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第二十九話 学院長からのお呼び出し(1)

学院の中央にそびえる塔。

僕は今学院長室の前にいる。


石造りの高い塔の壁には複雑な紋様が刻まれ、淡く光っている。


中に入ると螺旋階段がずっと上まで続いていた。


僕は階段を登りながらずっと考えていた。

何か試験でしてはいけないことでもしてしまったのか?

やっぱり合格は取り消し、と言われるんだようか?


不安でよくない考えがぐるぐると頭を巡らす。


そうしているうちに最上階についてしまった。重い扉の前に立つ。僕は胸をドキドキさせながら扉をノックする。


コンコン。


「入りなさい。」


落ち着いた声が返ってきた。僕は扉を押した。

そして思わず立ち止まった。


学院長室は、普通の部屋とは全く違っていた。

天井はとても高く、二階分ほどある。

壁一面の本棚。まるでヴァルクの家に初めて入ったときみたいだった。

でもヴァルクの家よりももっと本の数は多く、天井までぎっしり詰まっていた。

そしてその本のいくつかは――宙に浮いている。

ページが勝手にめくれている本もある。


机の上では羽ペンがひとりでに動き、紙に文字を書いていた。


部屋の中央には巨大な水晶球。


中で雲のような魔力がゆっくり流れている。


窓は床から天井まで所々あり、そこから学院の景色と空が見えた。


時間の流れが違うのだろうか。

それとも魔法でそうしているのだろうか?わからないけれどその窓から見える空は青空をうつしたり、夜になったりとくるくると時間が変わり、今は夕焼けで部屋を金色に染めている。


……すごい。


思わず見回す。


「面白い部屋だろう?」


声がした。

机の向こうに、あの試験官――学院長が座っていた。


銀色の髭を整えた初老の男。

穏やかな雰囲気だが、目だけは鋭い。


「君がリオだね。」


「は、はい。」


学院長は椅子を指した。


「座りなさい。」


僕は言われた通り座る。学院長は少し僕を見てから言った。


「Aクラス、おめでとう。」


「ありがとうございます。」


でも正直、まだ理由がわからない。

学院長は机の上で手を組む。


「君を呼んだ理由は二つある。」


「二つ?」


「一つは君の魔法についてだ。」


やっぱりそれか。学院長は聞いた。


「あの!僕は何もズルしてません!だから合格を取り消さないでください!」


僕が一息でいいきると、学院長は少し驚いて笑った。


「もちろん、わかっているし取り消すこともない。...君は試験で詠唱をしたか?」 


「してないです。」


「魔法陣は」


「使っていません。」


学院長は頷いた。


「やはり。」


そして次の質問。


「魔力干渉は使ったか?」


「……え?」


僕は首をかしげる。 


「魔力干渉?」


聞いたことない。


「使ってないと、思います。それって何ですか?」


学院長は静かに説明する。 


「魔力干渉とは、周囲の魔力の流れに自分の魔力を触れさせ、影響を与える技術だ。」


「影響?」


「魔法を弱めたり、逸らしたり、消したりできる。」


...ちょっと難しすぎて理解できない。

ヴァルクもそうだけど、みんな僕を大人だと思っているのかな?

それとも僕の理解力が同年代と比べて著しく乏しいのだろうか?


疑問で頭がいっぱいの僕をみかねてか、学院長は椅子に少し深く座り直すと机の上に置かれた羽ペンを指差した。


「リオ、魔法というものは基本的にこうやって使う。」


学院長は指先を軽く動かす。

すると羽ペンがふわりと宙に浮いた。


「今私は自分の魔力だけを使って、この羽ペンを動かしている。」


羽ペンはゆっくりと回転し、また机の上に戻った。


「これが普通の魔法だ。」


僕は頷く。


「自分の魔力を外に出して、魔法を作る。」


「はい。」


学院長は続ける。


「だが、魔力干渉は少し違う。」


学院長は今度は机の上の水晶球に手を向けた。

すると水晶の中で流れていた魔力が、ゆっくり形を変えた。


「この部屋には、目には見えない魔力が常に流れている。」


僕は目を細めて周りを見る。


……確かに、なんとなく空気が揺れているような気がする。


学院長は言う。


「普通の魔導士は、自分の魔力だけを使う。」

「だが魔力干渉は――」


学院長は指を一本立てた。


「周囲にある魔力や、他人の魔力に触れて動かす技術だ。」


「触れる……?」



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