防御でも、回避でもない。
“流れに合わせている”。
「なんか、空気が変なとこ動くんだよな」
気の抜けた声。
だが、その感覚は——本質を捉えている。
「ちっ……!」
ライル・アルファード——火属性。
詠唱した後強く踏み込み、腕を振る。
ドォッ!!
炎が爆ぜる。
だがそれは単なる放出じゃない。
渦を巻く。
流れを読み、そこに叩き込む。
——バシュッ!!
炎の中で、何かが弾ける。
「そこか……!」
“当てにいく”火。
攻撃に特化した魔法。
だが——
「甘いな」
別角度から、ライラを狙って次が来る。
「っ——!」
反応がわずかに遅れる。
「任せて!」
そう言ったのは最初に声をかけてくれた水色の髪の女の子。
テティス・フォンティーヌ——水属性。
彼女が詠唱すると手元に水が集まる。
球体。
だが、その内部は高速で循環している。
ギュン、と密度が上がる。
「えいっ!」
前に突き出す。
水が、膜のように広がる。
——ドンッ!!
衝撃を受け止める。
水が大きく歪むが、破れない。
柔らかく受けて、逃がす。
それが“水”の防御。
「ライルくん大丈夫!?」
「助かった……!」
「……来る」
アリア・ルミナ——光属性。
王家の血筋と噂の子。
目を閉じる。
集中して唱える。
光が、彼女の指先に集まる。
細く、鋭く。
まるで一本の針。
……一点集中
リオが息を呑む。
「——そこ」
開眼。
同時に放つ。
——ギィン!!
空中で何かが弾かれる。
一瞬だけ、“軌道”が見える。
正確。
だが、余裕はない。
「……外してないのに」
小さく呟く。
全身黒ずくめの人。
「……」
おそらく闇属性。
彼は動かない。ただ立っているだけで積極的に攻撃はしてないように見える。
だが、影が、濃くなる。
周囲の光が、わずかに沈む。
——ヒュン
攻撃が直撃する軌道。
だが“届かない”。
空間が、歪んだように見えた。
いや——
“距離”が消えた?
……何もしてない、のか?
違う。
何かが起きている。
だが、それを“認識できない”。
「遅い」
感情のない声で呟いた。
「はぁ……」
ミュシャ・ヴァルドリエル——雷属性。
紫の目の美少女はため息と同時に、体が動く。
最小限。
無駄がない。
バチッ——
足元に一瞬、雷が走る。
加速。
瞬間的な速度強化。
——ヒュン
攻撃が通り過ぎる。
「単調ね」
経験で見切る。
そして雷で補強する。
それが彼女の戦い方。
「……そこ」
ライルと話していたピンクの髪の女の子。
ヘスティアと呼ばれていた彼女もまた火属性のようだ。
小さく呟く。
手の中の炎が、細く伸びる。
糸のように空間に触れる。
——ジュッ
“焼けた”。
見えない何かが、確かにそこにあった証。
その炎は消えない。
揺らがない。
普通の火じゃない……
リオの背筋が冷える。
そして——
「……っ」
リオ。
リオは攻撃を見て、理解する。
火、水、土、風、光、闇、雷。
それぞれが違う。
それぞれが強い。
じゃあ、俺は——
その時。
ヒュン——!!
来る。
今までで一番速い。
…そこ!
体が勝手に動く。
手を伸ばす。
触れる。
“何か”に。
「……っ!?」
確かな抵抗。
掴めない。
だが——
“触れた”。
「ほう……」
リーバの目が、明確に変わる。
「灰色、ね」
ぽつりと呟く。
その声だけ、少しだけ低かった。
——その瞬間。
空気が、変わる。
ヒュン、ヒュン、ヒュン——!!
数が増える。
全方位。
「ちょ、増えてるって!!」
ガイアが叫び、リーバが笑う。
「ここからが本番だ」
その視線は——
完全に、リオを捉えていた。




