第二十七話 王立魔法学院入学試験(5)
魔物はまるで見えない壁にぶつかったように止まっては、空中でわずかに苦しんだ。
「……は?」
ライルは何が起きたかわからなかった。
次の瞬間、魔物の体がスッと消えるとほぼ同時にライルの詠唱していた炎が魔物のいたところに向かって空を舞う。ライルが目を見開く。受験者たちが呆然とする。
「き、消えた?」
「倒したのか?」
試験官が声を上げる。
「そこで終了だ!」
狼が完全に消える。そして試験官が説明する。
「今の魔物は幻影魔法だ、魔物が致命傷を受けた段階で消える仕組みになっている」
受験者たちは安堵の息をつく。
「よ、よかった……」
ライルは眉をひそめる。
「……おかしい」
彼は周囲を見渡す。
「俺が当てる前に消えた。」
その言葉が聞こえていた試験官たちは顔を見合わせた。
初老の試験官だけが静かにリオを見ていた。
今のは……
彼は確信していた。
魔法ですらない、純粋な魔力干渉……
ライルの視線がゆっくりと僕に向いた。
「……おい」
その目は鋭い。
「今、何かしたか?」
僕は慌てて首を振った。
「え?してないよ」
ライルはじっと僕を見る。その言葉を疑うように。でも、何も証拠はない。
ライルはしばらく黙ったかと思うとさっさと背を向けて帰る支度をし出した。
そんな2人を遠目に初老の試験官が小さく呟いた。
「……合格だ。」
その目は完全にリオを見ていた。
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「……ライル」
リオが呼ぶ。
ライルの足は止まらない。
「久しぶりだね」
明るい声。昔と変わらない。
ライルの足が一瞬だけ止まる。
でも、短く吐き捨てる。
「……別に。久しぶりでもなんでもねぇだろ」
「え?」
リオが少し首を傾げる。
「同じ孤児院にいただけだ」
「……」
「それ以上でも以下でもない」
淡々とした声で、線を引くように。
「……そっか」
リオは少しだけ考えて、
それでも、笑う。
「でも、また会えてよかった」
その言葉にライルの肩が、ほんのわずかに強張る。
「……俺が昔お前をからかってたの、忘れたのかよ。」
振り向かないまま言う。後ろでリオの声が聞こえる。
「でも、昔のことだから。今は別に何も思ってないよ。」
沈黙。
風が通る。
試験場のざわめきが、少しずつ遠ざかっていく。
ライルはすぐに背を向け苛立ちまじりに低く言う。
「……そか。お互い、合格してるといいな。」
今度こそ、歩き出す。
「うん、また会えるといいね」
リオの気配はだんだんと遠ざかった。
ライルはリオの声を頭で反芻していた。
今は別に何も思ってないだと?
...また会えるといいねだと?
なんで、あいつはそんな風に言えるんだ?
胸の奥がざわつく。
でも、止まらずそのまま歩き出す。
昔のことを掘り返して「あのときはごめん」と言えない自分の幼さと、罪悪感、自分への苛立ちと、あいつの違和感
言葉にならない何かがライルの胸を締め付けた。




