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第三十二話 初めてのクラス(2)

「お前ら全員、魔法準備しとけ」


——その一言で。

教室の空気が、重く沈んだ。

さっきまでのざわめきは、完全に消えている。

窓から差し込む光さえ、どこか遠く感じるほどの静寂。

誰も動かない。

だが——全員が、“内側”で何かを解き始めていた。

じわり、と。


目に見えないはずの魔力が、確かに満ちていく。

息が詰まる。

重い。


空気が、粘つくように肌にまとわりつく。


……これが、Aクラス


リオは無意識に息を飲んだ。

一人一人が、明らかに“普通じゃない”。


「……はっ」


小さく笑ったのは、ライルだった。

その瞬間、赤い揺らめきが、彼の周囲にふっと現れる。

炎。

ただの炎じゃない。

意思を持っているように、ゆらりと形を変える。

その熱が、教室の温度をわずかに押し上げた。


「面白ぇな」


ガイアが肩を回す。

足元の床がミシ、と音を立てた。

力任せじゃない。

抑えているのに、漏れている。

そんな感覚。





「えへへ……なんかドキドキするね!」


テティスが笑う。

その声とは裏腹に、彼女の周りには透明な水が静かに集まっていた。おそらく彼女は水魔法に特化しているようだ。

音もなく、ただ、確実にその密度は軽く触れただけで切れそうなほどに研ぎ澄まされている。


「……」


講堂で見かけた金髪の女の子ー...たしか、アリア、は何も言わない。

ただ、静かに祈っている。

光が、集まる。

柔らかいはずの光が、針のように細く、鋭く収束していく。


その横顔は整っていて——どこか張り詰めていた。


そして教室の隅。


「……」

ただ立って壁にもたれかかっているだけの人がいた。

別に何も話していない。

全身真っ黒なローブに身を包み、口まで覆っている。髪も目も黒色だった。

そしてその周囲だけ、わずかに暗い。

影が、濃い。


……なんだ、あれ


見ているだけで、感情が削られるような感覚。

リオは思わず目を逸らした。


「……めんど」


先ほどの黄緑色の髪の毛のイケメンが気だるげに呟く。

その瞬間。

カーテンが、ふわりと揺れた。

それだけ。

何も起きていないようで——確かに“何かが動いた”。

自然すぎて、逆に不自然なくらい。


あとそれに加えて他の教室にいる2、3人もパチパチと今にも魔法を繰り出そうとしている。

全員が、揃っている。

それぞれが、違う。

それぞれが、“おかしい”。

そして——


「で?」


リーバの声。


「お前はどうすんだ?」


視線が、一斉に集まる。

リオへ。

空気が、さらに重くなる。


期待。

疑念。

好奇心。

全部が混ざった視線。


「……あ」


リオは、手を見た。


…どうする


出せる。

でも——

どこまで出せばいいのか、わからない。

“普通”がわからない。

だから。

ほんの少しだけ、出そうとした——

その瞬間。


「——やめとけ」


低い声。


ピタリ、と全てが止まる。

リーバだった。


「教室、壊れるぞ」


——沈黙。

誰も、意味がわからない。


「……は?」


ガイアが眉をひそめる。


「何言ってんだ?」 


だが——

リーバだけは、笑っていなかった。

じっと、リオを見ている。


「……お前」


小さく、呟く。 


「面白ぇな」


その一言で教室の空気が、さらに一段階変わった。


--------------------


外出ろっつっただろ、と舌打ちするリーバの指示により、実力を試す時間というのやらは場所を移動することになった。


廊下に出た瞬間、空気が変わる。

さっきまでの“閉じた圧”が、少しだけ抜ける。

だが、それでもAクラスの面々が並んで歩くだけで周囲の生徒たちは自然と道を開けていった。


ひそひそとした声。

向けられる視線。

畏れと、興味。


……やっぱり、違うんだな


このクラスの子たちはどことなく、髪の色や目の色が他のクラスより濃かったり輝いたりしている。もちろん、魔力も。


リオがそう思った、その時。


「おい、寝るなって」


軽く肩を小突く音。

振り向くと、ガイアが先ほどの黄緑の髪の男の人に呆れたように笑っていた。


「……起きてる」


気の抜けた声で返す男の子。

欠伸を噛み殺しながら、ゆるい足取りで歩いている。


「どう見ても寝てただろ今」


「目閉じてただけ」


「それを寝てるって言うんだよ」


ガイアが笑う。


その人は面倒くさそうに目を細めた。


「細かいな……昔からそうだっけ」

「そうだよ。お前が適当すぎんの」


軽口。

間髪入れないやり取り。

言葉に遠慮がない。

——ああ、これは。


……仲いいな


リオは素直にそう思った。


「なあ、終わったらどっか寄ってくか?」


ガイアが気軽に言う。


「んー……いいけど」


「じゃ決まりな」


「勝手に決めんな」


言いながらも、その人は特に否定しない。

そのまま二人で歩いていく。

肩が触れるくらいの距離で、自然に、当たり前みたいに。


…いいな、ああいうの


リオは少しだけ、そんなことを思う。

その時、その黄緑色の髪の男の人がふと、リオの方を見た。


「……ん?」


一瞬だけ視線が合う。


「初めて見る顔」


ぼそっと呟く。


「名前なんていうの?」


「あ、うん……リオっていうんだ」


「へぇ」


それだけ言って、すぐに視線を外す。

興味がない、というより。

深く踏み込まない距離感。その美青年は一言だけ言う。


「サナだよ」


名前だけ、短く告げる。


「よろしく」


「……よろしく」


それで会話は終わり。

ガイアが横から口を挟む。


「こいつこんなんだけど、悪いやつじゃねぇから。ほら、ここの学院貴族多いだろ?ほとんど顔見知りみたいなもんなんだ。サナは人見知り!」


「余計なお世話」


「事実だろ」


軽く笑い合う二人。

やっぱり、どう見ても——

普通の親友だった。



その横を、すっと一人の影が通り過ぎた。

「……」

黒。

ただ、それだけの印象の人が僕の前を歩いた。

先ほど教室の隅にいた全身黒ずくめの男の人だ。

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